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黄菖蒲の花

 私がこの家に嫁いだ時、玄関からの西側の通路に建物に沿って黄菖蒲が群生していた。
花の時期はそれなりに美しかったが、大きく茂る葉は邪魔になり、子どもが生まれてからは少しずつ根を掘り別の花を植えたりしていた。

徐々に減らした黄菖蒲が絶えて久しい。
西側に黄色があると風水的にも良いらしい。本当かどうかわからないが、子ども達が離れた今、黄菖蒲の花をふと懐かしく思い出した。


幸い、敷地の庭木や植物に執着している義母は、黄菖蒲については何も言わない。
かつては口にしていたのかもしれないが、田園の広がる山里に生まれた義母にとっては黄菖蒲は自然に生えた雑草とたいして変わらなかったのかもしれない。
 少しだけでも残しておけば良かったかなと思わなくもない。鉢に移植しておいたもののいつの間にか生えなくなってしまっていた。苗を買ってまた育てようかと一瞬考えたが、すぐ消えた。

黄菖蒲に囲まれていた頃の苦しい思い出が蘇ったからだ。
あの頃私は今よりずっと辛い日々だった。辛さ、自分の置かれた立場の異様さに気付かないほど。
異様な環境で子供たちを護ることだけを思い続けていた。安らぎは黄菖蒲の花の様に長くは保てなかった。
何かが違っていたら、もしあの時自分が機転を利かせていたら、思うのは後悔ばかりだ。そんな日々には二度と戻りたくはない。