見出し画像

光と影のカケラ 女の子たちの秘めごと その2

**
校舎裏にあるテニスコートから、部員達の掛け声が微かに聞こえてくる。大会が近くなるにつれ、光は毎日遅くまで部活での練習に励んでいた。

今日もいつものように、夕焼けに染まる空の下で私は彼女を待っている。

 
時折、夕暮れの冷たい風がザァ…っと音を鳴らして校門前に咲く桜の木を揺らす。

同時に桜の花びらが舞い散り、風に吹かれて私の足元をさらさらと流れていった。

近頃、私は光との関係に不安を抱くようになっていた。

教室内で楽しく話していても、どこか上の空のような表情を見せる彼女のことが気がかりだった。

ーー二人の距離が遠くなっていくのではないか。
そんな得体の知れない恐怖に怯えているのを日に日に感じていた。

光は、今何を考えているのだろう…。そんな思いが、ずっと頭の中をぐるぐると巡っていた。

**

携帯を開いて時間を見ると、いつも一緒に帰る時間を過ぎている。

男女の賑やかな笑い声が聞こえ、ふと校庭を見ると制服姿の光と親しげに話をする男子生徒の姿があった。

その男子生徒は、光が自分の目標だと慕っていテニス部の部長だと私は直ぐに気づいた。

テニス部の練習試合で応援に同行した際に、何度か顔を合わせて挨拶を交わしたことを憶えていた。

**

私は、校門から二人の様子をただ眺めていた。

ここから名前を叫べば話を止めて私の方へ来てくれると言う考えが頭を過ったが、彼女を想うとそれは出来なかった。

暫くの間、親しげに話していると校舎裏へ一緒に歩いて行くのが見えた。


ーー光!?

私は、急いで二人の後を追った。

ーー光は私を見捨てたりはしない。

そう言い聞かせながらも追いかけながら嫌な予感が脳裏を過る。

校舎裏へ向かうと、陽の当たらない人気のない場所で何かを話し合っている二人を見つけた。

「ひか…」
とっさに光の名前を呼びかけた。

しかし、目の前に広がった光景に喉を締め付けられ声が出せなくなった。

光と彼が、親密に唇を重ねていたのだ。


唇を重ね合わせている光は、私に見せたことのない知らない女の子の顔をして微笑んでいた。

私は、ただ何も出来ずにその場に立ち尽くすことしか出来なかった。

一瞬体の力が抜け通学鞄が音を立てて地面に落ちた。

背後から聞こえた鞄の音に、二人は体を引き離し驚いた様子でこちらを見る。

「影…!なんでここに…!」

言葉が行き詰まりながら戸惑いを隠せない光が私を見る眼差しは、もう知らない誰かのように感じた。

「…影…あの…」

光は私の傍に心配そうに近寄り、そっと肩に触れる。

私は、その手を振り払いカバンを無造作に拾い上げ、気づくと校門に向かって走っていた。

後ろで私を呼び止めようとする光の声を振り切って、私はその場から逃げるように走り去った。

暫く息を切らしながら走った後、走るのを止めた。溢れた涙が頬をつたう。

夕焼けの空に染まった見慣れた帰り道をひとり歩いた。

#小説 #創作 #百合小説 #創作百合 #同性愛

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?