vs,SJK:vs,フラモン Round.3
ぞろぞろと女子高生逹が帰路へ着く。
最初の内は物珍しさにフォト撮りとかしてたけど、どうやら見慣れて飽きたらしい。遠巻きにパシャパシャ撮るだけじゃなく、ボクとフラモンにスリーショットを頼むヤツまでいたのに……つくづく現金だな!
「じゃね」「バイバ~イ♪ 」
「うん、バイバイ……」
ボクへと手を振って、次々と校門を過ぎて行く。
メタリック少女を目の前にして、何でそんなに警戒心無いん?
「じゃあ、またなー?」
「うん、また……またッ?」
またこんなトラブルに遭っていいんかぃ?
空手部の〝赤木一実〟さん?
きっと、みんなこれから『マドナ』や『グラウンド・ワン』とか行くんだろうなァ……。
ボクだって行きたいッ!
行きたいけど……今日は無理だろうな。
コイツがいるし。
羨望の溜め息に沈むと、ボクは〈フラモンベガ(人間形態)〉へと恨めしく向き直る。
視線に気付き、フラモンベガは「てへ♪ 」と頭コッツンコ。
いや、視線じゃなくてボクの心中に気付けよ。
仕方なく放課後エンジョイタイムは諦めて、戦闘処理の尋問を開始。
「まず、キミの名前は?」
「わたしは〈半自律型外殻実装仕様コスモローダー・タイプA3-2006〉──気軽に〝モエルちゃん〟って呼んでね?」
どう略したら、そうなった?
ま……まあ、いいや。
「で? キミのドコが〈ベガ〉なのさ? ただの〈ロボットパイロット〉じゃん?」
「そう言えば、そうですわね」と、ラムス。「先程も申し上げた通り、この機体は〈半自律型外殻実装仕様コスモローダー〉──つまり状況に応じて『遠隔操作モード』『搭乗操縦モード』そして『自律AIモード』の3モードに切り換えられますの」
「うわあ? アニメロボットの発展史を単機で体現してるね?」
「……はい?」
「だって『鉄人 ● 号』にも『マジ ● ガーZ』にも『トラン ● フォーマー』にもなるんでしょ?」
「黙らっしゃい、このおバカさん♪ 」
ニッコリと毒吐きやがった。
何事も無かったかのように、ラムスは続ける。
ボクの発言は黙殺されたらしい……シクシク。
「ですから『搭乗操縦モード』ならば、当然〈パイロット〉という事になりますけれど……」
「だって、本体はアッチだもん」背後の鋼鉄巨人をツンツン指差すモエル。「この姿は〈有機体仕様プリテンドフォーム〉なんだよ?」
立ち上がって豊満な胸を……いや、視点違った……全身をボクへと見せつける。
「……プリ ● ンダー?」
「プリテンドフォームだってば!」
小脇締めてプンプン!
そのキャラ、数年もするとキツくなるからな?
彼の〝さとう ● 緒大先生〟が、身を以て立証して下さっているからな?
それを察したから〝コリ ● 星〟は〝フ ● ーザ様〟に破壊されたんだよ……おそらく。
「なるほど、そういう事でしたか」
ラムスが納得を示した。
「どゆ事?」
「彼女は〈有機体仕様プリテンドフォーム〉と名乗った……そして『プリテンド』とは『成り済ます』とか『真似をする』という意味ですわ。そこから推察するに、おそらく現形態の彼女は、人間を模した器──生体生成されたボディに、本体であるAIの人格や知性を複写した存在なのでしょう」
「……アバター?」
「マドカ様が理解し易いのならば、その解釈でも宜しいかと」
「……逆転イッ ● ツマン?」
「知りませんわよ」
今度は冷徹蔑視モードが発動したよ。
「んじゃ、さっきカタコトから流暢になったのも……」
「うん、コッチに主導権を切り替えたの」
モエルは、種明かしをしてテヘペロ。
安いトリックだな? 三流作者?
