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こよみだより *重陽の節供*


日中はまだ暑さを感じるものの、ハラハラと舞いおちる桜の木の葉に 秋の訪れを実感する今日この頃です。
二十四節気では今日、『白露』を迎えました。 


そして、明日9月9日は、五節供のひとつ「重陽ちょうようの節供」です。
陰陽思想では、奇数は縁起の良い数とされており、その極みとなる9がなる意味で「」と名付けられました。
最大の陽数が重なることから、大変おめでたい日として 最大に祝われたといわれます。
(五節供や陰陽思想については、以前の記事で記しました。)




✽ 菊の節供

重陽は別名「菊の節供」とも呼ばれます。
平安時代の宮中では、菊花を観賞し、花びらを浮かべたお酒を飲んで 長寿を願うという風習がありました。菊は長寿をもたらすおめでたい花であり、香りで邪気を祓うとされたのです。



また宮中では、菊を用いた「被綿きせわた」という行事も生まれました。重陽の前夜に、菊の花に真綿をかぶせて香りと夜露を移し、翌朝その綿で肌をぬぐうというものです。
これも邪気を祓い、長寿を願うものでした。加えて菊の露でぬぐえば老いが去り、肌が若返るともいわれたそうで、当時の貴族女性に大変もてはやされたのだとか。
エステも無い時代の、風流な美容のおまじないですね。


一方、起源をたどれば、陽(奇)数が重なる日は おめでたい反面、足すと偶数になるため不吉なことが起こるという考えがありました。ゆえに邪気祓いをしたというのが五節供の始まりです。
古代中国では、「9月9日に郷里に災厄がある。急いで高山に登って菊花の酒を飲めば災いは消える」という忠告に従ったところ 一家は災難を免れた、という伝説があるそうです。この中国の故事から、重陽の節供に菊は欠かせないものになったといわれています。




✽ 栗の節供

旧暦の9月は作物の収穫が終わるころ。重陽は収穫祭の時季とも重なり、栗を食べて祝う風習もあったことから「栗の節供」とも呼ばれます。


菓銘『ささ栗』: とらや




✽ 和菓子のおはなし

この時季、和菓子屋さんでは先ほどの「被綿きせわた」を菓銘としたお菓子を見かけます。
つくるお店によって意匠が変わり、使うあんの材料も異なるようですが、菊花の形が美しく象られ、その上に綿を表現したものが乗せられているものを よく目にするように思います。
どのお店のお菓子も、とても美しいものです。


菓銘『被綿』:森八



中でも私は、以前 青木 直己先生の講座で見せて頂いた、かつての虎屋さんの『被綿』の姿が忘れられません。禁裏御用菓子屋だった虎屋さんが、江戸時代に宮中に納めたという「百味菓子ひゃくみがし(※)」の中にありました。
その『被綿』は、まるで まあるいお饅頭のような形をしていました。なにも飾りがついているわけではなく、ただほんのりと、白から黄色への淡いグラデーションがかかっているものです。
その きわめてシンプルな姿から、黄色い菊の上に ふわっ とかぶされた真綿のイメージがふくらみ、うっとりしたのを覚えています。
こうして “想いを馳せる” という趣まで与えてくれるのですから、和菓子って、つくづく素敵だなと思います。


(※) 「百味菓子ひゃくみがし」について

江戸時代に宮中で 特別なお祝いの行事があると、虎屋さんに百味菓子ひゃくみがしと呼ばれる100種類のお菓子の注文があったそうです。100種類です!
そのお菓子は、百味箱ひゃくみばこと呼ばれる5段重ねの立派なお重に入れて納められました。

先述の私が拝見した資料とは、再現された百味菓子が 百味箱に納められている写真です。(「虎屋文庫」所蔵。)
その中に『被綿きせわた』もあったわけですが、菓銘はそれぞれにつけられていることを考えると、百味菓子とは100個の名前の由来を楽しむものでもあったと言えそうです。

また当時のお菓子は約150gと、現在虎屋さんで販売されている生菓子の3倍くらいの大きさ(重さ)があったとのこと。それが100種類も立派なお重に並ぶ姿は、色とりどりでさぞかし壮観だったことでしょう。



ちなみに9月は、重陽の節供に頂く菊や栗にまつわるお菓子のほか、中秋の名月の月見団子、お彼岸のおはぎと、行事にちなんだ和菓子が華やぎます。
和菓子を見ても、秋到来、という感じがしますね。



かつては、五節供の中でも もっとも重要視されていた重陽の節供。でも時代の流れとともに、あまり聞かれなくなってしまいました。
昔ながらの風習に浸ってみたいと思っても、旧暦の9月とは異なり、現在のこの時季には まだ菊は花開いていないでしょう。

せめてちいさな和菓子を頂いて、菊の節供を味わってみたいと思います。


菓銘『菊の雅きくのが』:鶴屋吉信





※ 生菓子は、季節の移ろいを細やかに捉えているため、販売期間が短いものです。今日写真を添えた とらやさんの『ささ栗』や、鶴屋吉信さんの『菊の雅』は、既に販売終了しています。現在は、また別の素敵なお菓子が店頭に並んでいることと思います。




盃の写真について

タイトル写真は、有田焼の盃です。
初めて有田を訪れた際に買い求めた、私にとって懐かしの酒器です。


そして文中で使用したのはこちら。

平戸洸祥団右ヱ門窯・菊花飾細工うつわのおはなし 三川内焼

もしかしたら、重陽のための盃なのでは?と思ってしまいます。
菊の花びらは不要だったかもしれませんね。



長くなりました。最後にもうひとつ、季節の和菓子の写真を添えておしまいにいたします。


栗大福:叶匠壽庵かのうしょうじゅあん
中にはゴロンとした栗が。



食欲の秋ですね🌰 




最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。



どうぞ すてきな秋の日を♡




— 明後日は十五夜です。—




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