「無限に遊べる」という夢を叶えるゲーム
突然だが、皆さんは「無限に遊べるゲーム」をご存じだろうか?
聡明な人なら、この問いには「ローグライク!」と答えるだろう。
おっしゃる通り、ローグライクは無限に遊べるタイトルだ。
「Slay the spire」「HADES」などに代表されるローグライクは、何度もリトライをする中でビルドやプレイヤースキルを磨き、自身を強化しながらゲームを進めていくジャンルだ。
アーケード的な周回を繰り返すことでプレイヤーを強化し、クリア後もアーケードスタイルで無限にゲームを楽しめるシステムは、ローグライクの強みでもある。
しかし、こう思う方もいるのではないだろうか?
これは「オープンワールド」などで見られる傾向だ。
世界を広く作ることで、プレイヤーが自由に冒険できる。
広大な世界を駆け巡ることで、プレイヤーに無限に遊べるような時間と大量のコンテンツを提供する。
この軸は、アーケード的な無限の遊び方をするローグライクとは、全く違うベクトルに位置するゲームの拡張性と言える。
そして、その拡張性はローグライクにはない「まだ行ったことのない世界を歩く」冒険性に満ち溢れているため、人によってはこちらに大きな魅力を感じることもあるだろう。
しかしながら、このオープンワールドには限界がある。
オープンワールドは買い切りタイトルのため、DLCをいくつか出した後は更新が滞り、限界がきてしまうのだ。
どれだけ広くても、その世界を無限大に拡張することはできない。
ユーザー側が努力して拡張しようとしてもMODを扱うことになる上、その拡張も安定性や言語の壁などに苛まれることが多い。
オープンワールドには、拡張性の限界があるため、無限大とは言い切れない難しさがある。
…と、そんなことを思いながらブラブラとインターネットを放浪していたら、無限大に遊べるタイトルを見つけてしまった。
いや、正確には思い出してしまった。
それが、「ゆめ2っき」というゲームである。
「ゆめ2っき」は、ゆめにっき「っぽい」ゲーム群、通称「ゆめにっき派生」の一作品だ。
「ゆめにっき」は、ききやま氏によって2004年に公開されたフリーゲームであり、主人公窓付きが夢の中を歩き回るゲームである。
この夢が言葉では表現できない独特さを持っているほか、「LSD(PS1)」や「MOTHER」へのリスペクトも見られ、数多くのファンを生んだ傑作だ。
本作は、そんなゆめにっき「っぽい」ゲームを作るため、2ちゃんねるにて有志が集まって作られ始めたゲームである。
構図は基本変わらず、主人公うろつきが夢の中を歩き回るゲームになっている。
フリーゲームでは珍しく多人数制作であり、Wiki内で更新情報や制作者の情報を確認することができる。
…ここまで聞くと、「いや、普通のフリーゲームでは?」と思うだろう。
しかし、最初にした話を思い出してほしい。
このゲームを自分は「無限大に遊べる」ゲームであると紹介した。
このゲームのどこが「無限大」なのか。
答えは単純だ。
そう、このゲームは「いまだに更新を続けている」。
しかも尋常じゃないスピードで。
2023年になってゲーム内の収集要素の一つ、壁紙が「70枚追加」されるというわけのわからん規模の更新が起こっている。
現時点での直近の更新、Ver0.122cの時点でも大規模更新が行われ、大量の世界が追加された。
このゲームの初版公開は2007年である。
実に17年もの時が経っているにもかかわらず、恐ろしいボリュームの更新がたびたび行われているのだ。
こんなゲームがあるだろうか。
ファンメイドコミュニティが直接公式になっているようなものなので、いわゆるMOD文化に近いものがあるとはいえ、ここまで更新が続いているという状況はもはや狂気的である。
この拡張性は、一度取り込んだユーザーを決して離さない。
私もその一人だ。
ここで、私のゆめ2っき体験を軽く紹介しようと思う。
私は約10年前にこのゲームを一度クリアしている。
ゲーム内収集要素である壁紙を95%以上集めることで見られる「エンディング4」の回収に成功した。
当時のゲームバージョンは0.100iあたりだったと思う。
そのころの壁紙は約150枚。
それでもゲーム内時間で10時間以上の旅を続け、結構苦労してエンディングにたどり着いたのを覚えている。
その後、エンディング4回収後に見られる秘密の部屋を見て大満足し、しばらくこのゲームとは距離を置くことにした。
それから10年、久しぶりにゲームを思い出した。
「たまには遊んでみるか」と思って起動してみた。
RTA動画などは見ていて、ある程度更新や収集要素が増えていることは知っていたし、新しい世界が見れることにワクワクしていた。
すると、壁紙のページが4倍以上に増えていた。
現在の壁紙は「650枚」である。
…マジかよ。
10年という時が規模を大きくしたことはわかるのだが、それにしても多すぎやしないか?