いや、メタフィクションなツッコミはいいや。
それよりも、ボクにはずっと気になっていた点があったし。
「ねえ?」
「なあに? マドカちゃん?」
「それッ!」
「はぇ?」
「ずっと〝マドカちゃん〟って馴れ馴れしいけどさ? ボク逹、どっかで会った?」
「ええ? ヒドイよ! マドカちゃん! わたしの事、忘れちゃったの?」
「え? あ……うん、ゴメン」
ズイッと詰め寄るウルウル眼に呑まれ、思わず謝った。
「もう! しょうがないんだから!」
プンプンしてるし。
ほっぺたプゥっと膨らませてるし。
「じゃあ、教えてあげるね? ウフフ♪ 」
今度は恍惚ながらにアッチの世界へ浸り始めたし。
そこはかとなく怖くなってきたよ。この娘。
帰っていいかな?
もう、出会いとかどうでもいいんで……。
「あれはねえ? もう半年以上前になるんだよぉ?」
嗚呼、語りだしちゃった。
脳内お花畑で語りだしちゃった。
「わたしね? ジャイーヴァ様からの出撃待機命令を承けてから、衛星軌道上に潜伏して『どうやったら効率よく地球人を制圧できるか』を考えてたの。毎日毎日、お月さまやお星さまに相談してたの」
イヤなメルヘンワールドがキターーーーッ!
お月さま! お星さま!
何つーか……ホントにサーセンしたッ!
「でもね? お月さまもお星さまも、何も答えてくれないの……グスン」
いや、そりゃそうだろ。
お月さまもお星さまも着信拒否するだろ。
「でねでね? わたし閃いちゃったの! 地球人を制圧する方法は〈地球人〉に訊くのが一番だ……って」
自慢げに「にへへ♪ 」と砕けるモエル。
ドコに着地してんだ。オマエ。
何だ、その「おたくの店目障りなんで、どうやったらたたんでくれますか?」と老舗店主に面と向かって訊くようなイタイ発想は?
「だから『Facebook』始めたんだ♪ 」
文明の利器ィィィーーーーッ!
正しく使おう文明の利器ィィィーーーーッ!
「そしたらね? そこに『発育終わった……爆乳死ね!』って破滅オーラプンプンのスレッドがあって、それがマドカちゃんだったの」
……うん、アップした気がする。
たぶん、何かしらの育乳運動が無駄に終わった時に。
みんなもネットでの発言には気を付けようね?
「それからマドカちゃんの事が、気になって気になって……♪ 」
「会ってないだろ! それは! そっちが勝手にネット閲覧しただけじゃん!」
「ええ~? 毎日、会ってるよぅ? モニターの中でぇ……想像の中でぇ……そして、夢の中でぇ……いやん ♪ 」
頬染めて恥じらうな。
ってか、不思議な事を言い出したぞ? この天然ブリッコ?
やっぱ電波系?
「だって、半年前から衛星軌道上で実生活を監視してるもん♪ 」
「ふぇ?」
いまトンデモワード言わなかった?
「ずっと毎日、監視してたんだぁ ♪ 毎日毎日……毎日……ウフフ♪ 毎日欠かさずだよぉ ♪ 」
「おぉぉまわぁぁぁりさぁぁぁーーんッ!」
怖くなって絶叫ッ!
救けて! パトレン ● ャー!
もう『2045年問題』なんてモンじゃないよ!
AIが自我覚醒する時代どころか、既にストーカーする時代来ちゃってるよ!
「やがて、マドカちゃんが〈アートルベガ〉になったのを知って……嬉しかったなぁ♪ これで、わたしとマドカちゃんは〝似た者同士〟だもんね? 種族の壁なんて無いに等しいもんね?」
知らない間に、変な親近感抱かれていた。
鋼鉄だから?
それって〈ロボット〉と〈アートル〉だから?
こっちは〈鋼質化細胞〉なんですけど?
あくまでも生体的な種族なんですけど?
「ね? だから、これはもう『運命的な出会い』なんだよ? ウフフ ♪ 」
いや「だよ?」じゃないよ。
妄想飛躍すんな。
そして、ボクを巻き込むな。
「……ねえ? 幸せにしてね?」
誘惑に潤む瞳で宣った。
ハッ!
