第30話 本社と現場
東本「研修の振り返り報告をしてもうから。10時から会議室とってるから、そこで部内に向けて発表してくれ」
TK工房「発表って?パワーポイントとか何も用意してないですけど、大丈夫ですか?」
東本「大丈夫。今まで提出してもらったレポートを基にフリーで話してくれたらええよ。
もうレポートは一応、部内で回覧してるから、みんなザッとは目を通してるし、質疑応答がメインかな。」
TK工房「なるほど、了解しました。そういえば、古瀬は今日から別でしたっけ?」
東本「そうそう、古瀬は今日から姫路の工場配属やわ」
TK工房「あいつは発表ないんすね」
東本「いや、初めて見る工場長以下の管理職に発表するみたいやから、お前よりハードル高いで(笑)」
TK工房「なるほど(笑)」
それから10時までの間、提出した2週間分のレポートを読み返していた。
大衆消費財のルート営業や新規営業ならではの課題や、キーとなるポイント、またゼネコン向け下請け営業の課題など、現場で見聞きした内容を思い出し、頭の中で整理する
新人の自分だからこそ、親会社のメーカーという立場にも関わらず、現場の本音を聞き出せたという自負があった
(現場の声をしっかり吸い上げて、本社につなぎ、本社ならではの分析、企画で対策を現場に落とし込む。めっちゃオモロい仕事やなー。ワクワクしてきた)
東本「そろそろ会議室行こか」
TK工房「はい!」
東本「お、やる気まんまんやん」
TK工房「この2週間でホントに色々なことが学べましたし、現場の声も聞けたのでしっかり伝えたいです!」
東本「おー、いいね」
フロアにある小さな専用会議室に入り、二人で机と椅子のレイアウトを変えていると、ワイワイと雑談しながら部のメンバーが入って来た。
最後に本部長の福徳が部屋に入り、席に着くと、東本が話し始めた
東本「皆さん、本日はお忙しい中お時間頂きましてありがとうございます。ご存知の通り、今回、新人のTK工房が2週間の現場研修を終えましたので、その簡単な報告をしてもらおうと思います。それでは早速ですが、よろしくお願いします」
TK工房「おはようございます。2週間振りの本社出勤で、緊張してますがよろしくお願いします」
そこから15分ほど、レポートを手元に置きながら、現場で実際に見聞きしたこと、そして自分なりの課題と今後の取り組みたいことについて発表をした。
東本「ありがとうございました。それでは、ここからは質疑応答にしたいと思います。何か質問があればお願いします」
課長の竹尾が手を挙げる
竹尾「大衆消費財と建築資材の両方の現場見てみて、どっちがやりたいと思いましたか?」
正直、建築資材という商品やゼネコン向けの営業に全く興味を持てなかったTK工房。興味を持てなかったというより、悲惨な現状を見て自分は絶対やりたくないなとすら感じていた。
一方の大衆消費財もやりたいかと言われると別にそこまでのイメージは膨らんでいなかったものの、あの陽川が出向していることを考えると興味はあった。
TK工房「どちらも面白い経験をさせて頂きましたが、自分を活かせるのは大衆消費財かなと思います」
竹尾「あかんやん(笑)俺と畑中部長は建築資材出身やのに。ちゃんと下調べした上で、発言しないと(笑)」
ドッと笑いが起こる。
TK工房「そうでしたか。大変失礼しました。あくまで2週間の研修でしたので、表面も理解できたかどうかというところですので」
東本「その他にご質問ございますでしょうか?」
しばらく静まり返った後、部長の畑中が話し始めた。
畑中「ありがとうございました。現場の意見をしっかり拾って来てくれたと思います。一方でわかっておいてほしいのは、現場とはそういうものだということ。誰だって文句の一つや二つはあるんです。腹立つこともあるでしょうけど、それが彼らの仕事です。いちいち聞いてたらキリがない。現場の意見は参考程度に聞いておくのは良いですけど、変に現場の肩を持たないように。悪い事ではないですけど、彼等は目の前の事しか見えていない。我々はもっと先も見て、会社全体を俯瞰しながら、日々やるべき事に取り組んでいる。その視点を今後学んでいただければと思います」
TK工房「ありがとうございます。」
口では感謝の意を述べたものの、何かモヤっとしたものが自分の中に残ったのを感じた。
あれだけ現場から「企画部は何もわかっていない」と言われている中、毎日本社の席に座って「現場はそんなもの」と言い切るそのスタンス。
しかし、元々建築資材畑出身という部長。
どちらが正しいのだろうか?
その言葉には確かに一理ある気もするが。。。
続く
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