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お披露目

 結婚披露宴とは別に、嫁ぎ先ではご近所の奥様方に嫁のお披露目の会を開くというのが、昔からのしきたりのようだった。
それは婚家での婚姻の宴席のお手伝いにご近所の女性が集い、その労いのために元々開かれていたものなのだろうが、結婚式場での披露宴が当たり前になってからも、近所の女性を披露宴とは別に招くという習慣は残っていた。

 いくら鈍感な私でも、その場というのはとても緊張するものだった。ホテルでの披露宴では自分はただ雛壇に座っていれば良かったが、お披露目会ではそうは行かない。私がもてなし役に徹しなければならないのだ。 
 まだ名前を言われてもわからない人達に加え、前の日の結婚式で初めて顔を合わせた親戚のおば様方もその席に付いていた。お客様として。
   料理の配膳は粗方お手伝いの方が済ませておいてくれても、運ばれてくる料理の取り分け、お酒のお酌、それぞれの方へのご挨拶、どれほど経験豊富でも、自分を品定めされるような場で、流暢にやりこなせる人などいるのだろうか。
私には畳を見ていた記憶しか残っていない。

 前の日にも着ていた、新しい色留袖を着付けてもらっても、着付ける人が違うと着心地も違う。袂を乱さぬように広間を歩くことにも神経をすり減らしていた。当然畳の縁にも。

 宴席の片付けが終わって、居間に戻ると、義母と誰かがお茶を飲みながら話をしていた。後でその人は義母と仲良しの伯母だと知ったのだけれど、私はそそくさと着物を脱ぎに自室に戻った。

 夫から
「伯母さんが、畳の縁を踏んでたと おふくろから言われた」と言われた。
なんとも回りくどい言い方だが、それからも、直接は私に言わず、いつも苦言は夫を介して言われ続けた。