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ほろ苦い恋の思い出

 バブルの頃の事を思い出して、珍しく続きを書いてみようと思った。

 二度目の就職は、割と地元の人の少ない企業の研究部門の補助職だった。産休の職員さんの代行だったので、正社員ではなく期間限定の契約社員。正社員になれる話もあったけれど、期間限定というところが当時の私には重要だった。
 とはいえフルタイムで待遇は、ほぼ正社員と同等で、ちがったのは労働組合に入れなかったぐらいだった。
女性が少ないという点も気楽だった。最年少だったので、可愛がってもらえたし、食事会にもいつも誘いを受けた。
 移動も割とある職場だったので、職場の歓送迎会にも誘われて出席していた。そうなると、二次会や、親しく話す機会も増えて、直属の上司から、隣の部署の上長と3人で飲みに行こうと誘われるようにもなった。
 その頃はバイトで知り合った彼との関係も途絶え、私は特別な関係な人はいなかった。親しい女の友達は地元を離れていて、日常的に行動を共にする女のともだちもいなかった。いても飲み歩く仲間にはならなかったから、私は飲みに行くお誘いは、断わることなくついて行っていた。
 
 その日は20歳以上年上のおじさん二人と、繁華街にでかけた。一人はまだお子さんが小さいので、一軒目で帰った。直属の上司と二人、2件目に行き、終電まで過ごした。
あいにく私は終電を逃し、タクシーに乗ることになってしまった。タクシー乗り場まで上司に送って貰うところを、彼の友人に見られていたらしい。

 久しぶりに彼から電話があったのは、それから少ししてから。電話に出た時、彼は突然私に、
「おまえ 不倫 してるだろ? 
 やめろよ」
 と言った。
そう言われる理由といえば、上司と飲みに行ったことしか思い当たらない。
彼には
「違うよ」と答えたけれど、それ以上は話さなかった。
したのかもしれないし、しなかったのかもしれない、そんな曖昧な私の返事のまま、それから時々連絡を取るようになった。 
その年の春に彼は就職が決まり、私の暮らす街から離れ、実家に戻っていた。恋愛感情はあっても、会うことは少なかったけれど、夜中に電話で話をしている最中に彼のお父さんが受話器を取って、「家に遊びにおいでよ」と言われたり、こちらにくる予定がある時にはいつも知らせてくれた。

 なぜ彼との関係が途切れてしまったのか、理由はわからない。喧嘩をした訳でもなく、嫌いになった訳でもなかった。夏の日に花火大会に誘われて、ドライブして出かけて、初めて一緒に一晩過ごした。その翌日は私の家の近くの駅まで車で送ってもらって別れたきり、それから彼には会っていない。

なんでだったのかわからないけれど、私からも連絡することもなく、彼からの電話を待ち焦がれるわけでもなく、自然消滅という感じに、私の心から彼の存在が消えていた。
あの夏の日の花火のようだったな。
バブルの泡が弾けることを予言していたような恋だった。