vs,SJK:vs,フラモン Round.2
屋上にて数時間経過──。
鉄柵越しから眺める情景は、すっかり夕焼け空に染まっていた。
フラモンは飽きずに、すってんころりんを続けている。
「で、どうしますの? このまま籠城していては埒もありませんわよ? それに一般生徒達の恐怖とストレスは計り知れませんし」
「ラムス、食べちゃえば?」
サラリと提案したら、恨めしそうな視線が返ってきた。
「私を〝大食い女王〟みたいに言わないで頂けます? そもそも、あれだけの鉄塊を何故食べなければいけませんの。美味しくもなければ栄養価も無いのに」
「鉄分豊富」
「……その白銀顔で言われると、妙な説得力がありますわね」
「でもさ、ボクの事は食べようとしたじゃんか?」
「食べようとしたのではなく、単に溶かそうとしただけですわ。ある程度戦闘不能になれば、廃棄物として吐き出すつもりでしたし」
「ああ、ガムみたいに」
「ええ、ガムみたいに」
「他人様をガム扱いすんなーーッ!」
「御自分で比喩なされたんじゃありませんか」
「んじゃ、それでいいよ! ラムス、や~~っておしまい!」
「どうしましたの? 急に奇妙な口調で? 何か悪い物でも拾い食いされました?」
「もう! そこは『アラホラサッサ!』と敬礼しなきゃ!」
「……知りませんわよ、バカ」
辟易と顔を逸らすし。
ってか最後、何か言わなかったかしら?
「ああッ? 冷たい! ジュンと違って冷たい! ツッコミすら無い!」
すると、空々しい温顔を繕って、こう返してきた。
「まあ、星河様はスゴイですわねえ? こんなバカバカしい事にもめげずに、いちいちツッコんでバカりいらして? 私には到底真似できない事ですわ。恐縮はバカります。このおバカさん♪ 」
……ラムス、それツッコミじゃなくて毒舌だ。
何回『バカ』って織り混ぜたか知らないけど、とりあえず、これだけは指摘しておこう。
「最後、何て言ったーーッ!」
「さて?」
オイ、ペロッと舌出してしてそっぽ向くな。
この性悪Eカップ。
「もう! とにかく、さっさと食べちゃってよ!」
「で・す・か・ら! 無理ですわよ!」
「何でさ?」
「貴女は〝タワー盛りのレバ刺し〟を二〇皿も食べられまして?」
「食べるに決まってるじゃん」
「……はい?」
「超お得だよ? それ?」
「ハァ……諭そうとした私が馬鹿でしたわ」
「何だよぅ? その溜め息は?」
進展の見えない押し問答が続く中、フラモンがすってんころりんをやめた。
内股に座り込んでジッとする様は、途方に暮れて呆けているようにも見える。
そして──!
「ふ……ふぇぇぇ~~ん!」
泣き出したし。
デッカイ図体して、子供みたいに泣き出したし。
ってか、大音量でウルサッ!
「ふぇぇぇええん! ふぇぇぇええん! えぐっえぐっ……ふぇぇぇええん! ふぇぇ……げほっげほっ!」
泣き過ぎて噎せてやんの。
ってか、さっきまでカタコト電子ヴォイスだったろ! オマエ!
まったく、何なんだコイツは?
「あらあら、泣かせてしまいましたわね?」
「う……うん……泣かせちゃったね」
「どうしますの? マドカ様?」
「いや、どうするって言われても……どうしよう?」
心底困惑した。
そりゃそうだ。
こんな展開、誰も予想してないよ?
「マドカちゃんがイジメるぅ~~! うわ~~ん!」
あのバカッ!
何をおおっぴらに名指ししてんのさ!
「マドカ? 誰?」「もしかして、あのセーラー服アンドロイドの名前かな?」「確かに、ちょっとやりすぎかもな」「限度が分かってないんだよなぁ~限度が……」
ほら見ろ!
校内中が騒然となったじゃんか!
ってか〝正義の味方〟扱いから〝ガキ大将〟扱いに評価転落ッ?
「あれ? そう言えば、ウチのクラスのマドカっち、いなくね?」「え? 巻き込まれた?」
一部が気付きだした。
「ウチらのグループは、あんま交流無かったけどさ? 憎めないヤツだったよな……」「うん、騒がしかったけどね……」「マドカっち、成仏してよね……南無南無」
死亡説まで出始めたしッ?
