【楽曲解説】焦【太鼓の達人公募2022】

こげじゃないしあせりでもない

木を見て森を見ず

近年の音楽シーンにおいては「エモい」というワードが一定の需要として現れつつあるなーと感じており、そのためにエモい音楽とは何か?というのを要素要素だけかいつまんで言語化(音源化)する風潮があるように思えます。

リリースカットピアノだったり丸サ進行だったり、色んなものがありますが、それはあくまでエモさを構成する一部であり、もっと楽曲全体を見渡して全体として人の心を惹きつけられるかを考えたいなと僕は思ってます。(もちろんリリカピアノや丸サ進行を否定するわけではない)

そんなことを考えてた僕に思いっきり影響を与えたのがこの曲で、自分が作りたいエモ音楽の方向性を初めて自覚したように思えます。

今回の焦という楽曲はある意味では「朱」を聴いて生まれた衝動から作られたものであるので要素要素を取り出してみるとリスペクトの匂いが感じられると思います。

サウンドデザインについて

近年のメインストリームにあるサウンドの1つに「クランチギターをかき鳴らしてリリースカットピアノを散りばめるBPM150〜200の楽曲」があります。ボカロではこの傾向が強く、ツミキさんなどが最もその傾向を持っているかと思います。

サウンドデザインにおいてリバーブ等のウェットな質感や余韻(リリース)をどれほど残すかは即ちそのサウンドの質感をどうするかに密接に関わっており、前述の例ではウェット成分も余韻もほぼ削ぎ落としたようになってます。
このような成分を減らしていくと個々の音が前面に出張って聞こえるようになり、楽器で鳴らす打点(リズム要素)が分かりやすくなり、音ゲーに向いているように思えます。
クラシックや劇伴ではウェット成分を大いに持たせてサウンド自体の空間を広く形成します。それに対し今回目指すサウンドは例えるなら2次元の画面に色とりどりの色彩で記号的な絵を描く事になるかと思います。サウンドのもつ空間自体をほぼ最低限まで狭めて、楽器の持つリズム要素に焦点を当ててやろうという試みです。

楽曲構成

イントロ→リフ→Aメロ→Bメロ→サビへの繋ぎ→サビ→ドラムベースソロ→落ちサビ→アウトロ

こうして見ると彗星軌道よりは歌モノに近いキャッチーで分かりやすい構成やと思います。その分色んなジャンルを混ぜこぜして「お前らの期待通りにはならんからな」と逆張りマシマシな曲調にしてますが。

今回は各セクションにて構成の意図と音ゲー的なアプローチの他にそのジャンルを入れた意図についても触れようと思います。

イントロ

彗星軌道の解説記事にて「イントロはちゃんと役割を持たせて作ろうね!」とクソデカボイスで力説したと思いますが、この曲における役割は「楽曲の雰囲気、世界観の提示」が一番近いかなと思います。
ピアノ、シンセ、シンバルチョークを用いた付点ユニゾンリフやその合間を縫うように駆け抜けるドラムフレーズやリリースカットピアノなど、これから先の1曲で展開される要素を簡潔にまとめて「こんな曲やるよ!ようこそ!」的なノリで作ってます。ちなみにここの拍子は7/8でちょっとだけつんのめる感じがするかなと思います。

音ゲー的なアプローチで言えば、色んなリズムを用意しつつ、それが楽曲として破綻しないというお題目に対して、「周期的に現れる同じリズムとその合間に設けられるフィルイン」という形式を用いて達成出来てるかなと思います。音ゲー曲でもこの構造をもった曲は沢山あるので探してみてね。

