【感想?レビュー?】黒ノ十三 煮詰められた「救われなさ」
こんにちは、なるぼぼです。
先日東京に遠征したのですが、池袋のスーパーポテトで偶然「黒ノ十三」を発見。
前々から鬱ゲーとして名高い本作をぜひとも遊んでみたい!という気持ちがあったのと、せっかく東京来たしデカい買い物すっか!という気持ちが沸き上がってきたのもあって購入しました。
そして一気に遊びました。
いや、やっぱりサウンドノベルは一気に遊ぶのが面白いですね。
特にオムニバスは。
そんなことはさておいて、本作のレビューを簡単にしようと思います。
ただ、今回はいつもと違って「お話ごとにレビューを簡単にまとめる」形式にして、最後にゲーム全体の総評をしたいと思います。
ネタバレありきのレビューになるので、購入してプレイするかプレイ動画を見るかしてからの一読をおススメします。
特に話の中身知ってからこういう要約は見た方が良いと思うので、未プレイの方は一旦ゲームを知ってからにしましょう。
あと、事前に言っておきますがこのゲームのCGは滅茶苦茶気分悪くなるものが多いです。
今回の記事では敢えてそうした内容も画像として取り入れているので、食事中に閲覧するのはお控えください。
Gとかグロ画像とかが苦手な人は特に気を付けて。
実写とかなりちゃんとしたCGで構成されていることもあって、リアルにグロいので本当に気を付けて閲覧してください。
大丈夫そうですか?
それではいきましょうか。
1.「仮面」
まずは「仮面」から。
このゲームを起動して大半の人が最初にやるストーリーです。
仮面人から逃げている主人公が、実は元から仮面人で逃げ場がなかったというお話。
う~ん、こいつは個人的にパッとしない話だったという印象です。
仮面人から逃げる描写とか、体育館で謎の会合を開いているところとか、不気味な所は不気味なんですけど、結局仮面人ってなんだったんだよ!とか、肝心なところがぼかされててちょっとな…と思いました。
「あなたの周りにも仮面人が…」は個人的に苦手な終わり方ですね。ありえないで一蹴しちゃうタイプなので。
とはいえ、今思うと「表情を隠して生きる」ということの暗喩だったのかな、とも思います。
主人公が小学生であること、仮面人であることが分かったタイミングで父親から「これで大人の仲間入りだな」なんて言われるシーンは、感情を殺して生きる(よくない)大人への第一歩を踏み出した、という意味なのかもしれません。
喧嘩ばっかで感情をむき出しにしている子供から、大人への成長をホラー風に暗喩することで、感情を殺して生きる大人への揶揄を入れたかったのかな、なんて今は思います。
だとしても体育館の会合は何だったんだよ…という問題は抜けませんが。
2.「運命の扉」
かなりの長編である「運命の扉」。
バッドエンドを踏むと戻しが効きづらく、攻略なしでやるとマジでめんどくさいシナリオです。
そういう意味では不評かも。
個人的には後味がかなり悪くてよかったですね。
中盤のネズミの展開とか、少女が仲間を殺していた展開とかは「そこいる?」感がありましたが、最後の展開に持っていく上では必要でしたね。
運命の螺旋からは逃げられないという終わり方で、理一の未来が決定づけられ、永遠に続く苦しみを想起させる終わり方は見事だったと思います。
あと二つのシナリオが混ざり合うのも見事。
キャラクターが3人ずつ出てきた段階で「お?」と思うかもしれませんが、その後の展開で何となくリンクしていく予感がしていました。
しかし、そのリンクが「悪い方へ舵を切ってしまった」というのがめちゃくちゃ良かったです。
後味で言えばかなり悪くて個人的には好みかも。
ただ間延びはしてると思いますし、選択肢を間違えた後の戻し作業も辛いので微妙なところは微妙です。
3.「雨に泣いている」
個人的に本作の最高傑作シナリオの一つです。
マジで良い。
ひょんなことから謎の生物を拾ってしまったカップルが、悲しい運命に巻き込まれていくお話です。
何がいいかって、全部がしっとりしているところなんですよね。
救われない終わり方とは言え、後味が妙に悪いわけでもなく、切なさを残して静かに終わるあの雰囲気が本当に好きです。
話の流れも龍肉の演出は微妙なものの、恋人として信じあっていたにもかかわらず、どうしても離れなければいけないという真由子と主人公の関係は、切なさを感じさせるものでした。
また、別れの時に男性から語られる真実と、主人公を真由子のところへ行かせたくないという思いは、本当にやるせない気持ちにさせられます。
でも、不快感とかじゃなくて切ないという感じ。
個人的に良いのが「主人公も魅せられている」ところなんですよ。
結局逃げきれてなくて、時々出てくる真由子と共に泣く理由が、自分のために置き換わっているところが、恐怖の演出としても良いです。
恐怖を感じさせながらも、どうしようもないやるせなさ、そして切なく感じさせる恋の物語。
全てが天才的にマッチしている傑作シナリオです。
あと、作中で一番好きなぐらいにBGMがいいです。
シティポップ調の穏やかな曲が雨の演出と相まって凄くしっとりと耳に入ってきます。
真由子のテーマが一番好きです。流れるタイミングはアレですが…。
4.「ラミア」
メガテン勢なので「ラミア」の演出で「あっ…」てなるよね。
女の子が、ゲームのお祈りを通じて母親を救おうとするも…というお話です。
既プレイヤーからすこぶる評判のいい本作ですが、個人的にはちょっと微妙でした。
いや、改めてお話を聞くと確かに切なくて良い物語にはなっているんです。
少女の好奇心が母親をあんなことにしてしまった、という彼女自身の行動がトリガーになっているところとかは、「私のせい」という責任を感じさせるいい演出にはなっているんです。
また、母親が無理やりケーキを食べさせてきても、この母親とずっと暮らしていこうとする少女の思いに胸を打たれるのも事実です。
ただ、このストーリーはいかんせん背景のインパクトが強すぎる。
あまりにもグロい母親の描写をまざまざと見せつけられるので、話の切なさよりグロすぎる方に焦点がいってしまい、あんまり悲しい気持ちになれませんでした。
あの演出怖すぎるって!
