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サン・ピエール教会の光の波をCGで検証する:Lighting magic in Église Saint-Pierre de Firminy
※本記事は2020年時の情報で作成されています。
1. はじめに
印象的な曲面形状で知られるフランス・フェルミニ地方の「サン・ピエール教会」、建築界の巨匠コルビジェの建築群のひとつです。
この教会はとても神秘的で美しい光の波が見られることで有名です。
今回はこのような光の屈折現象がPC上(CG)で再現できるのか試してみました。
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光がたなびく霧のように壁に映し出されています。
とても神秘的で不思議な現象ですが、このような光は意図して設計できるのか?という点が気になります。
ちなみにコルビジェは本作を手掛けている最中に逝去しており、弟子のジョゼ・ウブルリーが設計を引き継ぎ完成させたとされていますが、この現象のトリガーとなる壁面開口はコルビジェ自身の設計段階で計画されていたようです(※)。
コルビジェは光の検討を丹念に行なっていたとされていますが、このような光の屈折現象が起きることまで予測していたのかは不明です。
※参照:https://okolab.net/new/8466/
CGレンダリング技術が非常に進化している昨今、この現象をPC内で再現・検討ができないだろうか?と思ったのが今回の検証の発端です。
2. 光の波が現れるメカニズム
この現象が現れるメカニズムについて、
「壁面ガラスのロッドレンズ効果によるラインビーム形成である」
とする仮説があります。今回の検証はこの仮説に則って進めました。
ロッドレンズとは、側面を研磨した円柱形上のガラスで
差し込んだ光を直線状に拡散させる特性があるレンズのことです。
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↓これがロッドレンズによるラインビーム形成です。
ラインビーム形成にも色々な組み合わせがあるようです。
このあたりは「夏目光学株式会社」さんのHP(※)詳しく記載されていますので
興味のある方は見てみて下さい。
※参照:https://www.mflens.co.jp/tips/linebeamshaping/
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こちらがその正体と考えられる、壁面のガラスです↓
光の帯が出現する壁面の反対面(写真左側)に、無数の小さなガラスが埋め込まれています。
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▲サン・ピエール教会の断面図
ちょっと分かりづらいのですが、右側の斜め壁にガラスが埋め込まれています。このガラスの見付け面がロッドレンズ状になっていて、集光拡散機能を果たしているという仮定です。
詳細は省略しますが、前職にて社内設備設計者による検証資料があり
そちらを参考にレンズをモデリングしました。
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レンズを設置する建物のボリュームも図面を参考に作成します。
レンズ設置面の壁傾斜・建物内部の高さ・全体寸法以外の細部はかなり省略しています。
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3. レンダラーの選定
設計者フレンドリーな主要レンダリングソフト(LUMION、ENSCAPE、TWIN MOTION)は高度な光の処理には向きません。
反射・透過ぐらいまではできるのですが、
今回扱うような光の屈折(コースティクス)は再現ができませんでした。
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これはレンダリングソフトの光解析手法に起因するものとされています。
主な光解析手法にはラジオシティ、レイトレーシング等ありますが
今回のコースティクス処理にはフォトンマッピング手法(Photon mapping)を用いたソフトが必要ということで、これに該当するLuxcore renderというソフトを使いました。
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ちなみにBlenderがこのLuxcore renderをデフォルト搭載しているため、
モデリング:Blender + レンダラー:Luxcoreという体制でやってみました。
Blenderって無料なのにすごい(;;)
4. 検証結果
まずレンズへの光の入射角・投影距離がラインビーム形成にどう影響するのか、
平面での照射を行って確認してみました。
比較すると投影距離が離れるとラインが伸び、60度ぐらいの入射角で
ラインが湾曲していることが分かります。
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これをモデルに投影させてみると・・・
それっぽい!それらしきものが再現できました。
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この検証モデルを使って、サンピエール教会の光の波について
・波の倒れ方から、入射角の低い光によって形成されている
(レンズガラスが東壁面に計画されており、朝日と考えられる)
・ガラスから光投影面までの距離がラインビームの出現に適切
等のことが考察されました。
ただし全く現物を見ずに仮説・検証しているので、
実際にどの季節や時間帯に光の帯が出現しているのか、
レンズの形状はどうなっているのか・・・等
そのうち現地を見てまた補足したいと思います。
今回試した屈折光(コースティクス)の3D再現については、
これ以外にも色々なパターンがあるため、
また別の記事でも詳しく書きたいと思います。