全ての始まりは四国一周:第九章・安息の地、伊予
奇跡の雨雲回避
アスファルトは案の定最悪の寝心地であった。
疲れ果てているので眠りに落ちそうになるのだが、結局すぐに体が痛くなって眠りの浅いところに戻ってきてしまう。それを一晩中繰り返した。
他の2人も同様に眠れなかったようだ。
朝目覚ましが鳴るまでもなく全員が無言で起き上がった。
「寝れんな。」
「こりゃ寝れん。」
「もはやネカフェのマット席が恋しい。」
ひとまず今日のルートを確認する。八幡浜を通って瀬戸内海方面に抜けて海沿いを走って松山まで走ることにした。
「よっしゃ!今日頑張ったら今晩はネカフェで寝れるぞ!」
3人ともテンションの上がるハードルが下がり切っていた。
「そしてモンストログインできる!」
1人だけ別の要因でテンションが上がっていた。
海までは割と坂のある道だったがなんとか海まで出てしまえばあとは平坦だった。
途中から薄々気づいていたのだが雲行きが怪しいのと地面が濡れている。
調べてみるとどうやらこれから走ろうとしている方向に向かって雨雲が流れているようであった。そして奇跡的にその雨雲が去った後には雨雲がなかったのである。雨男の私が居ながらこれは神回避と言える。
「昨日様々な苦難を受けたおかげで今日はちょっとはツイてるみたいやな。」
「雨男が調子乗ってそんなん言うてたら雨降るからやめてくれ。」
曇りでは絶景もイマイチ
自分たちが走っている道はJRの広告に使われるほど景色のいい道であることは理解していた。晴れていれば絶景なんだろうなと言うこともわかる。
しかし連日の疲れでただでさえ景色を楽しむ余裕のなかった我々にとって、それはただの曇った海沿いの道でしかなかった。
「モンスト!ログイン!モンスト!ログイン!」
少なくともルイガノ君は景色には一瞥もくれていないようである。
永遠に続くかのように思われた海沿いの道も信号が少ないせいもあってか昼過ぎくらいには松山に着くことができた。
瀕死のスマホ
松山についてひとまずスマホ修理をしてくれる店に駆け込んだ。
「どこまでできるかわかりませんがやってみます。」
店の人曰く完全に直る保証はないとのことだったがルイガノ君はもう可能性とかなんでもいいからできるだけのことをやってくれと頼み込んでいた。
そして早々にネカフェに駆け込んだ。かなり大きい施設で一つ一つのブースも広かった。
荷物を置いて一息ついた我々は街へと繰り出した。
「スマホ復活するまでダイソーでトランプ買ってカフェでだべろうや」
と言うことでトランプで数時間カフェに居座った。幸い私たちの他に客はそれほどいなかったのでちょこちょこ安いものを注文しつつ居座らせてもらった。
スマホ修理やから告げられていた時間になったので受け取りに向かう。
「それで、どうでしたか?」
ルイガノ君が藁にもすがるように聞く。まるで危篤の患者を治療した医者を手術室の前で捕まえて容体を聞く家族のようである。
「とりあえず電源が付くようにはなりました。」
「あぁ〜、ありがとうございます〜」
ルイガノ君は今にも泣き出しそうである。
スマホを受け取って代金を払うとすぐにモンストを起動した。
「ログインボーナスがぁ、、、あぁ、、、」
さすがに連続ログイン記録が途切れてしまっていたようである。それでもモンストを起動できたことでルイガノ君の精神は幾分安定していた。
30分くらいは。
しばらくするとルイガノ君が大きく肩を落とす。
「どないしたん」
エスケープ君がニヤニヤしながら聞く。
「みてこれ、もうあかんわ。終わり。はい、終了。」
みてみるとスマホの画面が半分は写っているのだがもう半分がゲルハルトリヒターの絵のようになっていた。どうやら完全復活とは行かなかったようである。
程なくしてルイガノ君のスマホは完全に息を引き取った。
巨大パスタ現る
私はどうしても松山で行っておきたい店があった。そこでは巨大なミートソーススパゲッティが食べれると何かで紹介されていた。
実際出てきたものは想像を遥かに越えていた。
「いやいやいや、デカすぎるやろこれ」
と言いながらも、ここまでの疲れから身体がエネルギーを欲しており全員無言で食べ続けあっという間に完食した。
「で、これからどうする?」
エスケープ君が切り出す。
「明日は今治くらいまででええんちゃう。やから明日の夕方くらいまで松山おろうや。」
「坂の上の雲ミュージアムとか松山城行きたい」
「道後温泉も入っとこ」
やりたいことがどんどん出てくる。
「今日はもう疲れたから風呂入って寝よか」
「そうしよ」
風呂でゆっくり汗を流し、ネカフェに戻って自席に入る。
ただ屋根があって、仕切りがあって床が少し柔らかい。これだけのことがどれだけありがたい事かというのをしみじみと感じた。
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