普通のホラーとして見てしまったので、正直それどころじゃなかったという感じで、個人的に評価が微妙です。
とはいえ、再解釈してみると少女の思いが全部裏目に出ていて、なんとも悲しい物語だなぁ…とは思いました。
あとラミア悪者過ぎるだろ。どうにかせい。
5.「羽音」
今作を有名たらしめる最強の鬱ストーリー。
ゴキブリが体の中にいるような苦しみに耐え続ける、多恵子の悲痛なお話です。
とにかく救われない上に、悪い展開ばかりが押し寄せるというかなり重い話です。
いじめの描写はかなりリアリティがある上に、信頼していた人間が狂ってしまうような描写もあり、中盤でも結構胃もたれするレベルの重い展開が続きます。
そして、いじめの象徴ともいえるゴキブリを無理やり食べさせられるという経験から、体にゴキブリがいるような感覚に苦しめられ続けます。
これも結構な回数で虫の演出が入り、非常に気分が悪い。
最後には多恵子の真実が明かされ、無限ループを仄めかして終わるという最悪な結末が待っています。
ただ、こいつも「ラミア」と一緒で、かなり背景演出が極悪なのと最後のシーンがかなり衝撃的なこともあって、展開が頭から抜け落ちてしまいました。
クリア後にストーリーや考察を読むと「あまりにもむごすぎる…」と思ったのですが、途中のゴキブリのシーンや母親による首ちょんぱのシーン、屋上の女の子のシーンなど、あまりにも衝撃的な演出に脳が理解を止めてしまったのが良くなかったのかもしれません。
後味だけでなく中盤の展開も最悪なので、本作の重い部分を頭からお尻までたっぷり詰め込んだ、ある意味「黒ノ十三らしい」ストーリーだったと思います。
ただ、重すぎるがゆえに頭がシャットダウンしてしまい、それを余すことなく食い尽くせなかったのが良くなかった。
どうしても「思ったより鬱じゃないんじゃ…?」となってしまいました。
とはいえ改めて解釈すると重すぎてマジできついので、悲惨な展開を求める人には相性最高の逸品になっていると思います。
あとホントにCGは最悪です。
興味本位で観ない方が良いレベルだと思います。虫嫌いは特に。
6.「節制」
なんてトンデモ。
食費に悩む学生が、節約のためにカップラーメン生活を始めるお話。
まぁギャグ感の強い作品でした。
透明人間になってから食欲復活するってどういうことだよ!とも思いますし、栄養を取らないだけで体が消えていくのもよくわからないですし、なんかめちゃくちゃなお話です。
カップラーメン生活なんてやめようね!ということなんですかね。
勝手に食費増やされてるのが原因なので文句が言えませんが…。
あと結構尻切れトンボです。
この後も尻切れトンボのお話が続きますが、思えばここから始まっていたような気がしなくもないです。
個人的な印象は薄め。
唯一印象に残っているのはカップラーメンの毒々しいラベルの色ですね。
紫色はヤバいだろ…。
7.「女嫌い」
圧倒的叙述トリック。
女嫌いの主人公が、見知った老婆を色々な所で見かけるお話。
この話、最初は微妙だと思っていました。
天井のシミが老婆に見えるとか、自販機の裏に老婆がいるとか、あまりにもありきたりな展開だったからです。
そして、周りにいる人もあんまり被害にあわなさそうな雰囲気がして、なんか微妙だな…と思っていました。
色んなものが老婆に見えるのも「まぁあるあるだよな…」ってぐらいでしたし。
ただ、最後の展開がめちゃくちゃ良かった。
自分が老婆の一部で、主人公が怪奇サイドの人間だったの、マジで最高です。
女嫌いである理由が「最後の人間的理性で、老婆の贄にさせたくなかった」というものなのも良い。
そうした理由に気づいたうえで、自分の使命を思い出して諦観したような雰囲気になる主人公もまたいいですね。
自分が選択肢を選んで操作していたのに、結局は女の子の方が被害者になって、自分は老婆の操り人形だった、というどんでん返しが見事にプレイヤーを驚かせてくれます。
この何とも言えないやるせなさと、最後の「女嫌いは治ったようだ」という一文がプレイヤーを凍り付かせる傑作だったと思います。
本当に見事。
8.「今昔鬼譚」
珍しい昔話シリーズ。
と思いきや、過去の話から少年の死に迫る、ミステリーものになっています。
おじいさんの話を通じて、主人公の少年と友達が死んでしまった佐吉の真相に迫るお話。
