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循環とは何か 〜ゴミうんち展 鑑賞レポート〜

〜はじめに〜

21_21 DESIGN SIGHTにて2024年9月27日〜2025年2月16日の期間開催された、「ゴミうんち展」という展覧会を訪れ、鑑賞してきました。

タイトルがとても印象的なこの展覧会では、世界の循環に目を向けた資料や作品が展示されています。さらに、展覧会のチラシには今回のテーマである循環を体験できるような工夫もされています。(紙面に設けられている「しりとり」記入欄を通した言葉の循環の体験、会場でのチラシの回収ボックス設置を通した資材の循環の体験など)

今回私がこの展覧会を訪れた理由は、私の尊敬しているグラフィックデザイナーの佐藤卓さんが展覧会ディレクターを担当されていると知ったからです。予てより環境問題にも関心を持っていたため、この展覧会を通してどのような知識や新しい視点が得られるか期待を胸に会場へ向かいました。

この記事では、「ゴミうんち展」の全体の構成や、私の中で印象に残った作品の紹介をしていきます。現在展覧会は終了してしまいましたが、ゴミうんち展の魅力や会場の雰囲気をこの鑑賞レポートを通して感じていただけたら嬉しいです。



〜展覧会の全体の構成〜

はじめに、展覧会の構成を紹介します。
下記のイメージ図では、これから紹介する写真の撮影位置(4枚目除く)と、展覧会の回り順を確認できます。

※公式的に制作されたイメージ図ではないため、
位置やサイズにずれがありますがご容赦ください。

会場の中に入るとまず目に入ってくるのが、複数の地球型のディスプレイで構成された「めぐる環」という作品です。この作品では、世界で起きている循環や時代の変化についてディスプレイに流れている映像で学ぶ事ができます。他にも、人の手が加わらなければ循環できないということを示した複数の砂時計の作品や、分解者として循環の役目を果たしているカビを可視化した作品など、壁一面を使った比較的大きいサイズの作品が展示されていました。

奥に進んでギャラリー1へ入ると、「糞驚異の部屋」というエリアが現れます。ここでは”ゴミうんち”に関わる資料がぎっしりと展示されていました。ゴミとの関わりを感じやすいゴミ箱や、循環を感じさせるカレンダー、一見するとテーマとの関係性が分からないものまで、テーマについて深く考えさせられる多種多様な資料が揃えられています。

ギャラリー2では、大きな四枚のスクリーンに映し出された絵画を始めとし、机一面に埋め尽くされたバッチ、様々なビジュアルの陶器など、今回のテーマに沿った多くの作品が展示されていました。展示作品の中には制作過程の動画を流している作品もあり、より作品への理解を深めることができます。

主にトイレの前や会場の柱などに配置されている

そして、会場には所々に"うんちにまつわるウンチク"で作られた「うんち句」が配置されていました。「うんち句」はどこに配置されているかが分からないため、読むだけでなく、探して見つける楽しさもあります。

ギャラリー2を出ると、環境問題を踏まえてどのようなアクションが起こせるかということに重点を置いた作品が展示されていました。環境問題の現状や、”新しい循環”を生み出すために実際に行われている取り組みを知ることで、未来まで視野を広げることのできる空間です。


〜特に印象に残った作品〜

ここから、私が今回の展覧会で特に印象に残った作品の紹介をしていこうと思います。
下記のイメージ図では、作品名の前に記された番号を元に、作品の展示位置を確認することができます。

※公式的に制作されたイメージ図ではないため、
位置やサイズにずれがありますがご容赦ください。

① cycling 井原宏蕗

「cycling」は、様々な動物を、動物自身のうんちを素材に形づくるという彫刻作品郡です。今展覧会では、犬、ロバ、鹿等の作品が、会場の入口からギャラリー2まで、展覧会の様々な場所に展示されていました。うんちを"動物が生み出す彫刻”と捉え、「cycling」という”生命活動そのものをかたちにした”作品を生み出したという制作意図を知り、うんちで作品が作れるという事実、そして、うんちに対する新たな着眼点に驚きました。

② pooploop popup 

「pooploop popup」は、ギャラリー1の入口前に展示されていました。このカレンダーの束は、「ゴミうんち展」の”オープンから今日までめくられてきたカレンダー”が重ねられて出来ているそうです。普段ならゴミになってしまうめくられたカレンダーも、作品として価値を持った姿になっていることが印象的でした。

③ 紙コップ「糞驚異の部屋」

ギャラリー1の「糞驚異の部屋」で展示されていた資料の一つです。左上から右下に進むにつれて紙コップが腐敗していく様子が示されているように見え、目を惹かれました。普段使う綺麗な紙コップも、いずれは腐敗して土に還り循環の一部となっていくという流れが想像でき、印象に残っています。

