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8月13日古本屋の格

神田のカレー店ボンディに行った折、面白そうな本を見つけた。行列に並んでいる間に読めそうなやつをと思ってのぞいた戯曲専門古書店の露天本棚で見つけた本は2冊。ミュージカルにもなった女性に関する小説とこの本。前者は千円ほど。最近は見かけないずっしりした内容に、連れて帰ることに。後者は猛暑の中、もう一冊単行本を持ち帰るのは、とちと思案したので写真をとった。

後からネット注文すると店よりも安かった。800円。得した気になった反面、その価格は古書店の店主も知っているだろうに、あの値段のままにした意を考えた。

会計したとき店内には買取希望の客が来ていた。耳をそば立て店内を物色していると、そこは古いテレビドラマの台本やら、舞台論やらの分野の本がひしめき合っていた。しかも神田である。それだけで、茨城のそんじょそこらの古本屋とは”格”が違った。格と言うのを古本屋に使うのは初めてだが、明らかにこの本屋でこの本を買うには、それなりの理由と背景があるように思えた。 
案の定、なんの専門書か知らないが、10冊ほど装丁のそろった百科事典大の本は2万五千円で買い取るという。「それでよろしければ、店主がただいま現金を用意しておりますが」
先ほど私のわずか千円の古本を丁寧に引き取ってくれた頭上に光を頂いた店主より、枯れた感じの20代。楚々とした若者で落ち着いたかすかに聞き取れる声で言った。近頃の古書好きというのを代表しているような若者。
茶道のお手前のように、なんだかすべての手順と作法が定まっているような、そんな静かさを感じさせる買取交渉が行われていた。

話はそれるが、10年ほど前、仕事の昼休みになんとも名前のついていないコンビニでカップ焼きそばを買った。とても安かった。私は店にそれしかなかったから、当然いつも食べている〇〇焼きそばと同程度のものかと思っていた。上下の選択もなく、それ一択だったのである。ところが、その焼きそばには、イカどころか、揚げ玉も、青のりもついていなかった。そんなものはいつものコンビニなら置いていなかったはず。思わず同僚に愚痴をたれる
と、
「コンビニにも優位があるんですよ。例えばセブンなんかに並ぶのは、ものすごい熾烈な競争を潜ってきているわけです。弱小メーカーの製品は、競争で勝てないから、初めから名も無いコンビニに並ぶわけですよ」
至極納得した事件だった。

古書に話を戻そう。古書店は自分の店の専門にあった本を買い付けるのだろうが、そうでない本はどうしているんだろう。それでも残って本棚を賑わしているのは、それだけで有名コンビニの商品と同じスクリーニングを通ってきているわけだ。何十年前と比べものにならないくらい、露天棚と言っても、清潔だしどの本にも外れないよう別紙の価格が貼付されている。それに専門のごく狭い、脳の細い一部のキャナルを興奮させるような濃厚な本たちがぎゅっと詰まっていたりする。
古本が、安ければいいというのではなく、新刊じゃなくても必要な人のもとに妥当な価格で届く。そういう時代になりつつあるような気がして嬉しかった。そうであったら嬉しい。

これもまた、物理的な本と、古い本に、浪漫とか良さを見出してくれている新しい世代の人たちのおかげだ。

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