ってか、オマエら! 諦めんの早過ぎッ!
「えぐっえぐっ……マドカちゃんが……マドカちゃんが……うわ~~ん!」
「マッド母ちゃんが、どしたってーーーーッ?」
ボクはわざと絶叫し、強引な方向修正を謀る!
「え? マッド母ちゃん?」「お母さんに怒られたって事?」「ってかさ? 母ちゃんがマッドって事は、DVって事じゃね?」「あの子、可哀想かも……」「マドカっち、成仏してよね……南無南無」
うしっ! 作戦成功!
そして、最後のヤツ! 後日、絶対に探し出す!
「ひっく……ひっく……」
フラモン、ゲンコツで涙拭ってるし……。
「ったく! しょうがないなあ!」
頭をボリボリ掻きつつ、ボクは腹を決める。
「あら? 行きますの?」
動向を察したラムスが、分かっていながら声を掛けてきた。
「だって、ほっとくワケにもいかないじゃん。泣いてるんだし」
その返答を聞いて、ラムスは「クスッ」と微笑を含む。
「どこまでも……ですわね」
「ふぇ? 何がさ? どっかの線路? それとも『スー ● ー戦隊』のシリーズ数?」
「さて?」
またはぐらかしたな、性悪Eカップメイド。
ともかくボクは、鉄柵を乗り越えてグラウンドへと飛び降りた!
もちろん、向かうのはフラモンのトコ。
ツカツカと歩む中で──ずごしっ──後頭部に投擲攻撃が命中して撃沈……。
「誰だーーッ! ボクにゴミ箱投げつけたのはーーッ!」
ガバッと復活して校舎陣営に猛抗議!
すると、雨霰とばかりに物品が投げられてきた!
「これ以上イジメるなーーッ!」「可哀想じゃないッ!」「少しは反省しろーーッ!」
「アブねッ! アブねッ!」
目についた物を片っ端から投げてくる!
ゴミ箱──黒板消し──掃除バケツ──机──イス──鉄アレイ──────鉄アレイッッッ?
「おぶんッ!」
顔面直撃!
完全鋼質化じゃなかったら死んでるだろッ! コレッ!
「オマエらーーッ! どういう了見だーーッ!」
「いい加減、許してやれよ!」「そうよ! 泣いてるじゃない!」「オマエには血も涙も無いのか!」「鬼! 悪魔! セーラーウ ● トラマン!」
……ブーイングの嵐だし。
完全にアウェイ化してるし。
掌返しだし。
ってか最後のヤツ、武内 ● 子先生と円 ● プロに謝れ!
「別に取って食うワケじゃないよッ! 話を聞くだけだよッ!」
「あ、そうなん?」「何だ? じゃあ、いいよ」「さっさと帰ってもらってよね」
……やっぱ現金なのな、オマエら。
ともかく、ボクは気を取り直してフラモンの前まで歩き進んだ。
「ふぇ……ふぇぇ……」
泣き疲れて惰性でグズってるし。
オモチャ売場で、よく聞く声だな。
ボクは腰に両手を当て、強い語気で嗜めた。
「デッカイ図体して、ビービー泣くな! 少しは〝グレート・マジ ● ガー〟見倣え! 涙も流さなきゃ言葉も喋らないぞ!」
「えぐっえぐっ……ふぐぅ……」
なんとか泣くのを堪えるフラモン。
まったく、幼稚園時代のヒメカか!
「で?」と、ボクは叱るように切り出す。「どうして無差別強襲したのさ?」
「グスッ……だってぇ……」
「やっぱ命令されたのか?」
「……うん」
シュンと頷いた。
「ジャイーヴァに?」
「うん……マドカちゃんを捕まえろって言われたから……」
「で?」
「え?」
「……みんなに悪いと思わないのか?」
「はぇ?」
「無差別強襲なんかして、学校のみんなに悪いと思わないのかって言ってるの!」
「ふぇぇ……だって、命令で……」
「周りを見ろ!」
饅頭顔が、半ベソで周囲を見渡した。
ボコボコ抉れたグラウンドに、凪ぎ折られた植樹。校舎だって一部破損している。
あまりに荒れた惨状を認識し、ようやくフラモンは自分が大変な事を仕出かしたと実感したようだ。
「ふぇぇ……だって……だって、ジャイーヴァ様が『手段は選ばん』って言ったから──」
「言い訳の前に、まずはみんなに『ゴメンナサイ』でしょーがッ!」
躾にキレた!