昔話がミステリーになるという展開は面白かったものの、最後に鬼童が出てきて「実は怪談モノでした!」というオチになってしまう、というのが個人的には残念でした。
ミステリーっぽく移ったのは滅茶苦茶よかったのに、結局理性関係なく「鬼童のせい」になってしまうのは、プレイヤーの推理の意味を損ねるので良くなかったと思います。
あと終わり方が尻切れトンボ。
おじいさんが殺されたうえに、友人が鬼童でどっちも失っちゃいました、というなんか微妙なエンディングになります。
やるせない感じはありますが、そういう意味でもないんだよな…というような気持ち。
途中までは悪くはなかったのに…という印象です。
でも怪談ホラーとしては面白いと思います。
9.「殺し屋」
ちょっとコメディ感あるよね君。
殺し屋がターゲットを追う中で、不思議な現象に巻き込まれるお話。
このお話は、最初から最後までとにかく雑だった印象です。
主人公の展開も雑だし、オチを最後まで隠しているのはいいものの、なんかこうパッとしない雰囲気があります。
オチを知ったうえで思い返してみると「こういうことだったのか」と戻って楽しめるような演出はあるんですけど、それも微々たるものですし…。
何よりこいつが一番尻切れトンボでした。
オチが分かるのはいいけど最後の文章周りがかなり投げやりで、終わった感じがあんまりしませんでした。
ネタにも振り切れていないので、正直一番微妙なシナリオだったかも。
唯一良かったのは背景周りのCGですね。
MOTHER2のムーンサイドみたいな、黒にネオンライトをあしらったような演出が全CGに取り入れられていてオシャレです。
殺し屋の雰囲気にもあっているので結構いい感じでしたね。
これでストーリーが良ければなぁ…
10.「RUNNER」
ターボばあちゃん登場!
かなりのギャグシナリオです。
やつれたサラリーマンである主人公が、謎の人々に追っかけられるお話。
めちゃくちゃ高速で動くリーマンやおばあちゃんは怖いっちゃ怖いですが、「鬼です」「鬼なんです」でギャグになってしまうというね。
ラストシナリオの前にこれを残しておくと拍子抜けしそうなので、早めに消化することをおススメします。
それはそれとして、ホラーゲームの緩衝材にはなっているので、あってもいいかなぐらいの感覚で読めました。
やっぱりギャグシナリオも悪くないですね。
全くの余談ですが、パッケージにいるおばあちゃんの画像はここで使われていました。
怖い話に出てきそうななりしててギャグシナリオなのかよ!と拍子抜けしたのを覚えています。
とにかく酷いストーリーですが、緩い話としては結構いい感じです。
11.「闇に舞う雪は」
かなり濃い目なサスペンスストーリー。
復讐に燃える主人公が、バスの事故からサバイバルに巻き込まれるお話。
かまいたちの夜みたいなサスペンス感と、雪山サバイバルの臨場感を同時に味わえる贅沢なシナリオ。
熊から逃げるシーンが何度も続いたり、落石に助けられたり、木に登ってどうにかやり過ごそうとしたりと、かなり臨場感のあるシーンが多くドキドキさせられます。
それでいて人間関係の描写もかなり丁寧で、最初は主人公だけが復讐に囚われていたと思っていたのに、気づけば登場人物全員が何かしら暗いものを持っているという嫌すぎるストーリー構成も良かったです。
最後の展開も復讐に復讐が重ねられて後味悪く仕上がっています。
バス運転手から語られる真実は良かったですね。
主人公が復讐する側からされる側になり、全てを悟るシーンは切なさがありました。
そして、最後には復讐されて死ぬはずだった自分だけが生き残ってしまったやるせなさを感じるとともに、その思いを同じ境遇になってしまった熊に捧げるというのがなんとも不憫で良い終わり方だと思いました。
後半シナリオの中でもかなり良い構成だったと思います。
恨みたっぷりに禁断の愛が描かれていたのもgood。
12.「彼女の図書館」
唯一の救いがあるシナリオ。
かつ、いろんな意味で考えさせられるシナリオです。
不登校になった女の子が、図書館で異形に出会うお話。
このお話は、とにかく主題がしっかりと定まっていて、プレイヤーにメッセージ性を伝える要素が強かったと思います。