その規模の拡張に愕然とした。
「この夢どこまで大きくなるんだ」という絶望と、「まだ見ぬ世界が俺を待っている」という希望が入り混じった、複雑な感情を覚えた。
実際遊んでみると、昔遊んだころとは何もかもが違うことに気づかされた。
見慣れた扉部屋はいつの間にかデカくなって、見覚えのない謎の光源体や目のついた扉が鎮座していた。
一歩入ってしまえば未知の領域である。
見慣れた世界でも、知らないオブジェクトから知らない世界に行けるようになっている。
エフェクトはいつもの場所にあるものの、別ルートでも回収できるようになっていたり、複数個所に同じエフェクトが置いてあるなど、ちょっと変わったところもあった。
…ここまで変わること、あるかよ!
そして、世界の拡張は横に広くなるだけでなく、縦(深部)へも進んでいた。
10年前の最深部と言われたいた「みなぞこ」「すいそう」は今や最深部の扱いを受けることなく、その規模と同じぐらい世界移動を要する世界がゴロゴロいる。
そしてその世界にも高確率で壁紙やメニュータイプが落ちている。
長い長い冒険の道が、各所に眠っているのだ。
これほど恐ろしいことが、そしてこれほどワクワクすることが他にあろうか。
…とこのように、ゆめ2っきは多人数制作によってどんどん世界を拡張し無限大の冒険ができる、恐ろしいゲームであることを紹介してきた。
しかし、このゲームはまだまだ進化をやめない。
さらに素晴らしいのは、このゲームがただ世界を広くするだけでなく、「技術的にも進化している」という点だ。
本作は、「RPGツクール2000」というツールを用いて制作されている。
RPGツクールは言わずもがなだが、RPGゲームを一般ユーザーでも作れるようにしたゲーム制作ツールだ。
2000年に作られたソフトウェアでありながらも絶大な人気を誇り、「Ruina」や「Ib」などに用いられている。
フリーゲーム制作の金字塔ではあるが、いかんせん古いソフトであることは事実だ。
描画できるものにも限界がある。
…と思っていたのだが、本作はそれをやすやすと超えてくることが増えてきた。
そもそも600枚以上の壁紙を読み込みながら、処理落ちを全くしない壁紙選択画面がおかしい。
10年前は150枚の壁紙でも読み込みに時間がかかっていたのだが、スクリプトが変わったのかかなりスムーズに画面移動ができるようになっていた。
さらに、世界の表現技術も恐ろしく向上している。
「古代遺跡世界」では移動するたびにスモークが出る特殊演出が盛り込まれているし、「パノラマアニメーション」ではアニメーションが動く中でうろつき自身も行動できるという謎技術が搭載されている。
ドット表現の美しさで魅せてくるような「大正屋敷」「水中華」などの世界も魅力的だが、技術力の高さを見せつけてくる世界がどんどん増えており、ゲームの進化をひしひしと感じられる。
まだ進化は終わらない。
このゲーム、「オンラインに対応している」。
「YNOproject」の「Yume 2kki Online」にブラウザからアクセスすることで、世界の見知らぬプレイヤーや友達と夢の世界を旅することができるようになったのだ。
夢の世界を放浪しながらチャットで雑談ができるようになっている。
ここまでくるともはやメタバースだ。
目まぐるしく世界の雰囲気が変わるゲームだからこそ、旅行気分で友人と夢の世界を歩き回れるというのは、なんとも面白いものである。
私も少し友人と遊んでみたことがあるのだが、緩い気持ちで気楽に放浪できたので楽しかった。
英語が基本になっているので野良で交流するのはちょっと勇気がいるが、それでも面白いものである。
さて、ここまでゆめ2っきの拡張性と、無限大の拡張性を語ってきた。
しかし、現時点で私は前提となる「このゲームの面白さって何なんだよ?」という部分に答えていない。
私は、本作のゲーム的面白さは「何が来るかわからない異様さ」にあると思っている。
本家ゆめにっきは言葉にできない世界が多数を占め、まさに夢の中(悪夢に近いが)を歩いているような異様さがある。
一方、ゆめ2っきは基本的に世界の内容がわかりやすく、夢の中にいるような違和感が本家ほど強くない。
神秘的な世界や明るい世界が多いのもあって、ゆめにっきほどダークでホラーなイメージはない。
それでも、このゲームは「次にどこに行くかわからない、ごった煮になった世界」が大量につながっている。
だからこそ、「次はどこに行くんだ?」というドキドキが味わえる。
しかも、明るい世界から暗い世界、現実味溢れる世界から欲望丸出しの世界まで、考えられる夢の世界が全部このゲームに詰まっている。
世界旅行をしているようなゲームなのだ。
そんな旅行気分を気軽に味わえるという強みを、私は本作の面白さとしてとらえたい。
また、あえて言うと「収集要素を集める面白さ」もある。
壁紙やサウンドルーム、メニュータイプにミニゲームと、本作は独自の収集要素がかなり多い。
それらをコンプリートするためにいろいろなところに行くという楽しみも持っている。
コレクター気質のプレイヤーには刺さる一品であろう。
ゆめ2っきの拡大はとどまるところを知らない。
無限大に遊べる、まさに夢のようなゲームに、是非皆さんも足を踏み入れてみて欲しい。
プレイは無料なので、気軽に遊んでみよう。