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Photo by
hi_mitsuke
ピーラーで手を剥いた日
煮物は一度冷まして、味のよく染みた次の日が一番おいしい。
だから、今日も私はご飯が炊けるまでの間に明日食べる用の里芋を煮ようと、下準備をしていた。
料理はもう小学生の頃から手伝いでやっているので、里芋の皮を剥くのは包丁でもできるけど、ご飯が炊けるまで後10分くらいだったし、時短時短と思ってピーラーで皮を剥き始めた。
一刀目は剥きやすいんだけど、剥き進めるうちにぬるぬるの割合が増えて力が入りにくくなる。私は里芋のぬるぬるが苦手で、手につくと痒くなるし、何なら調子が悪いときは食べると口の周りも痒くなる。だから一刻も早くこの作業を終えたかったのだ。
いつだって、焦りと慣れがケガを生む。
うなぎのようにぬめるを里芋を強く抑えた左手に、焦って振り下ろしたピーラーの刃がかすめた。あ、ちょっと皮むけちゃったかな~と思った瞬間に左手の小指からはじわっと血が滲み、どんどんシンクが紅に染まっていく。指の根元をぎゅっと抑えるがなかなか止まらない。実際の出血量はそれほどでもなかったと思うが、血がぼたぼた落ちるのを見て、クラクラとしてしゃがみこんだ。
10分ほどで血は止まったが、里芋はまだ二つばかり残っている。小指の皮は手でぐにぐにと動くので、ペロンと剥けているのだろう。だが、生活というのは続いていく。何とか気を取り直して、ピーラーをそっとシンクに置き、痛む左手の小指をぴんと立てて包丁でそっと皮を剥く。
ご飯はとっくに炊けているが、まだ食べれない。じんじんとする手の感覚だけが残り、ようやく夕飯にありつく。
食べ終わったら、キズパワーパッド買いに行こう。大人なので、こんなことでは泣かない。心ではわんわん泣いていたけど。