【小話】時戻しと「パラノマサイト」
こんにちは、なるぼぼです。
先日、X(旧Twitter)で色々お話させてもらっている「ほげ」氏のNoteを読みました。
今回はその記事への思いをちょっとだけ話してみようと思います。
該当記事は下のものです。
これを読んだ前提でお話していくので、先に読んでからこの記事をお読みください。
それではいきましょう。
1.記事を読んで
この記事を読んだとき、ファーストインプレッションは「そんなこと思わんかった!」でした。
というのも、僕はこのゲームの面白さにただただ舌を巻くばかりで、エンディングのユーザー体験なんてあんまり気にしていなかったからです。
このゲームは全体の面白さを通じて「やべぇ~!」と思っていたので、このピンポイントの違和感に気づいていなかったんですね。
なので、昔の記事ではアホみたいに絶賛して「おもろい絶対買えやれやれやれ」と気が狂った猿みたいになっていました。
ところがどっこい、改めて思うと確かにエンディングには違和感がある。
特に津詰vsあやめの話がなかったことになったり、約子ちゃんの「あたしが自首してやんよ!」みたいな決意がなくなってしまったりしたことには、若干の違和感を覚えます。
それに加えて、(凶器がないとはいえ)根島がそのままになっていたり、あやめの家庭内不和も雑に処理されていたりと、矛盾点がいくつか出てきます。
そのような「辻褄とドラマがない」ことは、確かに違和感でした。
さて、こんな話を聞いたうえで納得しかけていましたが、同じくXで知り合った「ようげ」氏のポストで、そうでもなかったなと思いなおすことになります。
文中の「ちゃぶ台返し」というのは、僕個人は「なかったことにする」という解釈に落ち着いています。
まとめてみると、「プレイヤーがやったからええやないか」ということですね。
僕は、そういえばそうだな、とここで思いなおします。
本作のキモは「ストーリーを動かしていたのはプレイヤー自身」で、それによって「世界をもとに戻した」ことが重要だからです。
プレイヤーの行為が終着点になったことで、苦節あったパラノマサイトが完結するということ、そしてプレイヤーがゲーム中のキャラクターとして翻弄されていたという驚きこそが、このゲームの求めていた結末だったのかなと思います。
キャラクターに注視させないようにオムニバス形式を採用していたとも解釈できますし、プレイヤーという人物の立ち位置がメタフィクションを扱うゲームとして着地している点は、アドベンチャーとして完成されたものであったと思います。
2.「なかったこと」へのテーゼ ― ドラゴンクエスト11
さて、この「なかったこと」への言及を、僕は何回かしています。
重要なタイトルは「ペルソナ3フェス」と「ドラゴンクエスト11」です。
まずドラゴンクエスト11から。
ドラゴンクエスト11では、仲間が死んだことで失意にくれながらも、それぞれの思いでボスを倒すことでゲームが一旦完結します。
ところが、その後「ときわたりの秘術」が発覚し、過去に戻ってあの頃の展開を全てやり直せることが判明します。
しかも主人公だけ転異可能、能力はそのままに。
プレイヤーは今の仲間との別れを惜しみながら、過去に転移し死んだ仲間を救う…という展開が繰り広げられます。
この流れは、明らかに「なかったこと」へのテーゼです。
失ってしまったものを取り戻すために、主人公が今の仲間と別れてもどうにかする未来をつかむために過去へ転移します。
僕は、この展開を過去記事で痛烈に批判してきました。
なぜなら、この展開では「過去の仲間の苦しみ、そしてそれを乗り越えた成長が全部なかったことになっている」からです。
彼らの苦労(とりわけカミュとセーニャ)は全部なかったことになって、元々あった問題も全部勇者の奇跡でどうにかしてしまいます。
これでは元々あった苦労が全部水の泡ですし、努力して乗り越えた仲間との絆なんてあったもんじゃありません。
ほげ氏の言う葛藤と結末が全部かき消されて、都合のいいもので上塗りされただけです。
これ、実はパラノマサイトでも概ね同じことが起きています。
約子ちゃんと美智代ちゃんとの関係もスルッと終わりますし、津詰警部とあやめ嬢との関係もしれっと流れていきます。
こうした点はドラクエ11に近いですね。
だからこそ、ほげ氏も違和感を感じたのかなと思います。
敢えて言うのなら、「なかったことにする展開が、ゲームの主題ではない」という点も重要なのかな、と思います。
パラノマサイトの本質はゲームの中盤で、エンディングは盛り上がりどころではありません。
エンディングの直前の、晴曼が誰であったかという推理パートが一番の盛り上がりどころとも言えます。
その一方で、ドラクエ11は盛り上がりどころが「なかったことにする」時渡りのシーンです。
辻褄が合わなくなることを加味しても、復活したキャラに(無理やり)スポットを当てているんですね。
だからこそ、僕はドラクエ11に深い幻滅を覚え、パラノマサイトにそこまで違和感を感じなかったのかな、と思います。
