第28話 想定外の原因
目を覚ますと、見慣れない景色が広がっていた
(あぁ、そうか。車で昼寝したんだった)
横を見ると浅田はまだ寝息を立てていたが、助手席の動きを感じ取ったのか、気怠そうにうっすらと目を開けて腕時計を見ていている
TK工房も時計に目をやると、ちょうど1時間が過ぎていたことがわかった
浅田はそのまま大きな伸びをして身体を起こす
浅田「ふわぁ・・・ほなボチボチ行こかー」
TK工房「はい、お願いします」
浅田「俺イビキかいてた?」
TK工房「いや、僕も寝てたので、わからないです(笑)気付かなかったくらいなので大丈夫ちゃいますかね」
浅田「そうか」
また奈良に向けて走り始めた
TK工房「次の現場はアポイント何時なんですか?」
浅田「ん?決まってへんよ。現場見に行くだけやし」
TK工房「そうですか。」
一口に営業と言っても全然違う。先週までの営業は相手先としっかり事前にアポイントをとって時間通りに訪問していたのに、今回の浅田は特に決まった時間もなく、ひたすら現場回り。
浅田「これ、よかったら読む?」
何やら資料のようなものをおもむろに出して来た
浅田「今向かってるとこの現場週報。食品工場の床施工をうちがやったんやけど、不具合が出てな。2枚目に写真載ってるやろ?」
一枚めくると、写真が出てきた。
TK工房「これなんすか?床がブグブクになってますね」
写真には緑色にコーティングされた床に大きな気泡がそこら中に出来ている様子が写っていた
浅田「その塗り床を施工したんやけど、後でそんな水ぶくれが出来まくってきたんやわ」
TK工房「水ぶくれ?」
浅田「おう。塗り床の施工不具合でよくあるパターンやねん。コンクリートが乾ききってないとこで上から塗ってまうと、中に残ってた水分が悪さして、そうやって表面に出てくるんや。」
TK工房「へー。」
浅田「これもゼネコンの現場監督から携帯に電話かかって来て、怒鳴り散らされてな(笑)」
TK工房「ゼネコンの現場監督ってのは、基本怒鳴らないと気がすまんのすか?(笑)」
気がつくと車はだいぶ山道に入ってきた
TK工房「こんな山の中にあるんです?」
浅田「おう、もうすぐや」
言葉通りすぐに山道が拓けて、大きな食品工場が見えた
TK工房「あれ?工場自体はもう動いてるんですか?」
浅田「そうそう、現場は拡張工事してる部分やねん」
関係車両入り口から入り、だだっ広い駐車スペースに車を停めた
二人は車を降りて建屋に向かう
浅田「さっきの続きやけどな、俺、電話で呼び出されて慌てて来たんよ。で、水ぶくれの不良って、一番俺らがケアするところでさ。普通ありえないのよ」
TK工房「ケアって何をやるんです?」
浅田「さっきも言うたけど、これってコンクリート内部に残ってる水分が原因やねんな。で、全体の工事が遅れてたりして、納期に間に合わせるために、この塗り床工事のスケジュールを勝手に短縮されたりするねん。そうするとコンクリートが乾ききらずにその上に塗ることになるから、起きてまうんよ。」
TK工房「なるほど」
浅田「で、今回はちゃんと俺が余裕を持って乾ききるスケジュールで施工したから、これが起こるはずなかってん。もし、この原因がほんまに俺らサイドにあるなら、やり直しやら遅延賠償で数千万飛ぶんやで。ヤバいやろ?余裕で赤字。それでなくても儲からん仕事やのに何のためにやっとるかわからん」
TK工房「結局原因はなんやったんです?」
浅田が建屋の扉を開けると、写真に載っていた景色が広がっていた
浅田「原因は地下水」
TK工房「地下水!?」
浅田「この現場の下に地下水が流れててん。コンクリートが下から吸って永遠に乾かんという仕組みになってたんや」
TK工房「はー!それで結局どうなったんです?」
浅田「そもそもの建築責任はゼネコンにあったってことで、俺らはセーフ。ほんま肝冷やしたで」
TK工房「でも、そんな仕組みなら、解決不可能じゃないすか。どうするんです?」
浅田「知らん。とりあえず追加費用貰って塗り直してるけど、どうせまた起きると思うわ。俺らに責任ないからどうでもええけど。」
TK工房は、その場にしゃがみこんで床を触った
(こんなよくある工場の緑色の床に、そんなドラマがあるとはなぁ)
浅田「あれ見てみ」
顔を上げ、浅田の指す方向を見る
TK工房「フォークリフトですか?」
浅田「タイヤの色、白いやろ?」
TK工房「はい」
浅田「何でかわかる?」
TK工房「え?、、、、食品工場内で使うから、抗菌仕様か何かになってるんです?」
浅田「と思うやろ?あれ、色が白いだけで普通のタイヤと全く変わらんねん」
TK工房「はぁ。。え?何で白いんです?」
浅田「タイヤ黒いと、床にタイヤ痕とか着くし、やっぱりタイヤそのものが汚いイメージあるやろ?だから、イメージ払拭のために、ユーザーの要望でタイヤ会社がわざわざ金かけて白いの作ってるんだと」
TK工房「へぇー。実質変わんないのに?」
浅田「清潔感ってやつやな(笑)本当に清潔なのと清潔感があるのとは違うってやつや」
TK工房「ほんと普通に生きてたら、誰も気にも留めないようなことにもドラマがありますねぇ」
浅田「世の中、誰かの仕事で出来てるっちゅうこっちゃ。ほなそろそろ帰ろか」
作業員に軽く会釈をして、二人は現場を後にした
(世の中誰かの仕事で出来ている、か)
続く
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