第39話 工場の生産課長
『カラー化なんて大反対です。現場感が無さすぎる。廃刊を希望します』
な、なんじゃこいつ!?
どこかでポジティブに受け入れられると思っていたアンケートは、一発目からカウンターパンチを食らった
さらに文章はこう続く
『工場現場では日々1円でもコストダウンしようと皆、必死で頭を使い、それこそ血の滲むような努力しています。そんな中で、こんな意味のない読み物を軽いノリでカラーにして何百万円と飛ばされたら、耐えられません。この部内報はもう役目も終わったと思いますし、直ぐにでも廃刊することを希望します。工場を代表して』
(とりあえず、こいつ誰やねん?)
すぐに社内イントラネットの電子電話帳を開け、松下幸正という名前を検索すると、天パでシャクレのおっさんの写真が出てきた。しかも謎の上目遣いだ。
(見た目にもキモいがな。ん、姫路工場の生産課長?ふーん。こんな奴が課長なんかいな。)
新人研修で行った山形工場の課長陣を思い出す。
(工場の課長って、工場長や上の人間にヘコヘコしてるイメージしかなかったけど、下にはこんな感じで偉そうなんやろか?)
イライラする気持ちを沈めながら冷静になって、もう一度この意見を見ると、確かにこの松下という男が言っていることは正しい
現場で1円のコスト削減を争う日々を過ごしてる中で、面白くもない読み物をカラーにします、なんて企画部の一年目のペーペーに言われたら腹がたつのは当然だ
カラーにするために、発行回数およびページ数を減らして、トータルコストを変えないということを説明し忘れていた自分に落ち度もあったなと感じた
(まぁ、まだ感想第1号やしな)
と回答期限の1週間いっぱいとにかく待つことにした
このトップバッター松下から、7〜8人は初めの3日間で回答が帰ってきたが
そこからはぱったり。
(なんやねん。マジでみんなノリ悪いな。何百人いて、この回答率やねん。てか、何で古瀬回答してないねん。しばくぞ。)
姫路工場にいる古瀬に電話をかけた
「はい、古瀬です」
「TK工房です。」
「おぉ、はいはい。どうした?」
「何でアンケート答えてないねん」
「あ、あぁ、ゴメン(笑)答えようとは思ってたんだけど、締め切りまだじゃなかった?(笑)」
「まだやけど、答えてくれよ(笑)ちなみに、松下課長ってどんなやつ?」
「生産課の?」
「そうそう。そいつから、結構うっとしめの回答返ってきてさ」
「へー(笑)まぁ、あの人はうっとおしいで有名な人だからな」
「そうなんや。やっぱりか」
「ちなみに、アンケートの質問でPDF配信にするのはどうか?ってのあったじゃん?あれダメだと思う」
「え?なんで?」
「メールアドレスってさ、俺らホワイトワーカーしか持たされてないんだよ。だから、紙での配信をやめちゃうと工場のワーカーの人達にはリーチできなくなる」
「あぁ、なるほど。それは確かに重要だな。その視点なかったわ。ありがとう。あ、先輩らに会ったら、回答お願いしますって言うといて」
「OK」
電話を切ってしばらくぼーっと考えていた
(そもそも、このアンケートも工場のワーカーには届いてないってことか。まぁ今回はしゃあないなぁ。紙で配りに行くわけにもいかんし。)
そして、タイムリミットの一週間が過ぎた。
続く
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