クラブ化粧品-白粉-
中山太陽堂は明治43年3月にクラブ白粉を発売。翌明治44年4月にはクラブ粉白粉、クラブ水白粉を発売。またその翌明治45年1月にクラブ打粉白粉、クラブ刷き白粉を発売。その後も次々と新商品や改良品を発売し続けています。クラブ固煉白粉、クラブタルカン粉白粉、クラブ美顔白粉、クラブ美の素水白粉、クラブ紙白粉、クラブ白粉錠、クラブ衿白粉、クラブ懐中用白粉錠、海綿用クラブ白粉錠、綜合ホルモン含有クラブ白粉、綜合ホルモン含有クラブ美身衿白粉、綜合ホルモン配合クラブ刷き白粉などなど、戦前だけでも数多くの白粉が発表されました。
クラブ白粉が発売された当時、使い勝手の良さから有毒白粉を使用している人は数多くいました。明治33年、伊東胡蝶園が試行錯誤の末に無鉛白粉を完成。中でも明治37年に発売された御園白粉は、良質な白粉として人気を得ます。各化粧品メーカーが無鉛白粉の品質向上を目指す中、有毒白粉の販売は禁止法が発布される昭和9年まで続きました。
そのような時代の中で、クラブ化粧品からは多くの優良白粉が発売されています。はき白粉、粉白粉、固練白粉と種類や特長を上げればきりがない程です。クラブコスメチックスで開催された展示「第16回企画展 昭和メイクの移ろい -白粉からファンデーションへ-」のパンフレットに、白粉の説明がされているので引用します。
クラブはき白粉の能書には、興味をそそられる内容が並んでいます。自分の肌の色に合うものを選びがちですが、着物の色に合わせて選ぶのも楽しそうで挑戦してみたくなります。ただ、漠然としたオススメなのは言わずもがなです。
白粉の刷毛
白粉を使用する時に必ず必要となる小道具です。刷毛に関する戦前の記事があったので、代表的な刷毛を書き出しておきます。
板刷毛
白粉を伸ばして塗る時に使用します。塗刷毛ともいいます。
筆刷毛
板刷毛では細かく濡れない部分に用います。
水刷毛
塗った白粉が乾いてから、刷毛に水を含ませ軽く搾ります。撫でるように伸ばして使用しますが、他の刷毛でも代用になるとのこと。
牡丹刷毛
粉白粉を含ませて仕上げに用います。
パッフ
一度掌に軽く表面を擦り、含ませた粉白粉を均等にしてから使用します。
クラブ化粧品の水白粉ではありませんが、水白粉はこのように使用する量を小皿に移し、刷毛で溶いて使用します。画像の化粧品は、昭和6年発売の銀座化粧品の水白粉です。大衆向けに発売されたので50銭と安価でしたが、資生堂らしい高級感を損なわないデザインを前田貢が手掛けました。
こちらは鏡台前で衿白粉を塗っている様子。衿から肩口にかけて塗ります。
…前置きが長くなりましたが、私が所有しているクラブ白粉について色々と綴っていきます。そんなに数は多くありませんが、入手したら追記を繰り返していくつもりです。
♣粉製無鉛トイレット クラブ粉おしろい
粉製無鉛トイレットクラブ粉おしろいが発売されたのは明治44年4月。この年、東伏見宮殿下渡英御用品としてクラブ製品多数お買い上げをはじめ、以後皇室よりの買上げが多数…との記述を見つけましたが詳細は不明でした。附属している栞を見ると、光栄録(其一)宮内省 皇后宮職 東宮職 御用品と記され、宮家の名が並んでいます。これは白粉の見本として、宮家に奉上されたものなのでしょうか。
御見本品には、淡桃色、卵色、白色の3色が用意されていますが、白色のみが無かったので全て使用されたのかもしれません。御見本品進呈の裏面には次のような説明が書かれています。
P.L.スミス氏は、中山太陽堂が明治43年に招聘した英国薬学者です。大阪朝日新聞(大正5年)に掲載されたクラブ美の素白粉の広告にも登場しています。
