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形跡・技術の見える化デザインとは
[オーディオ機器デザインの背景とテクニクスデザイン]
本格的な動向としてTechnicsは1972年がテクニクス元年であった。
筆者は1965年に松下電器産業に入社,70年までは事実構築の習得としての時間であったと認識している。その後上司である高田宗次師匠が退社され、心構えとして実現可能なモノづくりプロセスとデザインマネージメントを目指した。
テクニクスのプロジェクト誕生の背景について。
正しいことはわかりませんが、
松下電器にステレオ事業部が発足したのは、『もはや戦後ではない』と経済白書の冒頭で謳われた1961年(昭和36)のこと。その4年後にテクニクスブランドが誕生したと言われる。
ステレオ事業部・テクニクスは、 松下電器の家電事業と異なり特殊な背景をもつ事業部であると認識していた。 National Panasonicといったブランドがあるにもかかわらず、なぜ、
1. Technicsという別のブランドを持つ事業部でもあった。
2. そして初期はオーディオの高級品などを主に作るメーカーでもあった。
3. 少数のオーディオマニアのために商品開発をしながら、松下の『水道哲学』を意識しながらのマーケッティングを戦略室で情報収集し販売とブランディングの2頭を成功させて世界NO1を獲得した。
4. オーディオ評論家と称する先生方の活躍する場でもあった。その様な背景の中での開発は、 想像を絶する難問もあったが問題解決をしていった。
1.オーディオの定位と原音再生とは
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ところで, ステレオ音場とはどういうことだろうか?
少しステレオについてのべます。
1950年代にSPレコードがLPになり、「ステレオ」が登場するまでは、「モノラル」が主流であったが、1960年代にステレオになった。
その頃にオーディオ装置が普及したので,オーディオとかハイファイ(HiFi )のかわりに「ステレオ」 という方式名が装置の名前となった。
HiFiとは、主にオーディオ(音響)分野において、原音に忠実な音、または原音に忠実に音を再現できる高品質な音響装置などを指す表現である。
「ステレオ」は、右と左で違う音が出るので、『音に立体感が出る』『ライブで聴いているような臨場感を得られるのが最大の特徴と言える。
モノーラルに対してステレオでは,左右2つの音源からの音によって音の拡がりや奥行き感を表現しようというもので,距離感や方向感を識別することができる。音に含まれる音の成分の比によって、音が出てくる位置がはっきりと聞き分けられることを定位が良いという。
定位が良ければ, 弦楽四重奏の4人の奏者が前方に並んで弾いているように聞こえる。ビッグ・バンドを後にずらりと控えて歌うシンガーの姿は中央前面に、身長や体形のイメージが見えてくるのである。
ステレオ音場では, 壁などに反射する間接音成分なども含めて,音の奥行き感や拡がり感を表現でき,音楽が演奏された会場の広さや天井の高さなどを想像できる状況を感じることができる。
従って、音楽再生にとってステレオは、オーディオの定位と原音再生によってたいへん有力な方法と言える。
オーディオ界にはオーディオマニアと評論家または批評家、アナリストと言われる人がいた。彼等は、マスメディア等で評論や批評することを仕事としている者である。
2.当時の家電にはいない評論家がオーディオにはいた。その中に小説家の五味康介もいた。
初期のオーディオ評論家は2足の草鞋を履いていた人が多い。たとえば五味 康祐(小説家)・瀬川冬彦(工業デザイナー)・岡俊雄(映画評論家)・長岡鉄男(コント作家)・菅野沖彦(音楽家)・江川三郎(レコード芸術の評論家・高城重躬(音楽評論家)・田中一光(グラフィックデザイナー)などなどである。
テクニクスのスタートアップ時代は、これらの人たちにいろ批評・・評価を得なければならないという暗黙のプレッシャーがあった。
技術的重視・性能重視・デザイン重視などを比較と評論する彼等は、情緒的価値での評論となるが、時には恣意的な意見もあった。
顧客であるオーディオマニアは性能とオリジナリティー求めていた。また、評論家も世界一や新規性に価値を求めそれを評価した。
テクニクスは原音再生を目的としていた。そこには理論と意味性を見える形で表現する事が重要であった。
3.見える形とは
例えば、世界初の「リニアフェーズ理論」を表現した。リニアフェーズのロゴマークやSB-7000,SB-6000, SB-5000など見える形で表現すると同時にproduct identityとして意味を持たせた。
後に開発した360度軸対称ハニカムコア―も同様の考え方である。
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意味性をマークにした。
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筆者は、ものづくり側としてのより良い音を解り易く提供するためには統合的活動としてデザインマネージメントの重要性を認識し、どのように推進するかを探求していった。
また、企業としてブランド化するためにプロダクトアイデンティティ(PI)どのようにしていけばよいか、事業部の関係者で共有の言語化を模索し続けた。
さらに顧客である没頭する生活習慣を持つマニアに対しての研究は、商品の機能的な価値だけではなく、情緒的な価値を醸成することが必要であることを強く気づき、潜在化している欲求を顕在化させるために新規性の追求と論理の背景として事実の集積で解り易く表現する事に務めた。
例えば、SB-10のリーフツイターの構造、ミッドレンジの節ドライブ、ウファーの360°軸対称ハニカム構造
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粘性音響工学の始まりと吸音材を満たした密閉型スピーカキャビネットの考察である。
共振周波数が低下するとで低域に変化が生まれるそうだ。
退社ご永くお付き合いをさせていただいた。
4.高度成長の終わりから始まる新しい顧客満足と費用対効果
