全ての始まりは四国一周:第六章・映画、カツオ、酒
雨風凌ぎにミニオンズ
台風15号は予報通り九州に上陸した。高知でも大雨を降らせていた。
台風が来ることがわかっていた我々はここまでの疲れが溜まっていたこともあり、昼前までゆっくり眠った。
「さーてと、今日はどうするよ。」
ルイガノ君が台風を呼び寄せた私に責任を追及するような口ぶりで聞いてくる。
「夜は台風過ぎて雨は降らへんらしいな。」
私も台風情報については逐次確認していた。
窓がガタガタと風を受けて音を立てている。
エスケープ君が不安げな顔をしている。
「あんま遠くまでは行きたく無いよな」
「昼間はなんか駅の北側にあるイオンで映画でも見て時間潰すか?そんで夜はひろめ市場とかの方行こうか」
「ええやん、それで行こ」
私の半分冗談のつもりで言った提案で満場一致を得てしまった。まぁこの雨風で観光もへったくりもないのでそれでいい。
路面電車とバスを乗り継いでイオンになんとか到着した。
イオンの映画館で上映中のものですぐに入れそうな映画に絞る。
「大体この辺やな。何観る?せーので指さそ。」
全会一致でミニオンズに決定した。内容はもはや覚えていない。
カツオのたたき、高知の酒、カツオのたたき
イオンで映画鑑賞の後、フードコートでご飯を食べてそのまま突っ伏して寝てしまっていた。
「いつまで寝てんねんこいつ」
ルイガノ君に小突かれて目が覚めた。
「ぼちぼち雨弱まってきたし行くぞ」
来た道を戻ってひろめ市場に向かった。
市場の入り口を見て一瞬、え?なんかしょぼそう?と思ったが誰も口には出さず恐る恐る中に入った。
「なんやこれ、でっか。ってかこんな人おったんかいな。」
外からは見えていなかったが中は広く、外に全然人がいないにも関わらず人でごった返していた。
「とりあえずカツオのたたきで」
席を見つけてスッと座ったルイガノ君が息もつかずに注文した。出てきたカツオは濃い赤で周囲が炙られ色が変わっている。たれとレモン汁をかけて生姜を乗せていただく。
「うまい」黙々と3人で平らげた。
市場を出て商店街をぶらぶらと歩いているとなんとも雰囲気のある屋台があった。駐車場のようなところにテントを屋根にとブルーシートで壁を作って、田舎の公民館にありそうな木の折りたためる机に丸いパイプ椅子を並べた屋台にしては少し豪華な屋台だった。(今はもう少し屋根もちゃんとしたものがあるようだ)
席についてラーメンといくつかの小皿を注文した。
「兄ちゃんらどっから来たん」
横に座っていた40代くらいの若干コワモテが声をかけてきた。どうやら友人同士で飲みにきているようだった。
「大阪から来て、高松から自転車で四国一周してるんです。」
「おぉ〜、そりゃいいなぁ〜。大学生か?もう成人してる?ほなおっちゃんらが酒奢ったるわ!」
なんと気前のいい!コワモテとか思ってごめんなさい。
高知の地酒をご馳走になった。
「どんどん飲め!」
さすが土佐の人間である。酒に強い。私はビール一杯でさっき食べたものを街路樹の栄養にできるほどアルコール分解酵素を持ち合わせていない。しかし出された酒は美味くスルスルと喉を通って行った。"コワモテ"改め"気前よしお"達もグイグイ出された酒を飲み干していく。
「そうやって旅して回るんはええことや。おっちゃんらの歳になってみいな。酒飲むぐらいしか楽しみ無くなってまうからなぁ〜ガハハハハ」
それでも十分楽しそうだが確かに自分にはその生き方はできないだろう。人にはそれぞれ楽しい生き方がある。私は自転車という乗り物で旅をし続けたい。アルコールはほどほどにしよう。
なんて思ってるのはいいが実際には茹で蛸になっていた。呂律も回っていないし歩くことすらままならないところまで酔っていた。
「ごてそうしゃまでしたぁ〜!!!この酒の味はいっしょーわしゅれまへん!」
「おう、旅の続き気いつけてな!」
最後まで気前のいい地元民に別れを告げて屋台を後にして商店街を散歩する。
”日本一周してます”と書かれたボードを掲げた自転車が置かれている。黒く日焼けした肌が似合う青年が街ゆく人たちと団欒していた。この街は旅人に優しいなぁなんて思っているとルイガノ君が袖を引っ張ってきた。
「フラフラしてどこ行くねん。シメのたたき食いに行くぞ。」
まだここから飲み食いするのか、元気やなぁと思いながらも引っ張られるままに店に入った。
この店での記憶はほとんど無い。後で聞いた話では何かぶつくさ呟いた後、口を開けて寝ていたらしい。
そんな私を差し置いてルイガノ君とエスケープ君はシメの料理を楽しんだんだとか。せめてその空いた口に美味い刺身でも詰め込んでくれればよかったのだが、街路樹の養分にしかならない可能性もあるのでよしとしよう。
2人に引きづられるままどうにかこうにか宿に着いたあたりで酔いが覚めた。
宿のオーナーや他の宿泊客といくらか談笑した後、我々3人は明日の動きについて話し合った。そしてこの時点ですでに明日の宿がないことは全員わかっていた。
「しばらく布団では寝れん。今晩はゆっくり寝よう。」
ルイガノ君の号令で床についた。
「布団で寝れるってありがたいことなんやなぁ」
エスケープ君が何か言っているのが遠くで聞こえたがすでに私は眠りに落ち始めていた。
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