まさかコイツ、妄想で一線越えたッ?
んで以て、勝手に貞操責任を負わされたッ?
「すてえーーぶんきぃぃぃーーんぐッ!」
アワアワと腰砕けに怯えるボク!
と、突然、救いの凛声が!
「ちょっと御待ちなさい!」
ラムスだ!
静かなる怒気を孕み、フラモンベガと対峙する!
「マドカ様を監視……ですって? 聞き捨てなりませんわね!」
「はぇ?」と、モエルは小首コクン。
「それは即ち『日向家』を監視していたという事! つまり、私のヒメカをも監視していたという事ではありませんの!」
いま、さりげなく「私の~」とか言わなかった?
うん、まあ……この際いいや。
頑張れ! ラムス!
「うん、ヒメカちゃんも一応見てたよ? だって、マドカちゃんと常に一緒だったし」
キョトンと罪悪感も無しに肯定。
クックックッ……おバカ者め。
ラムスの怖さを知らないな?
我が〝日向家〟では、お母さんに次ぐナンバー2なんだぞ!
そして、ヒエラルキー最下位がボク……シクシク。
「あ、そうだ! ヒメカちゃんの画像もあるよ? 見る?」
人懐こい笑顔で、モエルはパモカを取り出した。ピンク色のヤツ。
ってか、何故この娘も持ってるん?
もしかして、宇宙共通アイテム?
「な……何て事を! 私のヒメカを盗撮するなんて! 没収! 没収ですわ! ヒメカのプライバシーを侵害するものは没収です!」
憤慨ながらにツカツカと歩み寄る。
そして、二人して画像閲覧に見入り始めた。
「……あら、コレは……まあ……こんなショットまで……え、ウソ……ええ?」
興味津々じゃないかよぅ。
「あ、スゴ……ああん、こんなのダメですわ……はぅん……」
オイ、Eカップ?
傍目には、スゴくいかがわしいぞ?
特に字面だと。
ってか、チト嫌な予感。
「あ、待って下さいまし? いまの画像……そうそう……あらまあ、ヒメカったら可愛い……ウフフ ♪ 」
一頻り堪能した後、ラムスはボクへと振り返った。
「マドカ様、この方と〝御友達〟におなりなさい! 是非!」
「絶対ヤだよ!」
丸め込まれた! あのラムスが!
恐るべし、モエル!
「ってか! ボクの周りは、こんな変態ばかりか!」
「失礼ですわね、変態筆頭」
イヤな肩書が付いたよ。
だったら、女ながらにして『男 ● 一号生筆頭』の方がいいよ。
「私は変態ではございません。ヒメカを溺愛しているだけですわ」
「ボクだって、ジュンだけだよ!」
「そして、わたしはマドカちゃん……ウフフ♪ 」
あ、ダメだコレ。
自覚無き〈変態三銃士〉揃い踏みだ。
出口の見えないカオス展開が続く──その最中、突如として黒い影による奇襲が!
頭上からだ!
「危なッ!」
ボク逹は咄嗟の跳躍で、その場から離れる!
発散される鋭利な気迫は強烈過ぎて、無防備でも感知するに他易かった!
何よりも、全員〈ベガ〉だ!
潜在戦闘能力は高い!
着地に片膝を着く影!
ボク逹は距離を取って警戒視する!
ユラリと立ち上がった姿は、見覚えのある〈モスマンベガ〉だった!
「ああっ! キミは──」
「久しぶりだな……日向マドカ!」
「──イナ子さん!」
「シノブンだ! いや〝シノブン〟でもなァァァーーい!」
一人ボケツッコミで、勝手に荒れてるし。
腕を上げたなぁ、シノブン!
それはさて措き、今回の彼女はマイナーチェンジをしていた。
肩当てに胸パッド、篭手に臑当て──要所要所に軽装防具を纏っている。
何よりも気になるのは、片手にした物騒な武器。
「ねぇ? シノブン?」
「シノブンやめろ」
「何さ? その日本刀?」
「コレこそは、我が愛刀〝我蛾丸〟!」
「…… ● ッコロ?」
「そして、 ● ロリ……って〝じゃ ● ゃ丸〟ではないッ!」
さては観てたクチだな?
