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二十九歳からの不安定生活入門

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二十九歳の春。 気の毒なほど優しい團さんと、あけすけで大雑把な篠宮に見守られながら、不安定な暮らしと仕事を始めた。そんなフィクション
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#小説

3月5日 夜間救急に行く

3月5日 夜間救急に行く

 その日はとても天気が良く、暖房なしでも事務所の中がほわほわと暖かかった。電気を消してブラインドを開ければ、手元を見るには十分すぎるほどの日差しが差し込んだ。今日は事務所に私ひとり、團さんも篠宮も、中西課長をはじめとする協力業者のメンバーも全員いない。私以外の人は、皆セミナーに出かけていた。セミナーの参加権は私にはない。そんな中で、面倒見の良い中西課長は私のぶんの仕出し弁当も注文してくれて、團さん

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3月1日 入居の日

3月1日 入居の日

 朝七時ちょっと前、インター出口の信号待ちで、ちょうど正面に虹を発見した。まずいよなあと思いつつ、社用車の車内用ドライブレコーダーの向きを確認しつつ、スマートフォンを取り出してささっと虹を撮影した。昨日のサボりの時に見たような、窓ガラスにたくさんついた水滴と、その向こうに虹、その下にははっきりめの副虹。車のフロントガラスに散った水滴のおかげで、虹と副虹はみずみずしくておいしい何かに見えた。
 私の

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