封を開けると白粉の紹介と注意が記されています。
♣佛國式クラブ粉白粉
11.2cm×7.7cmの小さなサイズです。未使用で状態が良く、封も開けられていません。多分クラブ新聞に附属してた試供品なので、大正3年頃のものかと。細密な華やかさはありませんが、アール・ヌーヴォーの曲線と簡略化された花の図案に双美人の配置は、全体的にまとまりのある洗練された構図です。図案の「帝国化粧品倶樂部」は、明治末〜大正初期頃の商品には表記されており、昭和に入ると見かけなくなります。試供品の裏には、白粉についてのPR紙が糊付けされています。
♧此粉白粉と共に名誉あるクラブ煉白粉 クラブ水白粉を薦む
クラブ白粉は畏くも 尊き邊りより御買上の光栄を辱うせる日本第一の無鉛白粉なり
クラブ白粉の薄化粧は遠目に美しく而かも近優りのする上品なる化粧なり
クラブ白粉は乗りがよく伸びがよく其上奥床しい匂ひを有する日本第一の白粉なり
今やクラブ白粉の薄化粧は上流社会に非常なる人気を博せり
♣無鉛トイレット クラブはき白粉
クラブ刷き白粉が初めて発売されたのは明治45年1月。この図案のラベルがいつ頃かはわかりませんが、白粉の色が1色のみのようなので最初に発売されたものでしょうか。
こちらは「帝國化粧品倶楽部謹製」の表記です。
こちらの表記は「中山太陽堂謹製」で、上の白粉よりは新しいものです。
♣純良無鉛 クラブはき白粉(肌色)と試供品
昭和11年に綜合ホルモン含有の商品が多く登場しました。この刷き白粉もその頃に発売したものかと。
淡化粧用にも濃化粧の仕上げにもおよそどんなお化粧にも必要な粉白粉です。色は白、肌色その他数種。クラブの近代綜色と名付けられた白粉の色は、白色、肌色、濃肌色、クリーム肌色一号、クリーム肌色二号、オークル色一号、オークル色二号、新肌色、黄肌色の9色。これはその中の肌色です。
ホルモンで肌が若返ります。
下の小さな白粉はイベントか何かで配布された試供品と思われます。昔の試供品は作りも凝っていてとても可愛いです。
♣新様式白粉クラブはき白粉(白色)
1920年代後半発売のクラブはき白粉。この白粉箱は素適な女性からの頂きました。赤い箱の刷き白粉が新様式として進化した白粉でしょうか。綜合ホルモン含有は変わらず、白粉の色が増えています。クラブ白粉の12色、白色、水色、桃色、藤色、肌色、濃肌色、クリーム肌一号、クリーム肌二号、オークル一号、オークル二号、オリーブ色、濃茶色。
♣新様式白粉クラブはき白粉(肌色)
共栄クラブ會特定化粧品から販売された白粉。他のはき白粉と変わらぬ効果で、色のバリエーションも同じだと思われます。こちらも綜合ホルモン含有です。
♣クラブ白粉錠
クラブコンパクト用の替え白粉で、思いのままに化粧直しが美しくできます。
中山太陽堂は大正5年に、鉄道の導線を化粧法に置き換えた広告を発表。一般に鉄道方式と呼ばれ、その分かり易さが評判を呼び戦後まで使われます。クラブ白粉錠は大正8年頃に発売され、この方式を採用しています。大正7年の大阪朝日新聞に広告を掲載。様々な広告でも使用されていました。このクラブ白粉錠は大正12年発売。この中に、コンパクトが入っていたわけではありませんが、手持ちのコンパクトを入れてみるとピタッと収まりました↓
♣クラブコケイ白粉(肌色)
昭和14年6月にクラブ固形白粉新装発売との記載があります。モダンな図案から推測すると、このコケイ白粉はその時に発売されたものかと。画像は載せていませんが、双美人は側面に配置されています。値段が表記されていますが、昭和初期頃からされ始めたのでしょうか。この値段は80銭?