④ Rust Harvest 狩野佑真

「Rust Harvest」という作品は、ギャラリー2を奥に進んですぐの場所に展示されていました。作品紹介の文を見た時に、錆で作られた作品だと知って驚いた記憶があります。落ち着きがありながらも目を惹かれる多様な色と柄がとても綺麗でした。

また、作品の横では実際に錆が作られています。ぷくぷくと音を鳴らしながら動く水の中に鉄板が浸されている様子が興味深く、見ていながら楽しささえも感じました。一般的に劣化の対象とされる錆に価値を見出すことができ、そこには美しい姿もあるという発想の転換がとても学びになりました。

⑤ STUDIO SWINE

”見過ごされがちな、あるいはときに嫌悪感を持たれるような素材”から作品を生み出すSTUDIO SWINEの作品です。今回の展覧会では、人間の髪の毛、古い缶、海洋プラスチックを素材とした作品が展示されていました。この中でも特に印象に残ったのが、素材の一部に人間の髪の毛を使った「Hair Highway」という作品です。メガネのフレームやクシなどの模様が髪の毛でできており、言われなければ分からないほどおしゃれな柄をしていました。会場では作品と共に制作過程の映像も流れていたため、廃棄物などの素材が作品として形を成していく新たなリサイクルの方法を知ることができ新鮮でした。

⑥ 気配 - 存在 吉本天地

ギャラリー2から出る際に展示されている「気配 - 存在」という作品です。この空間には、灰色の大きな衣服がいくつか置かれていました。素材は、”布を織るときに出る落ち綿を圧縮してできた、工業用フェルト”が用いられているそうです。私はその事実を知ったとき、「服を作る際に必要な材料である布の制作過程で生まれたこれらの落ち綿は、ゴミではなく人にとって価値あるものになり得たのかもしれない。もしかしたら布となり、服となり、着る人が存在していたのかもしれない。」という考えが浮かびました。落ち綿からできたこれらの”抜け殻のようにも見える衣服の彫刻”から、”誰かがまとっていた”かもしれない人の気配を感じ、感慨深かったです。少し薄暗い道に作品が点々と置かれていたことから、少し不気味な雰囲気も感じる空間でした。

⑦ グラフィックデザイナーと環境問題 清水彩香

“パッケージを主軸としたデザイナー”として避けては通れない”クリエイターにおけるゴミ問題”に向き合った、清水さんのリサーチレポートがまとめられた展示です。壁一面が写真と言葉で埋め尽くされた空間に一瞬で目を惹かれました。生み出した後に廃棄されることが多いパッケージのデザインを手掛ける立場から、その環境問題に自ら向き合い、行動を起こされている姿にとても魅力を感じました。

⑧ 未来を覗く窓 竹村眞一

展覧会を回って最後に展示されているのが、環境や循環を考えて作られた商品や取り組みに関する展示です。実際の商品の展示と共に音声付きの解説動画が流れており、現在行われている循環を意識した様々な取り組みを知ることができました。(廃棄食材から作られた染料を用いたシューズや、廃棄物から作った使い捨てにしない、転生するプラスチックなど) 現状を知り、この状態からどう循環させていけるかというアクションの例を学んだことで、より一層循環について考えさせられる展示でした。


〜最後に〜

この展覧会を通して、”ゴミうんち”という存在に対する印象や考え方が変わりました。嫌悪感が全く無くなったとはいいきれませんが、”ゴミうんち”という存在を以前より広い視野で捉えることができるようになった気がします。多くの資料や様々なアーティストさんの作品を見たことで、一般的にゴミとして扱われるものにも価値を見出せるということや、ものは循環していくということを改めて実感することができました。私は今回展覧会全体を2時間半弱の時間をかけて回ったのですが、それでも時間が足りないと感じるほど内容の濃い展覧会でした。

展覧会を訪れてから数日後、NHKの「DESIGN × STORIES」という番組でゴミうんち展が紹介されていました。動画内での”見られる方によって興味を持たれるところが全然違う。でもどこかに入口がある。”という佐藤卓さんの言葉の通り、私自身も、展示資料の中で私なりに惹かれているものがあったように感じます。多くの資料が展示されているからこそ、見る人によって視点や注目する点も自ずと変わってくるということ。そして、多様な資料があるからこそ、全ての人が「循環」の世界に入ることができると分かり、その深さに驚きました。この番組を通して、展覧会を見ているだけでは気づくことが出来なかったアーティストの方々の”ゴミうんち”に対する考えや取り組みの詳細を知ったことで、より一層世界の循環について考えを深めることができました。

「ゴミうんち展」は、美術が好きな方も、環境問題に関心がある方も、誰でも幅広く楽しむことのできる展覧会なのではないかと思います。
現在、展覧会は終了してしまいましたが、「ゴミうんち 循環する文明のための未来思考」という今展覧会のコンセプトブックや、先ほど紹介した「DESIGN × STORIES」の動画もあるため、展覧会の内容や雰囲気が気になった方はぜひこちらもチェックしてみてください。

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