リフ

16分の裏拍を効果的に使ったリフを用意しました。いきなりAメロに入らずリフを挟む理由は、イントロがかなり捻くれた形式なのでここらでキャッチーな展開を挟んだ方が聴きやすいかなという意図です。(まぁ拍子自体はイントロを受け継いで7/8なのでキャッチーに全振りはしてないが)
前半と後半でドラムのフレーズを変えてますが、
・前半は4つ打ちを意識した拍子に対するノリ重視
・後半は裏拍の箇所に沿うような作りをしてメロディの強調
という風に作り分けています。
ドラムがメロディに対してどれだけ寄り添うか問題は意識するだけで本当に楽曲が垢抜けると思ってます。僕が好きなUNISON SQUARE GARDENていうバンドは本当にその辺の塩梅のコントロールが段違いに上手いので音ゲー作家はみんなユニゾンの曲を全アルバム分聴いてください(ガバガバ宣伝)

Aメロへの繋ぎとして平行移動する分数コードを用いたフィルインを用意しました。最後の音が途切れて再び大きくなる演出はボルテのとあるFLOOR楽曲が由来です。(これ当てる事できたらスゴい)

Aメロ

早速わけわからん事をしてます。Aメロは大別して前半のガバキックパートと後半のスラップベースパートに分けられますが、音ゲー的なアプローチと音楽的なアプローチ両面で面白いことができたかなぁと思ってます。

まず音ゲー的な(リズム的なアプローチ)でいうと、前半に頻出する16ビートの拍頭を抜いたッゴゴゴッゴゴゴみたいなガバキックのリズムを基調として拍頭を抜いた様々な連符が顔を出します。
音ゲー楽曲でAメロにこのような裏拍から細かいリズムがバーって並べられる曲とか色々あるんですけど(去年で言うと零天視とか)アレなんていうパート名なのか未だに僕は分かってません。それらの楽曲に比べてBPMが落としめなのを利用して色んなリズムを詰め込んでみました。

ここのパートを始め、楽曲全体にこの拍頭を抜いた連符をいろいろ散りばめてます。ある意味リズム版ライトモチーフとも言えるんじゃあないでしょうか。

音楽的な工夫で言えば、本来バンドサウンドとEDMのパートを並べるとベースやドラム隊の都合上繋がりがチグハグになってしまうので、ガバキックパートのウワモノループ(ハイハットの刻みとか色々)とスネアを通常パートで使ってるドラム音源で代用し、滑らかに曲調が変わる工夫をしてます。
前半がガシッとした質感たっぷりの4つ打ちだったので後半はスラップベースや16ビートを使って雰囲気の変化を計ります。(同じ4つ打ちリズムにするとドラムパートの差異が目立ってチグハグになるのであえてビート感を変えてます)

後半では一瞬lo-fiサウンドを差し込んだ後リフパートのような箇所を作って音楽的、リズム的な面白さを出してみました。同じメロディでもコードの付け方によって雰囲気が変わるというのは僕の好きな手法なのでこの曲ではかなり使ってます。

Bメロ

スウィング調のセッションワルツ風オーケストラセッションを置いてみました。置いた意図もきちんと説明します。

前提として太鼓の達人では音符の種類が基本的に2つしかないので、楽曲におけるリズム部分の豊かさ、手数の多さが公募楽曲には求められてると考えています。しかし1つのジャンルのビート感で表現できるリズムの手数にはやはり限界があり、そこでビート感がそもそも違う他のジャンルのパートを持ってくるというわけです。
近年の採用楽曲を見ても明らかに1つのジャンルに留まらないエッセンスを内包しつつキャッチーに纏め上げた作品は採用コメントにてその部分にスポットを当て高い評価をされているので、ある意味昨今の太鼓楽曲のトレンドなのかもしれません。

