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東海道五十三チャリ:浜松〜焼津

雨雲を操るS

朝、外へ出ると見事なまでの曇りであった。
「君は前を走っちゃダメだからね。雨降るからね。」
Sが釘を刺してくる。
私が雨男であることに異常なまでの警戒をされているのだが、その警戒は正しい。
海沿いの道を走ろうということで国道150号線を東に進み天竜川を渡った。
長野から遠路はるばる流れてきた大量の水が太平洋へと注がれていく。天竜川にかかる橋もこれまで渡った橋の中でも一二を争う長さであった。
川を渡ったところで右折し川沿いに海の方へ向かった。

私は目的地までのルートを作って地図を頭に叩き込むのが得意だった。
今となってはサイコンに地図データを読ませるなり、スマホホルダーにスマホをつけてナビをさせればいいのだろうが、昔はそんな高性能なサイコンも持っていなければスマホもそんな使い方をすればすぐに充電がなくなるので使えなかった。
そんなわけで旅のナビ役は基本的に私がやっていた。
川沿いに走り始めるまでは私が先頭を走っていたのだがいよいよ雲行きが怪しくなってきた。ポツリポツリと小さな雨粒が顔に当たり始めていた。風もかなり強く吹いている。近くにはドス黒い雨雲が迫っていた。
「そろそろ本格的に雨降っちゃいそうやね」
Jさんが不安そうにしている。一応雨具は持ってきているので、さらに降り始めたら着ようかなんて話していると少し後ろを走っていたSが追いついてきた。
「ここから先はもう川沿い真っ直ぐで、海に出たら海沿い真っ直ぐ?」
「そうそう。防砂林の中に道があるみたいやからそこを走れるところまで走ろうと思ってる。」
「おっけい、じゃここからは俺が引くよ。雨男は引っ込んでて。」

Sが先頭でしばらく川沿いを走る。大きな風力発電機が羽をブンブン回している。風はかなり強い。
ふっと風が止んだ。一瞬の静寂ののち、さっきまでとは違う緩やかな風が吹き始めた。さっきまで我々に追いつこうとしていた真っ黒な雨雲は向きを変えて我々の進路外に向かって流れている。自分たちの頭上は周りと比べても雨雲が薄くなってきた。

Sは天候を司る神なのか?

地面に砂浜の砂が積もっているような道に出た。海沿いについた。
ここからは海沿いにずっと続く防砂林の中を進んでいく。
多少の雨が降っても気が守ってくれそうであるが、それ以前に神に守られているので雨の心配は不要そうだ。

爆走Jさん足止めをくう

御前崎に向かって防砂林の中の道を走っていたが、防砂林もなくなり、ただの砂浜に出てしまった。仕方なく少し内陸側に戻ってまた国道150号にでた。
この地域は冬は季節風が吹き荒れる。幸い追い風となってくれたので走るのはとても楽だった。
ここでJさんの我慢が限界を迎えた。
「先で待っておくからちょっとかっ飛ばしてええ?」
「いってらっしゃい」
JさんはひらひらとCAAD10を振りながら飛んでいった。
リアディレーラーの調子が悪いSは少し後ろを走っている。一応見える範囲にはいるようだが1人になった。

私はどちらかというと1人で走る方が好きだ。自分のペースで自分の気の向くままに黙々と走るのが心地いい。ただ走ることに集中できるのが好きなのだ。何人かで旅をするのもワイワイできて楽しいのだが、それでも途中途中にこういう1人の時間は欲しい。
数キロそんな1人ライドを楽しんでいたら前方でJさんがバイクを歩道でひっくり返している。何かメカトラブルだろうか。
「どうしました?」
「やっちゃった、パンクや」
飛んでいったJさんの羽はもがれたようだ。

自由人

パンク修理している間にSも追いついてきた。
少し先に道の駅があるからそこで昼食にしようということになった。

Sは昼食の取れる場所が道の駅しかないことに少し不服そうであったが空腹には勝てないのか、3人でコロッケ定食を胃袋に詰め込んだ。
Jさんが地図を見ながらこちらを見てくる。
「この先どうする?御前崎灯台まで行く?時間も少し押してるからもうさっさと先に進んでもいい気がしてるんやけど。。。」
確かに御前崎灯台は行きたいがそっちにいってると静岡にいつ着けるか分からない。このまま国道沿いを走る方が楽だし早いのは間違いない。
どうしたものかと考えているとSが口を開いた。
「俺はちょっと海鮮丼屋見つけたから、そこ行ってくるよ。2人は先に進んでて。焼津あたりで合流しよう。」
さすがの自由人である。この男がこういうことを言い出したら引き止めても意味のないことは私もJさんも承知していた。
「おっけ、じゃあ灯台やめてさっさと先に行きましょう。」

道の駅を出発してSは左に、私とJさんは右に進んでいった。SがいなくなったことでJさんはまたしても快走が止まらなくなった。焼津までは予定していたよりもかなり早く到着してしまった。
Sを待つため、適当なカフェに入って足を休めることにした。

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