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インフォーマル・パブリック・ライフ フェス初体験記

 不意なことから、福井駅前の公園で何かを売ることになった。
『ONE PARK FESTIVAL 2024』という今年で5回目のイベント会場の
無料で入場可能なエリアで、である。

いわゆる“フェス”初体験。
同級生の中にも(つまり、若者ではない)和モノの音楽フェスに
毎年のように参加したり、年に数回も休日をそれにあてたりしている友人がいるが、
基本的に屋外よりインドア派の私には、
その魅力がイマイチぴんと来ていなかった。

けれど今回、夏はじまりの頃のお誘いであったし、
誘ったのは195の生徒で、具体的なことはまだ何もわかっていない風。
(つまり断るきっかけすらない)
野外フェスといえば、そこでのおしゃれスナップをスマホで見ることはあっても
未体験では、そんな記事の理解も浅いと思われ、
これは乗ってみるか?と自分の意識を持っていくと、
なら、今制作中のこのイメージでいくかな、とか
思考が流れていく。(気分とは、実に面白いものだ)

暑き日本の今年の8月。私は意外にも少し忙しかった。
そんな時こそ、予定より早く制作は進み、
読みたい本が数冊溜まっていたので、
5年ぶりにそれぞれの移動を“青春18切符”にした。
移動中に分厚い本を読むのが、大好きなのだ。

この切符をよくご存知の方は知ってのとおり、
「なぜ5個」なんだろう。
三ケ所の往復には、ひとつ足りないではないか!
福井からの帰りは、そろそろ私でも疲れているだろうと
最近開通した北陸新幹線にしてもいいな、と
思っていたら。
その前の佐賀からの広島帰りが巨大台風と重なり、新幹線を選んだので、
夏最後の広島⇔福井が鈍行・読書旅となったのである。

さてテーマの『インフォーマル・パブリック・ライフ』。
今回のお供に選んだ本のタイトルである。
幼少時から、なぜかパリに憧れていた私は、
“カフェ”に関する本を数多く読んできた。
その中でダントツに、広く深くパリのカフェのことが書いてあり、
まるでフランス映画のように、
人生そのものの愉しみまで感じさせるような
『カフェから時代は創られる』の著者 飯田美樹氏の待望の二冊目である。

パリといえばなぜカフェなのか。
パリでは公園でのんびりしているだけで、なぜあんなに幸福なんだろう。

なぜオスカルは、守られたベルサイユからパリの居酒屋(たぶんあれはカフェ)に出向い
て“市民の今”を感じたのだろう。
今日パリへ着いたばかりの明らかにアジア人顔の私にフランス語で「今何時?」って聞く
んだろう。
まだ階段が多かったパリの公共の場所では、スーツケースを持とうとするとどこからとも
なく男性がやってきてふわっと持ってくれるんだろう。
なぜカフェにひとりでいると、必ず隣の人が話しかけてくるんだろう。
なぜ公共の扉では、次に来る人が見えるところに居る限り“持って待っていてくれる”んだろう。

つまり、誰ひとり知り合いのいないパリにいても
ひとまずアパルトマン(当時の私のは屋根裏部屋)を出ると、
必ず誰かと交流があるパリ。
それは、パリ自体が、インフォーマル・パブリック・ライフであるからなのだ。
そのパーツのひとつが、カフェであり、公園であり、解放された美術館である。
もちろん、メトロなんかで移動しない貴族や富裕層のパリも別にあるだろうけれど、
まったくお金がなくても、
または無いからパリをぶらついているからこそのあの自由な雰囲気。
“自由”は革命で市民が勝ち取ったものであり、
今年のオリンピック・パラリンピックの開会式で十分に魅せてくれた。
いまだけ、誰かのためにだけ作られたものはなく(そんなのがあろうものなら暴動が起こる)、歴史の上で作られてきたパリは、市民のものなのだ。

ある人物とは、
ひとりの人生とは、
複合した時間と思考の具現化であり、
熱量は多い程ユニークで面白く、
人を真ん中において、
会話が大事であり、
周囲との繋がりや繋がり方そのものが
人生なのだ。

そんな本を読みながら到着した
福井駅前のONE PARK FESTIVAL2024。
音楽フェス初心者でも、こんな駅前(それも新幹線が止まる駅) で、
街と自由に行き来しながら、アーティストとの時間を共有して、
食べ物・飲み物を手にしながら、
踊りたいときは踊って、歌って、
いいな~って思った。
子供も赤ちゃんもおばあちゃんも。
何も気にせず(まあ、ちょっと暑かったけれど)
のんびりできる。
初めて出会った多くの福井の方たちは、とてもゆったりと豊かに暮らしているように見えた。
誘ってくれた生徒は、主催の方の思想が好きならしく、
そのためか集まるアーティストは実に豪華。
ステージの方へは、今回はあまり行けなかったけれど、

数日私の頭にいっぱいの『インフォーマル・パブリック・ライフ』は、
ここにもあるな~と、
実にいい気分の夏の終わりの出来事となった。

33度がちょっと涼しく感じるという、異常な暑さの夏も
いつか懐かしいと思うときが、来るのかもしれない。

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