白粉の色は、白色、肌色、新肌色、クリーム肌、オークル、黄肌。
♣クラブ粉白粉
いつ発売かは不明のものです。裏側がベークライトなので、戦前ではないかと思います。上のクラブコケイ白粉と同じように、色白粉だったかもしれません。
♣クラブ粉白粉(陽級)
この白粉は戦後のもので、東郷青児が手掛けた図案です。戦後改に確立された「太級」「陽級」「堂級」販売ルートの中の「陽級」の白粉。この他に堂級、太級と2種類の図案があります。白粉の色も戦前と異なり面白いことになっています。パリー・カラー(肌二号)、ネイプルス(オークル一号)、ピーチオークル(肌三号)、サイモンパフ(オークル二号)、ファッションローズ(肌一号)、レモンテイスト(黄肌)、ホワイトスノー(白いろ)。値段は100円。
♣クラブ白粉
明治43年3月に発売された、炭酸鉛を含まない純無鉛のクラブ白粉。そのこだわりは商品箱にも記されています。私が所有しているクラブ白粉は、昭和5年以降に売られていた物なので、発売当初とは硝子の形が少し異なっています。また、箱の記載内容も違うかと。
附属していたPRカード。昭和3年3月にクラブ美の素(化粧下)、昭和5年12月にヴァニシング式クラブ淡白クリームが発売しています。これらの商品の発売から、所有のクラブ白粉が売られていた時期を推測しました。
試供品か携帯用か不明ですが、クラブ白粉の小瓶です。大きいものと作りが変わらず、とても精巧に作られています。
♣クラブビシン
昭和3年6月発売のクラブビシン。白粉の作用とクリームの作用とを兼ねた便利白粉です。早化粧に適し、隠し化粧に適する便利なクリーム白粉で、女学生方が使用するのに好適。ホルモンで肌が若返ります。
肌色、白色と2色の展開だったようです。孔雀の羽が異国情緒を漂わせながら、裏面の説明の模様は蛸唐草のようで古典的な印象も感じます。
♣クラブ白粉
昭和5〜6年頃のクラブ堂級化粧品のクラブ煉白粉です。クラブコスメチックス100年史には、大正期頃の容器と説明がありました。状態良好箱付きで入手しました。商標も大正頃のものでしょうか。明治39年の商標は帝國倶楽部化粧品謹製でしたが、こちらは中山太陽堂謹製になっています。
どのような白粉かというと…
無鉛にしてノリ、ノビ共によくお化粧崩れがせず、白粉として申分のないものであります。濃化粧も淡化粧も溶き方一つで自由でありますが水白粉や粉白粉の淡化粧にその襟白粉煉として恰度頃合のものであります。
一號正價 金85銭 小瓶正價 50銭
♣クラブ水白粉
明治44年4月発売のクラブ水白粉。清楚な淡化粧、ほんのりとした白粉の美しさはこのクラブ水白粉の化粧美です。色は白、肌色その他数種。
裏は英字表記です。中山太陽堂は大正4年に英国への輸出を開始しています。これは輸出品?…ではなさそうですが、なぜ英字表記なのでしょうか。端的に言うと、この白粉は自然素材であるとか、お出かけやパーティにも最適な白粉であるというような内容が書かれていますね。
こちらは昭和14年より少し前に発売されたであろう、陽級化粧品の水白粉。多分、綜合ホルモン含有のものではないでしょうか。蓋はベークライトです。こういった細かい点からも時代を感じますね。
♣カテイフード
昭和3年2月発売のカテイフード(陽級化粧品の図案)。フードというのは若干の油分を含んだ乳液状の白粉です。皮膚に栄養をあたえて、シワ、シミ、吹出物などを防ぎます。また、紳士方の髭剃あと用として好適の化粧水。
平尾賛平商店レート化粧品のレートフードと並べてみました。レートフードは大正4年の発売。商標の件で裁判になりましたが、最終的に中山太陽堂が勝訴しています。
レートフードのラベル図案も可愛らしいです。
♣無鉛トイレットクラブ固煉白粉
大正3年5月発売のクラブ固煉白粉。純無鉛で、しかもノリ・ノビ極めてよく、もっぱら濃化粧あるいは襟白粉用とされています。またこれをクラブ化粧水で薄めれば普段の化粧も思いのままに出来るので、使用量の多い方々には徳用です。
大正15年12月には中ビンが発売されました。大正初期はまだ西洋への憧憬が強く、商業図案もアール・ヌーヴォーの影響が現れているように見受けられます。着物でもそうですが、大正時代に描かれる薔薇は細密画が多く、デフォルメされるようになるのは昭和に入ってからが多いです。化粧品の図案でもそういた傾向があるのでしょうか。
♣二酸化チタニウム配合 クラブ固煉白粉
クラブ特定化粧品のクラブ固煉白粉(特定品の図案)。いつ発売されたかは不明ですが、二酸化チタニウム配合、綜合ホルモン含有なので昭和11年以降のものでしょうか。ラベルがアール・デコを意識したモダンな図案です。未使用品で、中身も固まったまま。水に溶かして使用できるのかしら…。
♣クラブ衿白粉