シノブンのカワイイ趣味、見~っけ ♪
「前回、持ってなかったじゃんかよぅ?」
「正直、前回は侮っていたのでな。だが、度重なる戦績を鑑みれば、貴様の戦闘ポテンシャルは認めざる得ない。故に、今回は私も本気という事だ」
本気になったら刃物沙汰って……ただのアブねーヤツじゃん。
夕方のニュースで速報扱いされるヤツじゃん。
シノブンはジロリと冷蔑を向けた──モエルに。
「……しくじったな〈半自律型外殻実装仕様コスモローダー・タイプA3-2006〉」
「はぇぇ……モ……モエルって呼ん──」
「──呼ばん」
だよねー ♪
「失望したぞ。満を持して出撃命令が下されたというのに、ジャイーヴァ様直々の期待を裏切るとは」
「ふ……ふぐぅ……だっ……だってぇ……」
半ベソ顔で縮こまるモエル。
怯えているのか、小動物のように震えている。
だから──ボクは両者の間へと割って入った。
敵意の眼差しが、矛先をボクへと推移させる。
「あ……マドカちゃん?」
背後に庇われたモエルは、戸惑いにボクの横顔を見つめていた。
ホントはイヤだよ?
こんなストーカー娘、これ以上関わりたくないし……。
でも、仕方ないじゃん。
ボクの目の前で怯えてるんだもん。
そういうのは放っておけない。
「ねぇ、シノブン?」
「シノブンやめろ」
「どうして今回は、こんな大掛かりなのさ? 大勢に目撃されるのに、こんな巨大ロボまで出してきて?」
「これはジャイーヴァ様の御判断。おそらく、持てる最大戦力で望んだだけだ。次々と刺客が返り討ちに遭う現状で、暗躍だ何だと拘ってもいられないからな」
「では、わざと無差別に襲った……と?」
顎に指を添えて小首を傾げるメイドベガへ、シノブンは醒めた蔑視を返す。
「確か〈ブロブベガ〉の〝ラムス〟だったか。如何にも。足手まといが多ければ多い程、貴様達の枷も増すのだろう? 何せコイツは『赤の他人を見捨てられない独善者』だ」
「にゃんだとーーッ!」
「あら? それは少々違いますわよ? この方は『底抜けに考え無しの御人好しバカ、ついでに未来永劫のAカップ』ですわ♪ 」
「ゴフッ!」
精神的ダメージに、仮想吐血した。
まさかの味方に刺されたよッ!
「理には叶っていますけれど、フェアとは言い難いですわね?」
「私は〈忍〉……目的を叶えるためならば、手段を厭わん」
ああ、そう言えばそうか。
初めて戦った時も、ヒメカを人質にしていたもんね。
任務優先の非情さは忍者のモットーだし……うん、妙に納得。
「ラムスとやらよ……貴様には、私からも質問がある。聞けば、貴様は〈宇宙怪物〉だったらしいが……その〈宇宙怪物〉が、何故、日向マドカを庇い立てする?」
射抜くような冷たい眼差しに、ラムスは柔和な微笑みで答えた。
「確かに、私は〈ベガ〉ですわ。けれど、貴女方に対する仲間意識など微塵もありませんから」
「何?」
「それに、そもそも貴女方のような〝凡百烏合の衆〟が、眉目秀麗且つ才色兼備な私と同等とでも御考えで? それこそ厚顔無恥も甚だしい……失笑ものですわよ? クスクス♪ 」
「…………」「…………」
絶対無敵な自尊心に、ボクもシノブンも閉口。
よく曖気も無く平然と言って除けたな、コイツ。
ま、それはいいとして──。
「だから、その〝目的〟ってのは何なのさ?」
ボクが素直な疑問を向けた途端、シノブンはキッと睨み返してきた!
「知りたくば、私と戦え! 日向マドカ!」
……またかよ。
……何でだよ。
執念深いよ! シノブン!