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東海道五十三チャリ:磯子〜東京

応答あり

翌日LINEを見てみるとSからの返事が何件か来ていた。とりあえず生きていることは確認できてよかったと胸を撫で下ろしたのも束の間、その内容はあまり平穏なものではなかった。

”パンクとか色々あって、夜ライダーに助けられてた。なんとかなってはいるけど、まだ湘南手前だから、横浜合流にしよう。”

いや、色々って何があってん。夜ライダーとは?というツッコミをJさんと入れつつ横浜へ向かった。交通量こそ多いが道は広く難なく横浜に到着した。人生初の横浜。ひとまず中華街でお昼にすることにした。

駐輪場に自転車を置き、中華街まで歩く。すでにこれまで走ってきた道とは比べ物にならないくらい都会である。しかしどこか親近感がある。なんだろうこの感じは。
神戸だ。
神戸の街と雰囲気が似ている。六甲山がないので景色が似ているわけではないが、空気感のようなものに親近感があった。
観光客が大勢歩いている。皆思い思いの場所で食べ歩きをしている。
「Jさん、どうしましょ?食べ歩きにしますか?」
「いやー、S待たんとあかんし、どっかのお店入ってのんびり食べるのでええんちゃう?その上で余裕あればなんかおやつ買って食べ歩こう。」
調べるとお昼になると行列ができると書かれている店が目の前にある。まだお昼には少し早い時間だったのでまだ客もそこまで入ってないようだ。
「Jさん、あそこにしましょう。Google評価は悪くなさそうです。」

何品か選べるコースを頼み、のんびり食事を楽しんだ。
そうこうしているうちにSから連絡がきた。
”そろそろ横浜着く。どこいる?”
”中華街で飯食ってる。”
”オッケー、じゃあ赤レンガ集合にしよう。”
何がOKなのか。人の話聞いてたか?と思ったが赤レンガもすぐそこなのでまぁいいかとJさんと店を出た。
Sが”そろそろ着く”と言うことはまだしばらくかかるだろうと予想して胡麻団子を食べ歩きした。
思ったよりも脂っこく重たかったが大学生の胃袋は難なくそれを飲み込んだ。
中華街も一通り見て回れたので、自転車を回収して赤レンガ倉庫へ向かった。

ゴール、東京へ

赤レンガ倉庫ではすでにSが待っていた。
「おう、ちょうど俺も今着いたところ」
やはり胡麻団子で時間を潰していて正解だった。
「いや、それより昨日何あってん」
「それな。聞いちゃうか。いや、まずパンクして〜」
「そう、それで?」
「パンクはすぐ直せたけど、すぐまたパンクして替えのチューブがなくなった」
「そんでどないしてん」
「チャリ押して最寄りの自転車屋まで歩いてたら夜ライダーに助けられましたね。夜ライダーは昼間は車多いから夜走ってる人たちのことね。その人がチューブくれた上に、困ってるならうち泊まっていきなと言って、そこにお世話になってた。」
「何1人でめちゃめちゃおもろそうな旅してんねん。」
「いやー、そこから朝頑張ってここまで漕いできたというわけですね。」

なんともこのSと言う男は強運の持ち主である。この後の別の旅でも様々な奇跡を起こすが、これはその始まりであった。
「中華街はどうやった?」
「まぁ美味しかったで。」
「そうか〜、上海人である私からすると中華街の飯はエセ中華やからなぁ〜」
「日本人がカリフォルニアロール見てる感覚ね。わかるで。」
「ガチ中華食べるなら上野あたりがいいかな。」
「この旅では上野までは行かんけど、またなんかの時にでも行こう。ほな、東京向かおか。」

東京までの道は道も多くアップダウンが思ったよりもあった。ちなみに土地勘がない我々は何も考えずに1号線に沿って走っていた。蒲田経由の道ならそうでもないことをこの時の自分達に教えてあげたい。
慶應の前を通り、三田通りに入る。私たちを東京タワーが迎えてくれた。
「おぉ、東京来たって感じするなぁ」
「もうあとちょっとよ」
東京タワーをすり抜け、桜田門で皇居前に出た。東京のど真ん中とは思えない道の広さに感動しつつ、丸の内の駅前に到着した。
ゴールというのはいつもあっけないものである。

駅前で写真を何枚か撮った後、Jさんは友達の家に泊めてもらうということで解散となった。
「ありがとうな。めっちゃ楽しかったわ。」
「こちらこそ、最高の旅でした!」
私はJさんと熱い握手を交わした。
Sは軽い感じで手を振っていた。
「じゃあまた大学で。」
「おう、じゃあまた。」

私とSは丸の内の地下のSのおすすめコーヒー屋で渋いコーヒーを啜り、輪行で新幹線に乗って新大阪までさっさと帰ろうということになった。

車窓から外を眺めるとこれまで自分が一生懸命走りぬけた街々がものすごいスピードで後ろへ遠ざかっていく。
5日かけて走ったのにたったの二時間半で元いた場所に連れ帰られる。
新大阪に着く。自転車を担いで改札をくぐり、タクシーやバスが入ってくるロータリー前で輪行を解く。花火大会の帰り道に味わう空虚な感覚に襲われた。
きっとこの空虚を埋めるためにまた旅に出ることになるのだろうかというその時の予想は当たっていた。


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