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夏休みの日記「値段、見た?」

 私は何事も「ああだ。」「こうだ。」と考えて煮え切らない時間が多くて優柔不断な性格です。さて、今日も夏休みの日記を書きます。
 働いている場所は自宅から歩いて通える距離なので基本的に徒歩通勤である。大雨や酷暑だったりしてもプリウスには乗らず、いつも妻のパッソで送ってもらう。プリウスの方がハイブリッドで乗り心地もいいのだが、ほとんど乗らないし、我が家の駐車場は狭くて妻はプリウスの車庫入れは嫌だと言う。だから、プリウスを売り払ってパッソだけにすることにした。車のディーラーに相談したら、パッソも8年乗っているから買い変えたらどうかと勧められて、妻はその気になって、プリウスとパッソの両方を下取りに出してヤリスを買うことになった。新車のパンフレットに負けたと言える。ずいぶん足が出たけれども、可愛い若者に口説かれたからかもしれない。
 明日はプリウスを引き渡す日、最後のドライブに行きたいと言う。しかし、二人とも遠出の気持ちはない。近場で、妻はミスタードーナッツが食べたいと言う。阿久比のアピタまで行くことになった。ついでに半年前にジーパンを買った時のポイント1,500円分を使ってTシャツを買うことになった。滅多に外出しない老夫婦の遠出は、こんなものである。
 ドーナッツは後回しにしてジーンズショップに来た。物色して良さそうなものを見つけたらしい。
「どう?」
「いいね」と答えたが「8,000円」と言う値段が大書してある看板を見て、これを着る機会はおとずれないと思ったので、適当に答えた。しばらくして、店員が来て「良い商品だ」と勧めたので、妻は買う気になった。
「これは取っといてもらって、私も一つ買うわ。」
婦人用のTシャツを選んでレジに来て、ポイントカードをお姉さんに渡した。レジの金額は13,500円で、ポイント分値引きしてもらい、妻は12,000円を現金で払った。私は妙な気と言うか、割り切れない気持ちだった。その私の気持ちを読み取ったらしい妻が言った。
「何か、気になることでもあるの?」
私の雰囲気を不可解に感じて妻が問い詰めたが、妻が支払った訳だから私に依存はない。
「ねえ、どうかしたの?」
黙る夫。
「何かあったら、ハッキリ言いなさい。」
そこまで言われれば仕方ない。
「8,000円のTシャツは高いと感じた。」
「えっ。8,000円?」
「僕のTシャツ。」
妻が固まった。
「レシートを見れば?」
妻はバックの中を確かめた。
「何故『高くないか?』ぐらい言わなかったの?」
「だって、お金払ったのは君だよ。」
私の反論に、しばらく沈黙があった。
「何も考えずに、お金を払っちゃった。」
「そうらしいね。」
「てっきり、4、5千円だと思ったわ。」
私の感覚では4000円のTシャツでも高いと思う。だから、何も言わなかった。いや、言えなかった。
「でも、良い物だったものねえ。」
「そうだな。」
こんな場合、私は当たり障りのない返事をすることにしている。
「今度から、ちゃんと教えてね。私気づかないこと多いから。」
当然、私の答えは、
「そうだな。」
「ドーナッツ。買いに行きましょ。」
私の妻は明るい。失敗しても決してクヨクヨしない。
私には妻が輝いて見える。

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