【ショート・ショート】甘い一口
お題
「感動する小説を書こう」
※苦手な表現が含まれる可能性がありますので、ご注意ください
本文
「一口ちょうだい」 静かなカフェ、向かいの席に座った彼女は恥ずかしそうに言った。 ふだん自分からお願い事をしない彼女としては、とてもめずらしいことだ。
僕は子供の頃から、人にものを上げたり、貸したりすのが苦手だった。 自分が集めた宝物に触れられるのが嫌だったんだと思う。 そのことは彼女も知っている。 だから、”どうしても”ということなのだろう。
僕は仕返しとばかりに大げさに渋い表情をつくった後、「はい、あーん」と彼女をからかう。 彼女は、ありがとうと頬を染めながら微笑む。 そして、ごめんねと囁いてから僕の左手、小指第二関節までを小さくかじり取った。
不思議と痛くはない。 彼女も美味しそうに味わってくれているので良しとしよう。 僕は彼女に少しだけ甘いのだ。
あとがき
このショートショートは「感動する小説を書こう」というチャレンジ企画の中で創作したものです。「心が動かされれば何でもよい」とのことだったのでこのような形になりました。ちょっとしたアソビが入っていたりもするのですが、そのあたりは動画内でお話しています。よかったら覗いてみてください。