スウィングは8分に重点を置き、それを2:1の感覚に分けた音符で彩るようなビート感を持ちます。ビートの最小単位が24分音符なので8分に綺麗に沿わない12分を置いても破綻せずに聴かせることができます。(電音部のHand Overとかいい例)
ワルツは逆に6分音符が拍の中心となり、細分化した12分音符や24分音符を置けますがスウィングとは異なり拍子感覚が3拍子にどうしても寄ってしまいます。
この特性をうまく活用しつつリズム構築を行います。
スウィングパートからワルツパートへの移行は12分、24分を挟むことで滑らかに繋ぎ、ワルツパートからサビ前パートはクレッシェンドする8分のキックを置くことで3拍子から4拍子へのグラデーションを設計します。ワルツパートのリズム最小単位は24分なので8分も置けるわけですが、12分も同時に置いてるので混フレが起こってます。
スウィングパートでもたまに裏拍を16分にしてみたり、ピアノで奇数偶数連符を置くことで単調にならないように工夫しました。多分全音取りとかされたらこのパートだけバケモンみたいなことなりそう(リズムの最小単位が7(ピアノ)と24(ドラム)の最小公倍数…みたいなことが起こりうるため)

サビ前

ドラムの16ビートとシンセの掛け合いによる応報を展開します。キックは他の楽器とユニゾンする箇所のみに置き、基本的にハイハットとスネアの刻みがリズム隊を形成するために重すぎないサウンドに仕上がります。なおこのパートの掛け合いはサビの中間部でもう一度顔を出します。
後半はドラム含めた全楽器ユニゾンでサビへの盛り上がりを作ります。リズムも12分→24分といったふうに細かくなる流れをさりげなく置いてあげます。この辺はEDMのビルドアップあたりの考え方と似てますね。

サビ

前半後半でビート感や質感を変えています。前半は16ビート、後半は4つ打ち基準でドラムを作り、自然にノリノリになれるように作りました。
サビでは直前にあったようなシンセの掛け合いを4小節単位で展開しています。ちなみに冒頭のフレーズは既に楽曲のどこかに(分かりやすい形で)潜ませているので興味があれば探してみてね
後半分は4つ打ち展開にしただけではなくシンセのウェット成分を増やし、楽曲そのものの雰囲気をダンサブルにしてます。全体的に締まったサウンドにしてる分、ここらで変化球を投げてるわけです。

ドラムソロ

楽器による応報の続くスリリングなセッション調のバンドサウンドなので、ここらでドラム君にもスポットを当ててみましょう。前半ドラムソロで構成するのではなく真ん中をベースソロにするのがミソです。そっちのほうが意表付くと思うし。
ソロパートを3段階に分け、進むごとに難易度が高くなるように設計してます。譜面にした時もそっちの方がレベルデザイン的に自然だと思います。

最後に全楽器が合流し、サビ前のフレーズを3連符によってリデザインしたおちゃらけたパートを挟み、落ちサビへの繋ぎとします。1つのフレーズをこうやって違う音符感覚で作り直すのも音ゲー楽曲として面白いアプローチではないでしょうか?

落ちサビ

lo-fiサウンドによるサビのリフレイン→サビのメロディを用いたフィルイン風セッション→転調パートという感じで作りました。

フィルイン風セッションではコード進行をサビのものとは変えて雰囲気の差別化を図ってます。最初のlo-fiセクションでやった技法を改めて使ってるわけです。この辺はトラップサウンドのエッセンスを取り入れて音楽的にもリズム的にもアクセントになるように設計しています。
半音上昇フレーズで「この先どうなるんだ……?」という雰囲気を作った先に最後の盛り上がりを置きます。伴奏はサビ前半のものを基調にしてますが、ここにリリースカットピアノのお洒落なソロ→ギター合流からのユニゾンといった感じで作ってます。このユニゾンの箇所のメロディもどっかで聴いたフレーズやと思います。

アウトロ

イントロをもう一回持ってきました。ただ一部ガバキックパートになったり、15/16拍子が挟んであったりとかアウトロらしい変化を付けています。
個人的にアウトロ後半で間に挟まるおかず部分を抜いた箇所がとても気に入ってます。散々色んな楽器でリズムてんこ盛りのセッションを展開してきたので余白の美が引き立ちますね。演奏面で見てもここの空白は緊張感を生み出すスパイスになってると思います。

おわりに

いい曲だからみんな聴いてね!じゃあね

↓これはユニゾンの最新ライブ映像トレーラー
https://youtu.be/FP7H_VwlzB4

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