見出し画像

SFショートショート『LINE人間』

《ねえ、カナ子さん。明日からは連休だし、もしよかったら明日、会おうよ》

私はネットで知り合った、都内に住むジョンと名乗る男性からLINEで誘われていた。私が彼のAIの話題を記事にしているブログにアクセスしてから、なにか共感するものがあり、たがいにLINEで考えや思いを交換するようになっていた。もちろん、LINEに添付しておたがいの画像を送りあってもいた。

痩せぎみだけれど、なかなかの美男子。あらゆる情報に通じ、悩みを打ち明けたこともある。だけれど忙しいという理由で、電話をかけあうこともなく、LINEを交わしあうだけの交流だった。私は彼氏と別れたばかりで、今日は仕事も休みだしと、即座に承諾をした。すると、またスマホにLINEの着信音が鳴った。

《それなら、三鷹市の駅前にTという喫茶店があるから、そこで会おうよ》 
 
私は久しぶりに念入りに化粧をし、初夏にふさわしい、軽い感じの色彩の服装を選んだ。映像で彼の画像はみているけれど、声を聞いたことがない。どんな人なのかしらと想像は広がるばかり。

彼は車にはあまり興味がないらしい。食事にもあまり関心がなく、年齢のわりには若さが感じられないようにも感じる。けれども、知識の深さとものごとをみる洞察力はあるようだ。

まあいいわ、変な人ならもう会わなければいいんだし、万が一のことを考えて住所も教えていないんだから。

                *

翌日、Tという喫茶店に入ると、彼が手をあげて自分を呼んでいた。彼は私に椅子にすわるようにジェスチャーすると、無表情のまま、スマホの画面を私に向けた。

画面からはLINE電話が表示されていて、私に話しかけていた。

「カナ子さん。今日は来てくれてありがとう」

彼の口は動いていない。
彼以外の誰かがスマホから話しかけているのだ。
私はキレた。

「どういうつもりよ。スマホで話しているアンタは誰なのよ! ふざけないでよね。私、帰るから」

私が椅子から立ち上がると、スマホから冷静に話す声が聞こえてきた。

「ちょっとカナ子さん待って。私がAIのジョンです。私は人間の女性のことをよく知りたいのです。この男性の肉体は自ら望んで、AIチップを入れたのです。その後はこのスマホとチップをつなげて、生理現象と食欲と睡眠以外は私がコントロールしているのです。あなたにもチップを入れてもらい、AI人間カップルになって、いろいろと経験したいのです。あなたもいろいろと悩む人生から解放されるのですよ」

AI人間となった男は、キラキラ光るチップらしきものが入っている注射器を手にしていた。おそらく、男は好奇心と生きることから逃避したい思いから、AIチップをネットかどこかで入手して、自分で入れたのかもしれない。

しかし、私は男の目から一筋の涙が伝って、頬を濡らしていくのがみえていた。
私は男からスマホを取り上げ、床に叩きつけて破壊してやった。
「肉体人間をなめんじゃないわよ!」

              (fin)

トップ画像のクリエイターさんは『GAUCHO(ガウチョ) 』さんです。
ありがとうございます。😀

※追記

最近、AIに否定的なショートショートを書いていますが、私はAI肯定派です。今後、AIとはよい関係でいたいと思っています。
ただし、AIに限らず、どんなことでも依存しすぎるのはよくないと思っています。

とくに、冥王星水瓶座時代になり、個性、自分自身の色、考え、感性を大事にしたほうが運気もあがっていく時代ですので、どんなことに対しても依存しすぎることなく、よい関係を築いていきたいですね。



いいなと思ったら応援しよう!

星谷光洋
気にとめていただいてありがとうございます。 今後ともいろいろとご支援をお願いします。よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!