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劇場型人生③ 出稼ぎの女

マレーシアの首都クアラルンプール。そこへ広瀬(30)は降り立った。
1998年6月30日に開港したクアラルンプール国際空港(KLIA)は、ツインタワーの次にマレーシア人が誇る美しい建造物とされる。KLIAは、「森の中の空港、空港の中の森」をテーマに、世界に名を馳せた日本人建築家、故黒川紀章氏が設計を担当したようだ。メインターミナルを大成建設にて、サテライトを竹中工務店で施工するなど、日本の技術力を駆使したアートである。
マレーシアの国教はイスラム教なのだが至るところに仏教、ヒンドゥー教の寺院が観光スポットとして存在したりと他宗教に寛容である。雰囲気がシンガポールにちょっと近くて中華系が多い印象だ。道路は比較的に綺麗で整備されており日本に近いような景色さえある。イギリスの植民地だったので市内も公園が多く緑溢れている。


広瀬の職場はダウンタウンから車で40分くらい離れたマレーシアのシリコンバレー、サイバージャヤでコールセンターのスタッフをやっていたそうだ。彼の仕事は主にIT企業からの依頼を受け付けることだった。専門的な内容の対応であるが、マニュアルに沿って返答し、試験情報、環境条件をパソコンに入力するのがメイン。約20オーダーを毎日処理していた。基本的に自己完結型の仕事だが、不明な点などは上司の判断を仰いで対応。毎月の俸禄は7000リンギットで当時のレートで約20万円だとか。タイのコールセンター事情と異なり、現地採用といってもボーナスはしっかり出て、日本に毎年帰国できるように航空券は支給だった。基本的に定時で終わるので帰宅途中に同僚の米山とカルフールのフードコートで食事したり、お酒を飲んだりしていた。

マレーシアに3ヶ月も住むようになると男って生き物は次第に女にだらしがなくなる。同僚の米山は広瀬を誘って女遊びを教え始める。最初はマレーシアのSpa及び置屋でベトナム人を物色していた広瀬だが次第に陸路でタイ南部ハジャイに渡りそこでマレーシア人とシンガポール人相手の置屋に通うようになる。そこでサケオから出稼ぎに来ていたタイ人女性ソムオーと知りあった。広瀬曰くソムオーは33歳。身長は155cmで細身。初対面で電撃のような衝撃が走ったという。それから毎週のように彼女の下に通い、指名して遊んでいたが次第にいつしか彼女のぬくもり忘れられなくて週末が待ち遠しかった、と広瀬は話す。待ちきれずほぼ毎日皮膚が擦り切れるまで自家発電していたようだ。

当時、KLからハジャイに行くときは必ず、午前の遅い時間帯にハジャイ入りしていた。ソムオーと出会う前にいくつか同僚の米山と置屋めぐりをしていたが、ある日たまたま米山と一緒にいけず広瀬が始めて自分で越境してハジャイに行ったときに運命の時がきた。


着いてから、タイ人のおっちゃんに置屋に連れて行ってもらったが、1件目はぱっとした女性がいなかった為そのままおっちゃんに連れられて2件目の置屋に行ったが、そこでもやる気なそうな女性ばかり。良い女は広瀬がハジャイに着く前に大半は取られている状況だったと知った風な事をいう。


さすがにちょっと焦り始めていたときに3件目の置屋に訪問し、一列目に並んでいる女性を見た女性がソムオーだった。
広瀬はビビっとした稲妻が身体の全体に走ったかのように運命を感じたそうだ。ソムオーは広瀬のタイプの女性だった。小柄で髪が長くてかわいい、と3拍子揃っていたようだ。まさにクリスと正反対の女性だ。そして何も考えずにすぐにソムオーをブッキングし広瀬は彼女を連れ帰ることに。

このハジャイの置屋システムは基本は一晩中、女性を連れ出す為、広瀬は泊まっているホテルへ一度帰り、部屋で彼女を待つ事に。ソムオーと知り合ってから数週間、いつも週末は仕事を定時に上がってまた同じ店に行く。彼女を指名してまた行為に及んだ広瀬は徐々にのめり込んで行き徐々に人生設計がおかしくなっていったようだ。


広瀬は金曜日の仕事をかならず定時に上がりそのまま越境して週末の愛のひと時をソムオーと楽しむ事を続けた。クリスと別れて男女愛にご無沙汰だった当時の広瀬は幸せであった。週末2日間をソムオーを置屋から連れ出ししてはハジャイの観光地やデートスポットを巡って過ごす。それが疑似恋愛であることをすっかり忘れていたのだろう。そして毎回、日曜日の夜になるとマレーシアに戻らなければいけない為、去り際に広瀬は涙しながらタイを出国していたようだ。いつしかこうして毎週末だけ会いに行くのもつらくなり出来るなら一緒に暮らせないかと感じた。彼女を、置屋の仕事から足を洗わせるように考え始める。


ソムオーが…….欲しい……と広瀬は置屋のママに交渉することに。


「広瀬さん、それでなんて言ったんですか?」


広瀬はあたりを気にしながら言った。


「ソムオーを。置屋から、、、買い取りました。約40万円です。あ、でも違うんです。ソムオーは自分からこの額を提示してきたんです。そうしたら店から出て一緒に暮らせる、と。」


と、ここで同僚の谷口がドアをノックし面会室の予約時刻が来たと言いにきた。広瀬との面会をここで一旦終わりにし、この話の続きを次回に聞くことにした。広瀬は深々と頭を下げながら当社を後にする。

             ー 劇場型人生③ 出稼ぎの女 (了)-










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