新たなプロセス構築構想のあり方、商品、環境、情報および企業のアイデンティティーに関係して、主要なデザイン要素(性能、品質、耐久性、外見およびコスト)を創造的に結合することで、顧客満足および企業の収益性を最大化しようとしたのである。
言い換えれば、費用対効果を常に確認しながら進める統合的にバランスを取り、組み合わせ価値化することで新規性を求めた。
当時1975頃は、経済成長後の兆しで持ち家、マンションなどインテリアで環境改善、余暇の広がりができてきた。
4-1 生活空間での音楽
経済的余裕や精神的自由の表現として、また、文化的価値の発信として、オーディオを愛する人たちにとって、その音を聴くためのスペースの「住環境」もオーディオにこだわるのと同じくらいに重要なことになった。
高級生活を優先するのか, 音を優先するのかによって,自己の満足度と計画の方法が全くかわってくるということだった。
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生活空間では、人の動きの導線や生活の家具、装置類まで影響し、さまざまな雑音や振動が発生などによる, 部屋の内部のSN比 (サウンドとノイズの比率)に対処しなければならないという課題にマニア心を揺り動かした。
実は、この心理状態が、マニア満足度ではないかと考える。この状況の対策成果、満足がイベントである。
またじっくりと落ち付いて音楽の世界に浸るには、子供の行動や, 掃除洗濯なども影響し落ち付けない環境も浮かび上がっていた。また, 音場をキチンと構成するには、 生活のための家具類や動線の支障が起きるために苦渋のため、不可能になる場合もあった。
そこで, 音楽マニアやオーディオマニアは独立したリスニング・ルームを指向することになった。
このようにリスニングルームの音響計画の方法は, 高級マニアの欲する 「より理想に近い音場の獲得」のためのものであり, その目的は「原音の忠実な再生」 にあったと言える。
そこでマニアたちは、生活という邪魔な要素はなるべく排除し, 音響的に好ましい条件づくりが何よりも優先されるから, 音響のコントロールが比較的に思いのままにしていた。
ところが一方で, 生活に於てこそ音楽を楽しみたいという考え方があり、生活派としては, 生活を楽しむための機能の充実やデザインが優先され, そこに音楽も空間の一要素として加えられることになった。 そこではある程度の雑音や, レイアウトの制約を適度に納得し、そうした不利な条件を克復して、いかに良い音を得られるかということを情報化することで、戦略的に計画を設計するなど、インダストリデザイナーは腕の見せ所とした。音か、生活かということを対極的に述べたがマーケティング、アフタマーケティングの情報とプロセスで販売に繋げていった。
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泳げ鯛焼きやフォークソング・ニューミュージックなど若い人達の間では生活に音楽の必要性が高まり、高額のオーディオへ向かっていった。また邦楽、洋楽のジャズ、フォークソング、ニューミュージック、ロックなどビートルズ 、アースウィンド&ファイアー、ボブ・ディラン 、ハーブ・アルパート 、サイモン&ガーファンクル、エルヴィス・プレスリー、エリック・バードンセックス・ピストルズなど音楽がクロスオーバで活気を見せ、日本ではパイオニア、サンスイ、トリオが御三家と言われ、ステレオ業界を牽引していた。松下は新たにTechnicsブランドで世界NO1を目指した。たちまちにして肩をならべ、質・量ともに、わが国のみならず、世界のオーディオ界を牽引することとなった。1983年世界でNO1となった。それを支えてきたのが、日本初、世界初、といった新技術を視覚化したことにある。
5.欧州でダンヒル・ベンツ・テクニクスと言われたブランドは、何が価値したのか。
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テクニクスの業務プロセスの中に常に、他のテレビ、白物家電には経験できない『不文律のコンプライアンス』があった。
それは評論家の意見や独自のアイデンティティー(テクニクス憲法)のがあり、白物から移動してきた社員は馴染めない人もいた。テクニクスは、事業の在り方、存在の在り方など思想的な考え方で判断をしていた。
それは不文律であるが、社会的信頼と商品価値を重視した(PI)プロダクトアイデンティティについて話した。
当時の増井事業部長体制(テクニクス憲法)
①本物であること。
②独創性があること。
③個性的であること。
④商品内容が表現されている
⑤市場性(マニア的であること)
⑥簡素であること。
⑦素材の表現が十分であること。
⑧一目で商品が理解できること。
⑨システム的であること。
⑩使い易いこと。
⑪サイズの意味性を考えているか。
合理的でシンプルに纏めることを基本とした。
この時代は、企業の思想的概念を顧客に提供することで顧客が
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全員一致の一枚岩思想、テクニクス憲法を商品検討の時には判断基準として多く発言された。急速に事業拡大してきたために時代の変化に即応しながら進化していった。
他の事業部より転勤してきた方々は、その判断基準や価値の背景が掴めない人やのアイデンティティーの相違を感じて苦慮する人もいたことも事実である。
6.ナンバーワンになるための新技術を視覚化
日本初、世界初、といった新技術を視覚化するには常に新技術・素材の開発、要望、要求を基礎とし、その素材を効果的にどのように用途展開をするかの課題があった。
例えば、宇宙船のドアーに使用されている磁性流体、ハニカム構造、カーボン、トロイダルトランス、群遅延装置、OCL ( Output Condenser Less ) 方式、プリ部では、初めてPNP型のローノイズトランジスターを導入。
「リニアフェイズ」方式、「ダイレクト節ドライブ」方式などなど。
ほんの一部の事例であるが、社員たちが目的を持って成し遂げたテクニクスという一枚岩の事実である。
ここで言う見える化は顧客に明確に何をどうするか伝えるデザインである。
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