野口恒生

off timeは読書、映画・美術鑑賞、 詩作。本は「ブクログ」に、映画は「Filmarks」に。好きな絵:フラ・アンジェリコ『受胎告知』、バーン・ジョーンズ『黄金の階段』ホッパー、ワイエス、ラファエル前派、後期印象派の作品等。 #詩 #本 #映画 #美術 #野口恒生

野口恒生

off timeは読書、映画・美術鑑賞、 詩作。本は「ブクログ」に、映画は「Filmarks」に。好きな絵:フラ・アンジェリコ『受胎告知』、バーン・ジョーンズ『黄金の階段』ホッパー、ワイエス、ラファエル前派、後期印象派の作品等。 #詩 #本 #映画 #美術 #野口恒生

マガジン

  • 草・木・花

  • sense

    sensual傾向の作。

  • ダウンビュー

    noteダウンビュー の多かったもの

  • 佳作・入選

    各公募 の佳作、入選

最近の記事

笹舟

車内で女生徒が三人仲良く 英単語の暗記に余念がない それぞれ順に出題されては 懐かしい単語が発音される やがて指先がスペルを追う 淀みない草書が宙に顕れて 新体操のリボン演技のよう 混み始めて狭まった空間に カリグラフィーが絡まる頃 タイミング良く駅に着いて か細いスペルも彼女たちも ひとかたまりに流れて行く 清流に浮かべた笹舟に似て

    • マツバウンラン

      ま遠く オルガンの音(ね) 小学校舎から 運ばれてくる 子供たちの 歌唱(うたごえ) 腕のなかに 眠りから覚めて 彼女が微笑む ふたりきりで この部屋に 目覚めることの しあわせ ゆるやかに たわむ薄むらさき

      • お爺さんが孫と 歩いていく 緩やかな足取りで ともに少し覚束ない 補い合って そっと繋ぐ手 書き込みの多い手には 真新しい手が 眩しくて 忘れかけの 唱歌など 歌い出していく

        • 樫の巨木(き)が在る かつて この地に 独りの巨人(ひと)の 席捲(せき)したことを 偲ばせて 地に巨人(ひと)はあまり 立ち尽くし 時劫(とき)のかたへ

        マガジン

        • 草・木・花
          5本
        • sense
          1本
        • ダウンビュー
          3本
        • 佳作・入選
          12本

        記事

          正午

          音のない市街地を キリコを満載したトラックが 荷台に光を浴びて走り過ぎる

          観想

          山の雨垂れ 地層の連弾 雨に濡れた岩の記憶 孤独

          二人

          美しいソプラノが流れていく 単館ロードショー上映の画面 同じ箇所で微笑み 同じ箇所であやうく涙しそうな二人がいた 近ごろ視力を落としている彼は 画面右手、前の方 ショートカットで姿勢の良い彼女は 画面左手、後ろよりに位置して その他大勢のなか 互いを知ることもなく 画面の明るさに 一緒に照らされたりしていた 互いの周波数が波長が 奇跡のように近いことを 二人知らないまま 映画はいま、終わろうとしている

          涼しい目もと という表現の適格さを あなたに逢って 初めて知った 翳つくる長い睫毛 見つめられるたび 風が渡る僕の草原 見晴るかす遥か うねる波 緑の光がきらめいて どこまでも続く

          《眠り姫》

          乗客のほとんどは若い女性で しかも皆一様に 魔法にかけられたように 寝てしまっている 心地良さそうに眠り込んでいる 微かに傾き、俯き、仰向いて 窓から入ってくる微風に 揃って 髪や薄いスカートのはしをそよがせ 安らかに 寝入っている 触れて起こしても もう、彼女たちは 目を覚まさないのかもしれない

          《眠り姫》

          こたえて

          こたえて くれなくて いいんだ ただ そこに いてくれるだけで わかってほしい だけど かんたんにわかるよと いってほしく ないんだ ただ そこにいて いてくれるだけで いいんだ 木がそこにあるように

          雨 下降線 少年は家で コンパスを使い 宿題の 垂線を引く

          珈琲店にて

          貴女が微笑んで 小首を傾げると テーブル脇の 棚に置かれた 一輪挿しの水引草が その髪にかかる すぅーっと二本 きらめいてそれは 簪のよう まだ間もない 二人の会話が 水引草に沿われるように 澪標を伝い 滑っていく ときおり ちらちらと 揺曳する 細かな紅に 照らされたりしながら

          珈琲店にて

          慰めの言葉もない という言葉 苦しい 悲しいこころへ 寄り添えるのは 木々の葉裏を耀かせる風 単調に打ち寄せる波 滔々と流れ止まない瀬音 それでも ひとは声を掛ける 霞む向こう岸へと 橋を架けるのにも似て 大丈夫か 残念でしたね おつらかったでしょう 思いあふれて掛ける 少ない言葉にさへ 堪えきれず 橋は落下する けれど いつか中空に 雲より細く線が 一本また一本と浮かび 孤が描かれ 見えない橋は架けられて そっと

          ハーダンガー刺繍

          今から500年も昔のまだ16世紀。世界史では宗教改革の頃。北欧ノルウェーの南西部ハルダンゲルという土地で美しい透かし模様を持つクロスステッチが編み出された。 北の海に面し、雪と不毛の山々に囲われ寒風吹きすさぶ当時の荒れ地に、何故これほど繊細で静謐な美しさを湛えた刺繍が形作られていったのか。鎖されながらだからこそ想いは祈りのように豊かで、小さな家々の屋根を越え天上まで届き、ギフトとしてひとに降りてきたのかもしれない。慎ましく正しく、浄く深い世界を伴って。 時空を

          ハーダンガー刺繍

          カップル

          結婚したとき 共通の友人から贈られた コーヒーカップのふちが かすかに欠けた ペアの一方で 二人とも 長く愛用してきただけに 捨てがたく そのまま使うことにした 愛の言葉も甘い囁きも もう以前ほどには 交わされなかったが ある日 ふと 気が付くと 食事のあとやお茶の時間 どちらがコーヒーを入れても そのわずかに ヒビの入ったカップは 入れた方の側に置かれて 音楽を聴いたり 新聞を 読んだりしているのだった

          午睡(シエスタ)

          返事も無いので 階下へ降りてみると キッチンテーブルできみは 気持ち良さそうにうたた寝 家事からも 遊びに出かけていった 子供たちからも しばし放たれて 網戸からの細かな風に 髪とエプロンのはしを そよがせている 忙しさにかまけて 近頃とんと 遠出もしてない僕たち 夢に運ばれて彼女は 何処まで出かけられて いるだろう

          午睡(シエスタ)