3.「なかったこと」へのアンチテーゼ ― ペルソナ3フェス
続いてペルソナ3フェスから。
このタイトルは、ペルソナ3の主人公の死を「なかったことにする」という選択肢が与えらえ、それをどうするかと言う点で仲間が争います。
「なかったことにしたい派」、「なかったことにはできない派」、「お前らの意見まとまるまでここから動かない派」の3つと、意思が決まらない主人公アイギスの4陣営に分かれてお互いが争うことになります。
この展開、賛否両論ありますが僕は重要だと思っています。
どこの陣営に下るかを選択できない点は良くないとしても、元々死んでしまった主人公をどうしたいかで、今まで戦ってきた仲間の本音が聞けるのは良いシーンです。
身近な人の死を受け入れたからこそ乗り越えないといけないと語る真田や天田、それでも彼に会いたいと叫ぶゆかり、そしてチドリと出会い変化した順平と、ペルソナ3本編中の心境の変化が如実に表れている点は良いですね。
それでいて、本作は「なかったことにする」選択肢に、「世界の命運をかけて強大な敵と再度戦わなければならない」という、重いデメリットがついてくる点も重要です。
「ただあの人に会いたいから戻す」なんていう甘えが効かない点、それでもあの人に会いたいと言い続けるゆかりの思いは、本作の「なかったことにする」というテーゼが十分に詰まっています。
本作の主人公一行は、ペルソナ3主人公の死を「そのままにする」、つまり「なかったことにする」選択肢を否定しました。
なぜなら、彼らは「なぜ主人公が死んだのか」という封印の真実を知り、主人公が起こした行動で世界を守るために、どうしてもこの選択肢を取らなければならなかったからです。
しかし、結果として「なかったことにする」選択肢を否定した彼らは、失った苦しみを抱えながらも前に進む決断をして、一歩成長していました。
P4Uで見れる彼らの成長(とりわけアイギス)は、ペルソナ3という死と別れを題材にしたゲームの最終到達点として素晴らしいものになっていたと思います。
そして、本作はそうした「エンディングでなかったことにする」ことへの強烈なアンチテーゼとして、起きた悲しいことを全部乗り越えて成長するというメッセージ性を伝えるゲームとして、これ以上ないほどに機能している作品です。
あと余談ですが、仲間と戦う戦闘曲「Heartful cry」は作中でも屈指の名曲です。
目黒氏はアバチュでもあった泣きのギターがめちゃくちゃ上手いんですよね。
特に2000年後半の曲はヤバい曲が目白押しで最高です。是非ご一聴を。
4.テーゼとアンチテーゼ
こうした「なかったこと」へのテーゼとアンチテーゼは、今見たように様々な作品で語られています。
では、僕がどっちのスタンスを取っているのかというと、アンチテーゼの立場です。
なぜなら、現実では「なかったことにすることなど不可能」だからです。
人の死や別れを、時間を戻してやり直すなんてことはできない。
だからこそ、人の死を乗り越えて生きていかなければならないし、そこで何かを学んで成長していく必要がある。
僕が「街」で市川の死に触れたように、人の死の裏に潜む他人の思いや死にかけている人の考えというものは、ゲームという創作だからこそ明白に語れるものであり、それでいて成長やその後を語ることは、その人の人生の価値観を一転させるような、大きなものであると思っています。
だから、「なかったことにする」のが嫌なんです。
でも、「パラノマサイト」はそういうことを思わなかった。
改めて思うと約子ちゃんは自首する流れの方がちゃんとしていたし、津詰が死んだ後のエリオやあやめの展開はちゃんと追っていきたかった。
もちろん葉子さんの存在でそれも叶わなかったわけですが、なんというか物悲しいものがあります。
でも、作品の魅せ方としてメタフィクションを用いたのなら、あのエンディングにせざるを得なかったのかな、とも思います。
冷静に作品を見るとそうなっちゃうんですよね。
感情と理性で答えが別になってるみたいでなんだか複雑です。
5.終わりに
いかがでしたでしょうか。
なかったことへのテーゼとアンチテーゼ、やっぱり気になってちょっとまとめちゃいました。
ほげさん、ようげさん、急に話のネタにしちゃってすいませんでした…!
最後にちょっとだけ思ったことなんですけど、この「なかったことになった」人、もう一人だけいる気がするんです。
該当作品をクリアしていないのでまだわからないんですけど、「キングダムハーツ」の「ロクサス」もここに入る気がしているんです。
ホントに好きなキャラなので、「キングダムハーツ3」をクリアしたうえで、彼がどうなったのか、そして彼のキャラ的な魅力についてもお話しできたらな、と思います(いつになるのかはわかりませんが…)。
それでは今回はこの辺で。
さよなら~。
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