ラーメン屋での五 ● さんのように!
「ふぇぇぇん! ごめんなさい! ごめんなさい! うわ~~ん!」
大泣きながらに校舎へと玉葱頭を下げる。
まったく! どんな教育してんだか!
ジャイーヴァのヤツ!
「ホントにゴメンナサイッ!」
気合いを入れて深々と頭を下げた──ボクが!
「マ……マドカちゃん?」
「……みんなが許してくれるまで頭上げんな」
戸惑いに凝視するフラモンへと小声で注意。
謝罪は誠意が大事だ。
暫く、気まずい沈黙が漂い──。
「ま……まぁ、いいんじゃねーか?」「う……うん、別にウチらに被害無かったしね」「とりま校舎とか壊れたけど……それって校長とかの案件だし?」「ってかコレって休校のパターンぢゃね?」「マジ? ヤタッ!」
口々に脱線しだす女子高生軍団。
そのテンションは、侵略被害に遭ったとは思えないほど明るい。
ホント現金なのな、オマエら。
だけど、それは無敵な強さだよ。
寛容に脱線した空気を察し、ボクとフラモンは静かに頭を上げた。
校舎内には普段通りの姦しさが賑わっている。
うん、普段通りだ。
何故だか誇らしさを覚え、ボクはフラモンへと軽くサムズアップ。
「あ、そうだ!」女子生徒の一人が、何かを思い出したようだ。「みんな、一緒に……せーの!」
てっきり〝正義の味方〟への謝辞でも言うのかと思いきや──ッ!
「「「「「日向マドカさん、成仏して下さい! 南無南無南無…………」」」」」
「全校生徒で合掌すんなやァァァーーッッッ!」
女子高生軍団は『御仏壇のは ● がわ』と化したとさ……。
と、今度は予期せぬ質問が飛んできた。
「ねえ? アンタ、何者なの?」
「ふぇ? ボク? えっと……えっとね?」
ホント要らない質問だ。
こっちは正体悟られたくないのに。
「そいつの仲間?」
隣の巨体を指して宣った。
「違うよ! コイツは〈ベム〉っていう宇宙怪物!」
「じゃあ、アンタは? 何が違うの?」
「え……っと」
改めて突き付けられると困るな。
「ねぇねぇ? 何が違うの?」
ボクの複雑な心境を余所に、好奇の質問は止まない。
「もう! しつこいな! ボクは〈SJK〉だよ!」
「「「「「高二なん?」」」」」
「違うわッ!」
全員息ピッタリに首傾げボケすんな!
いや、まぁ……無理もないけど。
「じゃあさ? それって何の略?」
追及されたボクは、気まずい躊躇にボソッと呟く。
「……宇宙女子高生」
「「「「「ダサッ!」」」」」
各教室が一斉にユニゾった。
……クルロリ、やっぱ不評です。
「ねえねえ? マドカちゃん?」
隣の鋼鉄巨人が、人差し指でボクの頭をチョンチョン。
「何さ?」
「わたし〈ベム〉じゃないよ?」と、指銜えポーズで饅頭顔をコクン。
「ふぇ?」
「わたし〈ベム〉じゃなくて〈ベガ〉なんだよ?」
「…………わあ、そりゃ驚いた」
そうきたか。
このデッカイ『山を砕く銀の城』みたいな図体して、ヌケヌケと〈ベガ〉ときたもんだ。
「ホントだよ?」
疑りシラケるボクの心境を察して、更に指銜えコクン。
「……言い張るか」
「だって、ホントだもん」
「言い張るか!」
「じゃあ、証拠見せるね?」と、フラモンはボクを正視したままガキョンガキョンと犬這いになった。
結果、深々とした土下座スタイルに纏まる。
愛嬌満載の饅頭面は上げたまま。
ってか、怖いよ! むしろ!
ボクの身長よりもある巨顔が、ドデンと眼前に据えられてるんだから!
で、ガションと顔面が開いた。
プシュウと溢れ出た気圧差が白い靄と垂れ流され……その中に彼女はいた。
お姫さまみたいな清楚系美少女!
