手作り望遠鏡
ある時、天文関係のイベントか何かで、組み立て式の簡易望遠鏡、というものを見かけた。ラップの芯みたいな堅い紙でできた筒に、レンズとかを嵌め込んど組み立てる、というものだった。
私が子供の頃は、そんな、既製品の組み立てキットなんて無かった。いや、あったかもしれないが、簡単には手に入るものでは無かった。だいたい、対物レンズと接眼レンズを買って、あとは自分で用意して組み立てる、くらいのものだった気がする。
私の場合は、天文用の高い対物レンズなどは購入を検討する以前に、通販などというものをすること自体に気が引けていた。それに、小学生の頃の小遣いではたいしたものは買えなかった。
それで、古い天文関係の本に載っていた、虫メガネで作る望遠鏡、というものを作ってみた。夏休みの自由研究、というやつだ。
対物レンズにしたのは、プラスチックの柄がついていた、口径が五センチくらいの虫眼鏡。それを外して対物レンズにし、ラップだったか、アルミホイルだかの芯を鏡筒にした。接眼レンズは、壊れて使えなくなった小さめの懐中電灯の先についてたプラスチックのレンズを使った。鏡筒を手持ちで見ていたが、Y字になった木の枝を庭に差し込んでそこに載せたりした。三脚みたいなものも作ったが、高さが三十センチくらいだったので、ビールケース二つを重ねた上に載せて使ったりしてみた。鏡筒をのせるところは、木の枝と同じようにY字になっているだけ。高さの調整なんてもちろんできない。
そんなもので見えるのか、と思うかもしれないが、周辺はぼけぼけだったが、電線に留まった雀が逆さに一応大きく見えてはいた。倍率は三~四倍くらいだっただろうか。
我ながらしょぼい、と思いつつ、まあ、一応できたことに満足はしていた。
夜になって、月が出ていたので、一応、それも見てみた。どうにか位置を合わせて覗いてみたが、笑いがこみあげてきた。
「だめだこりゃ」
いかりや長介じゃないが、そんな言葉が口をついて出てきた。薄黄色い物体が見えているだけで、中心部分がなんとなく、クレーターらしきものが確認できたような気がする、という代物だった。
口径を絞るとシャープに見える、というようなことも参考にした本には書かれていたので、そうしてみると、こんどは倍率が落ちて、裸眼で見ているのと大差ない倍率で、一応大きくは見えてる、という見え味だった。
まあ、こんなもんだろ、と、作ったことだけは満足した望遠鏡製作だった。
その望遠鏡は、夏休みが終わって、夏休みの自由研究の発表という形で展示された。
クラスメートが面白がって覗いていたが、皆、一様に、
「しょぼい」
という評価だった。こういう時、男子はけなしたりすることが多いが、女子は割と、作れるだけでもすごい、みたいに、妙に持ち上げたりするので、照れくささもありつつ、ちょとだけ自慢げにふるまったりしたものだった。
自作した望遠鏡の思い出。
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