白髪
母は自分の白髪を許せなかった。
黒髪の中に一本でも残さない様に
鏡の前で執念深く抜いていた。
老齢期に差し掛かっても
不自然な仕上がりでも、白髪があるよりマシだと、白髪隠しを欠かさなかった。
歯磨きは歯をなぞるだけの面倒臭がりの人が、白髪退治にはじっくりと時間を掛けていた。
苛々と、当たり散らすように
呪いでもかけられたかのように
白髪と決闘していた
白髪退治はまさに母の人生そのものだったように、母がこの世から消えて思う
老いを認める事ができなかった母は、嵐の様に周囲を巻き込み続けた
白髪を見つけた時の様な荒々しい気持ちを、自分に従おうとしない人に向け続けた
そのやり方は巧妙で支配しつつも、自分は常に弱い立場にいるのだと主張した
しぶとく生え続ける白髪の様に
母は白髪を認めることができなかった。
認めない限り苦しみ続けることになったのだろう
それは白髪のせいではない