ピンクのロングヘアがサラリと流れ、潤む瞳は母性本能を擽る。頼りなくも愛玩的な表情が、語らずとも「ちょっとドジっ子なの♪ てへ♪ 」なキャラクター性を現していた。
その肢体を覆うのは〝純白ロイヤルドレス〟ならぬ〝純白ムチムチボディスーツ〟──SFアニメでよく見るような肉感圧迫してるヤツ。
エロッ! こいつ、エロッ!
野郎イチコロ属性てんこ盛りじゃんか!
「ななななッ?」
驚愕するボクへ〈フラモンベガ〉は「てへ♪ 」と舌を出して頭をコッツンコ。
いらないよ!
そういう天然ブリッコな野郎イチコロモードは!
「ななななななッ?」
「貴女方が〈フラットウッズ・モンスター〉と呼んでいるUMAは、正式名〈半自律型外殻実装仕様コスモローダー〉──宇宙では種族間を問わずに普及している凡庸機体ですわ。とはいえ、ここまでの巨躯仕様や変形機能搭載は、私も初めて見ましたけれど」
驚愕収まらぬボクの背後から、ラムスが平然と解説する。
うん、いつの間にか背後にいた。
気配すら感じさせずに。
大方、地面からでも涌いて出たんだろう。
清水の如く。
まぁ〈液状生命体〉だから不思議でもないけど。
ってか、そんな事はどうでもいい!
ボクの驚愕は、意識を削がれる事無く継続中!
「ななななななななななッ?」
「マドカ様に理解し易く言うならば、別に〝搭乗型ロボット〟という解釈でも構いませんわよ? コンセプト概念は、それほど変わりませんし」
「何でロボットの中からGカップが出て来るのさァァァーーッ?」
「…………争点、そこじゃありませんわよね?」
ラムスの冷ややかなツッコミと同時に〈フラモンベガ〉は「いやん♪ 」と寄せ乳で恥じらった。
何故か、まんざらでもない照れ顔で。
おにょれ! このEとGめ!
オセロみたいに、Aを前後から挟みおって!
……ん? 待てよ?
オセロみたいに?
って事は!
「ひっくり返して! いっそ、ひっくり返して!」
ラムスの脚に縋りつこうと飛びつき──ズシャアァァァ──擦り抜けて顔面スライディング!
寸前で部分液状化しやがったな。
「……次、殺りますわよ? 私に抱き着くのは禁止です……ヒメカ以外は」
氷のような殺意満々で蔑んでくるし。
「ってか、愚妹ならいいのかよぅ!」
「ママさんもOKです」
「ボクだけ仲間外れッ?」
「あら? 当然でしょう?」と、悪意ある温顔でにっこり。
何コレ? 新しいイヂメッ?
ボクは口元を押さえ「よよよ」と泣き崩れる。
「うう、酷いよぅ……ジュンなら〝おさわりし放題〟なのに……」
『私を風俗嬢みたいに言うなーーッ!』
「ふぎゃぺれぽーーーーッ!」
パモカ放電のおしおき!
ああ、忘れてた……ジュンとパモカリンクしてたっけ。
「で? いきなり何ですの? 今回は、どんな思考に至ったか知りませんけれど……」
腰に両手を据えた嘆息で、ラムスが訊ねる。
「ひっくり返してくれたら、ボクも胸デカくなるじゃん!」
「……は?」
「デカくなりたい!」
「なりませんわよ」
……何気に傷つく言い種だな。
うん、でも、まぁ……さすがに『オセロ法則』が現実に適用されるはずもないか。
とか思いきや!
「貴女の胸は絶望的。それ以上の成長は見込めませんわ」
ぅおいッ!
「荒野」
「グサッ!」
「絶壁」
「グササッ!」
「草木も生えなければ憩いも無い死の砂漠」
「ぶるぉあぁぁーーっ?」
容赦ない毒舌攻撃にボクは死んだ……。
若 ● ボイスの悲鳴を吐いて……。
チーン ♪
私の作品・キャラクター・世界観を気に入って下さった読者様で、もしも創作活動支援をして頂ける方がいらしたらサポートをして下さると大変助かります。 サポートは有り難く創作活動資金として役立たせて頂こうと考えております。 恐縮ですが宜しければ御願い致します。