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東海道五十三チャリ:彦根〜名古屋

霊峰伊吹山

早朝、彦根を出発して東海道本線沿いを走って名古屋を目指した。出発した時は暗くてわからなかったが、前日の夜寝ている間に雨が降ったようだった。今日の天気は晴れ。だんだんと空が白んでくる。
米原で琵琶湖とお別れして関ヶ原へ向かう。雪を被った真っ白な伊吹山が姿を現した。昔高校時代の友人と登ったことがあるその山は以前感じた印象とは全く違っていた。

「なんか不思議な感じやわ。夏にあの山登ったときとは全然雰囲気ちゃうんよなぁ。ただ雪で見た目が変わってるだけとかじゃないんよなぁ。なんていうか、あの時は電車で楽に行ったけど今回はチャリでここまで走ってきてるってのもあるかもしれん。」
Sは伊吹山を眺めながら渋い顔をしている。何か思うところがあるのだろうか。
「どないしたん、神妙な顔して」
「うん、トイレに行きたい」
この男は私のエモに浸った言葉など一切聞いていなかった。なんともむず痒い気持ちになった。
少し前を爆走しているJさんに追いついて次のコンビニで休憩することを伝えた。

関ヶ原の亡霊に誘われて

コンビニからは伊吹山が綺麗に見えた。簡単な補給をしつつ地図を確認する。Sが覗き込んでくる。
「このまま21号を東に進む感じ?」
「それでもええんやけど、結構この先は車メインのバイパスみたいな道になりそうなんよな。多分自転車で通ってもええと思うんやけどちょっと脇道にそれるのもアリかもしれん。」
Jさんがこちらの提案に乗ってきてくれた。
「車多いところ走るよりも抜け道走る方が楽しそうよな。」

コンビニを出発して関ヶ原の手前まできた。案の定、道は広く大きくなったが追い越していく車の速度が速くなり、交通量も増えてきた。
そして太陽が昇るにつれて霧も出てきた。前日の雨が蒸発したのだろうか。ただでさえ山に囲まれたエリアなので霧が出ることは不思議なことではない。
「この辺で下に行こうか。多分その辺から別の道に入れると思う。」
車道を外れて横道にそれた。ちょうどそこから先、今まで走っていた道はバイパスのような陸橋になっていた。
陸橋の下をくぐり道があるはずの方向へ進む。
「ほんとにあってる?」
Jさんは少し不安そうである。
「大丈夫だと思います。というかこの道しかないはずなので。」
さっき地図で確認した見手であることは間違いないはずなのだが、道と呼ぶにはお粗末なじゃり道になっていた、周囲は雑木林が広がっている。
霧も相まってなんとも不気味な雰囲気であった。
「冒険だ冒険だ!」
Sはかなり気持ちが高まっているようである。何かに取り憑かれてしまったのであろうか。
しばらく砂利道と道なのかどうかわからない草むら(?)を通り抜け、ようやくまともなアスファルトの道があるところまで出てきた。
霧も晴れて、方角が掴めるようになった。しばらく走って私は2人を止めて地図を確認した。
「お?まって、関ヶ原もう通過してんねんけど。垂井がすぐそこやわ。いつの間に、、、」
「ははは、狐に化かされたか、関ヶ原の落武者の導きか、どっちだろうね」
「どっちも嫌やけどまぁ方角は合ってるし全員無事でいるからええわ」

Sのディレーラーが不機嫌

前日からSのリアディレーラーはなんとも不調であった。変速したいときになかなか変速できないらしかった。
今となっては、ケーブルが伸びていたかディレーラー位置がずれていたかだろうと予想できるが当時はそのような便利な知識を持ち合わせていなかった。
Sはそれでもディレーラーをガチャガチャ言わせながら山岳エリアを抜けて濃尾平野へ出てきた。しばらく走って揖斐川長良川木曽川を渡る橋の手前まできたところでついにSがストップをかけた。
「ちょっとまって、変速が全くできなくなった。調整する。」

Sがごちゃごちゃやっている間にJさんのCAAD10の写真を撮らせてもらって待つことにした。この旅では一応Nikonの一眼を持ってきていた。
「いい写真撮るなぁ。俺カメラとか持ってないから自転車のこんなええ写真持ってへんわ。」
「結構荷物大きくなるんですけどね。カメラあると楽しくなりますよ。」
「俺の家コーギー飼ってるから犬の写真撮っても楽しそう」
Jさんの犬の写真を見せてもらってワイワイしているうちにSが絶妙な面持ちでこちらにきた。
「とりあえず動くようになったけどかなり渋い。あまり変速できないからゆっくり走るよ。2人は先に行ってて。名古屋で合流にしよう。」

Jの本気

Jさんと私の2人はロードなのでそもそもSに合わせてかなりゆっくり目に走っていた。きっとJさんは我慢していたのだろう。そのリミッターが外されたのをいいことにJさんは飛ぶように前を走った。
名古屋まで信号待ち以外ペースが落ちることは一切なく瞬く間に名古屋駅前に着いてしまった。
息を切らしながらなんとか追いついた。
「Jさんやっぱ速いんすね。着いていくのでやっとでした。」
Jさんは”そう?”とでも言いたそうな涼しい顔をしている。
「とりあえずどこかに自転車止めてお昼ご飯の場所探そうか。店でSを待とう。」

近くにあった駐輪場に自転車を止め、昼食になりそうなものを探した。
「やっぱ名古屋来たら矢場とん食べたいっすね。」
「この辺にお店あるか?」
「名鉄の上にあるみたいですよ。」
エスカレーターを上がって店の前に着くと長蛇の列だった。かなり向こうの階段まで列が伸びている。
「S待ちがてら並ぶのでちょうどええかもな。」
Sに居場所は送ったが彼が一体いつ着くのかは謎であった。


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