不完全である勇気
[1]適性
「私はこの仕事に適性がないと思います、辞めなければなりません」と言っていたミスを繰り返す中途採用の外国籍の新人さん。「二ヶ月様子を見てみましょう。そこから適性を判断しても良いと思いますよ。」と話しをつけ、彼とどうやって接したら良いのか僕は試行錯誤を繰り返していた。
しばらくして、どうやら彼の自信満々の言動や行動の背景が、心配の裏返しであることが分かってきた。だから自分のミスが人より気になって仕方ない。その自信を崩してしまうことが彼の心配に直結してしまう。だから彼はミスを振り返らない、また同じミスが起こる、の負のループにはまっていたようだった。
処方箋は「ミスったり心配だったら僕にだけそっと教えてくださいね。同じことでも何度でも良いですから。」だった。彼は最初は戸惑っていたけれど、徐々に、慣れたらそれはもう頻繁に僕のところに報告しにくるようになっていた。
そんな彼にちゃんと身体を向けて、深く頷き、同調しながら「こうすれば良いですよ」と言うと笑顔で自席へ帰っていくようになった。彼は少しずつ「不完全である勇気」を身につけていったようだった。気がつけばミスは人並みに落ち着いていた。
[2]不完全である勇気
二ヶ月が経ち、今日彼と再度面談した。「さて、あれからどうですかね?仕事、辛いとかないですか?」と切り出すと「だいぶやりやすいです。ちょっと辛いときもありますけど。気を遣っていただいているおかげです。」と返答があった。「適性、どうですかね?」「なんとかなりそうな気がしています。まだまだですけど。」
彼は一人で日本に出てきて、一人で暮らしている。不完全であると認めるのはかなり勇気が要ることだったのだろう。しかしながら不完全であるというのは、逆にとても人間らしいことだと思う。完璧な人間なんていない。
僕はホッとして面談を終えると、すっかり陽が落ちていた。彼は水を勢いよく飲み干し、笑顔で帰っていった。