全ての始まりは四国一周:第五章・迫り来る熱帯低気圧
雨男の本領発揮
朝、心地よい波の音で目が覚めた。昨夜は暗くて気づかなかったが我々が寝ていたのは堤防から道路一本挟んですぐ隣の公園だった。朝の5時。人々が動き始める前に寝床を撤収し、堤防に腰掛けて朝焼けの空を眺めながら前日にコンビニで買ったおにぎりを頬張る。
「とんでもなく景色綺麗なところ走ってたんやなぁ」
「暗くてなんも見えへんかったからなぁ」
「今日はどこまで走るよ」
「高知くらいまでは行けるんちゃう?」
呑気に話しているとスマホを眺めていたルイガノ君が私を指差して口をパクパクさせている。
「こいつ、やりよったわ」
「なんやねん」
「台風来てる」
「あ〜ね。あー、え、、、え?」
太平洋の南から日本に向かっている台風の予報円が美しすぎるほど綺麗に四国を、しかも高知を直撃している。さすが私である。自分に脱帽した。
「これ意地でも今日は高知に入って明日は高知で一日待機やなぁ」
不幸中の幸いなのか、台風がぶつかるのは明日だけで今日と明後日は終日晴れ予報となっている。
景色天国、灼熱地獄
朝食を済ませ、室戸岬へ向かって海岸沿いを走る。朝なのでそこまで気温も高くなく潮風が心地いい。朝焼けでうっすらとオレンジに染まる空がだんだんと明るく青くなっていく。程なくして岬に到着した。
周辺は遊歩道が整備されており、高台には灯台もあった。朝早い時間だからか人もおらず、とても静かである。連日のライドで疲れていた我々は波打ち際の岩場で贅沢な二度寝を満喫することにした。
しばらく寝ていたが流石にだんだん暑くなってきて自然と目が開いた。
「いつまで寝てんねん、ぼちぼちいくぞ〜」
先に起きていたルイガノ君と共にエスケープ君を起こし、また走り始めた。
室戸岬から先、高知までは景色はとてもいいのだがいかんせん変化がなさすぎて飽きてしまった。そしてまた尻の試練が歩み寄ってきたのに加えて膝の試練がこちらの様子を伺い始めていた。
さらに追い討ちをかけるように夏の暑さが襲いかかってきた。もはや四面楚歌である。
「無理無理、いっぺん休も。暑すぎる。」
ちょうど屋根のある休憩できそうな東屋があったのでそこに避難することにした。
天気予報ではその日の気温は30度超えとのことだった。今では普通になってしまったがその当時まだ30度を超えるというのはかなりの暑さを意味していた。
「今日はもう休み休みいこ。」
「夜くらいから天気悪くなるらしいからそれまでにはつかなあかんなぁ」
「宿はどうする?ネカフェ?」
私は台風を呼び寄せてしまったことに少し負い目を感じていたので朝の間に少し宿を調べていた。
「エアビー(airbnb)で見つけたゲストハウスならネカフェとほとんど同じ値段で泊まれるで。」
「ナイス〜、もう取っちゃってそれ」
この旅が始まって初のまともな宿泊施設である。そろそろ布団が恋しくなっていたのでちょうどよかった。
休み休みながら走り続け、高知の少し手前まできたところでまたしても全員の暑さ耐性が0になってしまった。思わず道路沿いに現れたスーパーに逃げ込んだ。
飲み物と補給のお菓子をいくつか買い、なぜだか少しどんよりした雰囲気の蛍光灯の下に余った隙間の使い道がわからずなんとなく作られた感じの休憩スペースに腰を下ろした。
万年そこに居座っているかのような風格の地元の老人に好奇の目で眺められていることなどお構いなしに、命を繋ぐ水分と食料を摂取した。
「体冷えるまでしばらく休憩してから最後高知まで走りきろ。」
「天気予報的にはもうすぐ曇り始めるらしい。風も強くなってきてるからあんまりダラダラせんとこ。」
とにかく暑かった。正直雨でも降ってくれるのであればありがたいくらいに思っていた。
ありがたいことにそこからは警戒していたほど風も強くなく、なんとか高知までたどり着くことができた。
「宿はどこなん」
「はりまや橋ってとこ。がっかり観光スポットらしい。」
「なんやそれ。」
「でかい橋があると思って行ったらしょぼいのんしか無いらしい。」
しょぼい橋があるとハードルを下げて行ったが思っていた以上に小さな用水路のようなものにかかっている橋だった。
「おh,,,」
「しょぼ過ぎて逆におもろい」
「何がどうなってこれが観光名所になんねん」
などと無礼なことを言いながら宿へ向かった。魚の棚商店街の中にあるゲストハウスにお世話になった。
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