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子どもの頃に読んだ本 『コンチキ号漂流記』

 子供の頃に何度も借りて読んだ本が幾つかあるが、そのうちの一冊。ノルウェーの民俗学者、トール・ハイエルダール(ヘイエルダールとも)の、筏による太平洋横断の冒険物語と、江戸時代の日本人の漂流譚の、『太平洋日本人漂流記』がセットになっていた。
 私が子供の頃に良く読んだ、あかね書房から出ていた、少年少女世界のノンフィクションというシリーズの内の一冊。同じあかね書房から出ていた、少年少女二十世紀の記録、の方は伝記や社会的な事業などが中心で、こちらは冒険や探検を扱ったものが多かった。ノンフィクションは本の装丁が赤だったが、二十世紀の記録は青だったので、勝手に赤のシリーズ、青のシリーズと呼んでいた。子供の頃に出版社の名前を覚える、ということもあまりなかったが、あかね書房はそれだけ特別だった


『コンチキ号漂流記』(トール・ハイエルダール:著) 
 ニューヨークの冒険家クラブ、というクラブでハイエルダールが、筏による航海の計画を発表してから、とんとん拍子に計画は進んでいく。まるでハリウッド映画でも見ているよう。次々とメンバーが集まっていく様子も面白い。『七人の侍』とかで、くせのある人物が次々と集まってくるが、そういった物語を彷彿とさせる。
 しかし、ハイエルダールと言う人は、学者だが、文章が巧だ。小説家のように話を語る。けっこうなストーリーテラー。この本は読みだしたら止まらなくなる。下手な冒険小説よりも語り口が上手いし、そのうえこれはノンフィクションと来ている。

 大人になって再読したくなって、筑摩文庫から出ていた『コン・ティキ号探検記』(水口志計夫:訳)を買って読んだが、通勤電車で読んでいて、気が付いたら乗り過ごしていたことがあった。
 ハイエルダールがこの冒険を試みた理由は、南米と太平洋の島々とで、同じような神を信奉していること、似たような動植物が存在することなどから、南米から太平洋へ文化が伝播したのではないか、という仮説に基づいた航海だった。
 ハイエルダールの航海は一応の成功をみたが、現在では、南米からではなく、アジアからポリネシアへカヌーによる航海で人々が移住していった、とする説が有力とされている。

 1970年代のドキュメンタリー番組などで、ハイエルダールが出演しているものを見たこともあり、まだ今の学説が主流となっていない頃は、コンティキ号の探検が印象に残っていることもあって、私は大分好意的に見ていた。時代とともにその学説が否定されていく様子も見ているのだが、少々寂しい気持ちになったものだ。
 2002年に亡くなった時も、ニュースで知って、当時書いていたブログで訃報に触れて追悼してもいる。

 2013年に映画にもなったが、昨今の風潮として、どんな偉人であっても、家族からどう見られていたかとか、妻帯者の場合は妻をどのように扱っていたのかとか、そういうことを必ず入れないといけないというような決まりでもあるのか、御多分にもれず、冒険後に離婚したことが映画では挿入されていた。子供の頃に読んだ本のように素直に冒険に興奮と感動を覚える、というような内容になっていなかったのは、まあ、時代の流れか。
 ハイエルダールが筏で航海の旅に出たのが1947年と戦後直ぐのこと。私がこの本を読んだのは四半世紀以上経ってからで、けっこう昔のことなんだな、と読んだとき思ったものだ。
 私が書いているこのエッセイも、今から五十年くらい前の話だが、私が小学生の頃から五十年前、というと大正から昭和初期くらいか。そう思うと、自分が随分と年寄りになったような気がする。


『太平洋 日本人漂流記』(池田寛親:著)
 こちらも漂流記だが、江戸時代(1814年)に、名古屋の回船問屋の船が江戸へ向かう途中に嵐に会い、太平洋を漂流し乗組員13人のうち、船頭の重吉ほか二名だけが生き残ってロシアの船に拾われた。ロシア船は、メキシコ、カナダ、カムチャッカと重吉達をつれて航海したあと、択捉島へ向かい、重吉たちを日本へ帰した。カムチャッカでは、同じように遭難した、薩摩の船の船頭喜左衛門と他二名とも合流して日本に帰国している。

 ロシア船の船長が重吉たちに親切に対応していて、不当な扱いはとくに受けていない。同じように遭難して先に日本に帰国した、高田屋嘉兵衛という商人のことを重吉も知っていたが、高田屋嘉兵衛とロシアのカムチャッカにいた提督とは知り合いだったことも、日本に帰国できる助けとなっている。

 江戸時代の漂流、遭難、というと、ジョン万次郎くらいしか知らなかったが、結構多くの漂流譚が残っているということを知った。
 この話に出てくる高田屋嘉兵衛については、司馬遼太郎が『菜の花の沖』という歴史小説に書いている。私は高田屋嘉兵衛についても読んだのだが、『菜の花の沖』ではなく、伝記のようなノンフィクションだったが、書名は失念してしまった。

 この本は、全体の2/3くらいが『コンチキ号漂流記』で、残りが『太平洋 日本人漂流記』となっている。
 子供の頃は何度か借りて読んだくらい好きだった。冒険もののノンフィクションは特によく読んだものだ。堀江謙一の『太平洋ひとりぼっち』も読んで面白かった。テレビでそういう海洋冒険ものという番組も良く見たものだ。

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