こちらはラベルもサイズも異なる3種類。昭和7年10月発売のクラブ衿白粉。それぞれの発売時期は不明ですが、右下が販売当初頃、左下は昭和10年以降、上は戦後すぐくらいでしょうか。
ノリ・ノビ極めてよく、専ら濃化粧は襟白粉とされています。クラブ化粧水で薄めれば普通化粧も思いのままに出来ますから使用量の多い方々には誠に徳用であります。ホルモンで肌が若返ります。
余談ではありますが、昔の女性は衿元にも白粉を施していました。時代が下り、白粉を付けずにいる若い女性に対し「見っともない」と苦言を呈す老年もいたそうです。
♣クラブ白粉錠(懐中用大形)
懐中用の白粉錠が発売されたのは、大正15年3月が最初でしょうか。その後、昭和7年2月にクラブコンパクト新型が発売され、昭和11年11月にはクラブコンパクト時計型が発売されています。このコンパクトがいつの物か定かではありませんが、昭和11年の時計型かなと箱、説明書付きの未使用品で、状態良好。ただ、厚みがあり重たいので、帯に挟むのは向いていません。説明書は、お化粧法とクラブ白粉錠(中実)が取替可能という内容のものです。
♧お化粧法の説明
日本名物クラブ洗粉でよく顔を洗ひ
クラブ美身クリームを指先でよく擦り込んでタオルで顔を軽く拭き取り
一番高尚で美しい艶の出るクラブ白粉を化粧水で適度に溶かして襟は二重に顔は襟より少し薄く付け
牡丹刷毛で白粉を延ばし
水刷毛で白粉を均らし
濡れたタオルでソット抑へて白粉を落ち付かせ
クラブ頬紅で目の縁から両の頬をぼかし
其上からクラブ白粉錠薄く刷き付けられますと高尚で美しい淑女式のお化粧が出来上がります
♧クラブ白粉錠(中身)
此の最新式懐中用クラブ白粉錠の中実だけをお取替用として別に謹製発売して居りますから御使用済の上はクラブ白粉錠中実をお求めになれば幾回でも用意にお取替が出来て頗る御便利で且つ経済であります。
♣クラブ白粉錠
昭和初期発売のクラブ白粉錠。酷い劣化でしたが、シルバーポリッシュで念入りに磨くこと3時間、綺麗になりました。
鏡と白粉錠とパフとを備えて外出中の化粧直しに用いる近代女性の必携品です。極めて薄手で衣装も最新優美です。
帯の間に忍ばせて携帯するにはちょうど良いサイズです。値段は、正価 金一円六十銭。昭和5〜6年頃のカタログに、以下のような紹介がされています。
お化粧はどんなに丁寧にしましたところで火の側へ寄ったり、永く日に当たったり或いは永い時間が経てば自然にどうしても多少の崩れを見せるものであります。殊に鼻頭小鼻等は脂のために崩れの早いものでありますから常にクラブ紙白粉及びクラブコンパクトを懐中に用意して崩れの来ないうちに時々上から紙白粉で軽く押えて脂や汗を吸い取りそしてコンパクトのパフで軽く白粉を補って置くことが必要なのであります。
♣クラブ美の素
昭和3年発売のクラブ美の素(化粧下)。説明書付き。この図案は陽級から発売されたものだと思います。
この商品の特徴は、程よい脂肪製のクリームなので濃化粧にも淡化粧にも適しており、自然な美しさに仕上げることができるとのです。また、乾燥肌の人は化粧水として使用することを勧めています。
♣クラブ紙白粉
昭和9年発売のクラブ紙白粉。
化粧崩れした時、軽く押さえて使用します。携帯用の紙白粉なので、薄くて小さく帯の間にも挟めるサイズです。
♣クラブ堂級化粧品クラブ粉白粉(白色)
クラブ堂級化粧品のクラブ粉白粉37銭。
淡化粧並びに早化粧に用いるは勿論、固煉や煉白粉又は水白粉でしたお化粧の場合にも必ず最後にはこれを用いて仕上げをしなければなりません。水白粉同様これにも白色、肌色、桃色、空色の四種があります。容器は萩の模様を配した感じのよいものであります。
昭和10年以降に販売されたものかと思います。これよりも少し大きなサイズが昭和5年頃には販売されていました。堂級化粧品の御進物箱にはこの白粉が入っています。使用方は陽級、特定品の粉白粉とそう変わらず、図案のみが異なっていると思います。
♣クラブ堂級化粧品クラブ粉白粉(新肌色二号)
クラブ堂級化粧品のクラブ粉白粉 サイズは3種 35銭、40銭、50銭。
「これこそお化粧の粋…」と最近ではホルモン配合のクラブ色白粉を自由に使いこなして、地肌の色調、四季の感覚、衣裳の色と形に調和したシックな表情化粧が大流行です。
色白のお肌には華やかな桃色を色黒の人は肌色白粉で生地をかくして健康美を活かし、水色白粉は赤みがかったお顔をスッキリ映えさせる…こうして、一際目立った個性美で、その時その折の貴女を限りなく美しくする白粉こそ上品で近代的なクラブの十二色白粉です。
昭和10年代に販売されたと思われます。クラブ堂級化粧品のポスター中央に載っています。
クラブ化粧品の白粉を入手したら追記していきます。