他人に合わせて動くことにとにかく不満を感じていた主人公が、異形との出会いから親密になることの大事さを学んでいきます。
そうしたうえで、街を壊そうとする異形を止めようとする中で、人間関係の重要さに主人公が気づいていくのがとてもいいです。
それでいて、図書館のおじさんもそれをわかっていて、気持ちを変えるために彼女に協力していたのがなんともじんわり来ました。
とにかく救われない黒ノ十三ですが、このストーリーだけはかなりあたたかい雰囲気に包まれています。
それでいて、人間関係を大事にする重要性や、孤独に生きることに埋没してはいけないことを、しっかりと伝えてくれるとてもいいお話でした。
個人的に、大人になってからもう一度やりたくなるようなお話だったと思います。
13.「鉄橋」
ラストも尻切れトンボ!(仕方ないけど…)
ある怪談から、主人公が不運に巻き込まれていくお話。
このゲームのオチにしてはあまりにもサッパリしすぎていた印象。
怪談を話すところもそこまで怖くないですし、女の子を探して列車内を移動するシーンはちょっと怖かったものの、今までの話に比べればかなり中身ペラペラで最後に持ってくるべきではなかったと思います。
とはいえ、本作の開発事情や綾辻氏の作品をそのままノベルゲーム化している状態であることも判明しているので、これは仕方がないと思います。
ゲームの最後にしてはあっさり感が否めませんが、ありがちなホラーノベルとしてまとまっていたと思います。
(正直中身がかなり薄いので言及できることが少ないです…)
14.全体評価
全体的に救われない話が多くなっていたり、グロい描写が結構そのまま使われていたりと、暗さだけで言えばトップクラスのホラーノベルだったと思います。
その一方で、救われなさよりもグロさや不快感で取り繕ったシーンがかなり多く、そっちが強く印象づくことでシナリオにある鬱をしっかり読み取れない点は微妙だったと思います。
とはいえここは僕自身の読み手としての解釈能力不足も考えられるので、手放しに良くないとは言い切れないと思います。
システム的にはセーブがかなりマニュアルだったり、ラストストーリーに入ると前のお話が全部読めなくなったりと、不親切な部分がちょっとあったかな、という印象。
バックログが読めるところなど基本的な所は抑えられていますが、雑な所はあるかなと思います。
良くなかったのはバットエンド分岐ですね。
一つしか正解がなく、間違った選択肢を選んだらセーブしている場合は選択肢からやり直し、セーブしてないと最初からやり直しになってしまうので、戻し作業がかなりつらいです。
セーブスロットも3つしかないので、かなりしんどくなっています。
バッドエンドがギャグじみているのもあるので、そこで中和できるならまだいいような気がしなくもないんですけどね…。
あと、僕なりにシナリオをランキング付けするなら次のようになります。
1位 雨に泣いている
2位 女嫌い
3位 彼女の図書館/闇に舞う雪は(同率)
4位 羽音
5位 運命の扉
こんな感じかと。
「雨に泣いている」はマジで好みです。
女嫌いの終わり方も好み。
逆に有名な「羽音」や「ラミア」はグロ描写に引っ張られてそこまでだったかも。
15.終わりに
いかがでしたでしょうか。
救われないホラーノベルというアイデンティティは唯一無二のものですし、その救われなさにも色々なベクトルがあるんだなと学べる作品でした。
とはいえ、これに5300円の中古価格がついているのはいささか問題なような気がしなくもありません。
ベストプライス版が出ているタイトルですからね。
結構在庫もあったと思うんですが、市場価格5000円オーバーは流石にちょっと…とも思います。
近年レトロゲーム市場の高騰が相次いでいるので、なんとかして市場安定が出来ればなぁ、なんて思いをはせるばかりです。
さて、次回は未定です。
というか文章自体かなりスランプになっているので、どうにかして改善したいと思っています。
「リンダキューブアゲイン」のネクの話とか、「十三機兵防衛圏」の話とか、「キノピオ隊長」の話とかいっぱいしたいんですけど…。
とりあえず色々書きながら、納得した段階で上げていこうと思います。
ちょっと時間がかかるかもしれませんが、気長にお待ちいただければと思います。
それではまた次回。
さよなら~。