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嫁ぐ日

 結婚式の朝、私は一人で駅まで歩き電車に乗った。薄っすら雪の積もる道路を通勤していた頃と同じように小走りで。
あの日私は何の疑問も持たなかった。何に対しての疑問だったのか、全てに対して無防備だったのかもしれない。私に、「女の子は早く嫁にいくものなのだ」と言い続けた母ですら、私に嫉妬を抱いたのかもしれない。
誰もが祝福が霞むような嫉妬を、心の中に隠していたのだろう。そう思えば私の29年間がうかばれる気がする。

 電車の窓から見えた景色は覚えていない。駅からタクシーに乗りホテルから離れた美容室で降りた。後部座席のドアが開いた時の氷のような寒さを良く覚えている。
和装のカツラが被れるように髪をセットしてもらい、ホテルからの迎えの車に乗った。

その日一日私は「新婦さま」になった。