vs,SJK:ボクらのファイナルバトル Round.1
災厄の種は縛り上げた。ラムスが。
例の如く下半身を極太ロープに変化させ、グルグル巻きにしてある。
「ラムス、まるでギリシア神話の〝ラミア〟だね」
「私を怪物扱いしないで頂けます?」
いや〈ベガ〉って〝宇宙怪物少女〟の事じゃん──とか思いつつも、彼女を尊重して別な比喩を模索した。
「う~ん……じゃあ〝妖怪磯女〟で!」
「もっと失礼になりましたけどッ?」
全員揃って、床へと転がる変態グレイを冷蔑に見下す。
「さて、どうするかね? コイツ?」
「とりあえず情報を聞き出すのが優先ね」
「そうですわね。推測依存では辿り着けない不明要素も多々ありますし」
「ハァ……ハァ……」
急にジャイーヴァの呼吸が荒くなった。
おかしいな?
そこまでキツく縛り上げてないとは思うけど?
「メ……メイドと密着……」
「ひぃ!」
生理的嫌悪も露に、ラムスが自発的に解けた!
拘束から解放された途端、ジャイーヴァは大きく後方跳躍!
ボク達との距離を置いて高笑う!
「フハハハッ! 侮ってもらっては困る! 先程も言っただろう! 我が体質によって、君達は私に勝てないのだ! 決して!」
「随分な自信だね? 隠し弾があるっての?」
「いいや、美少女にイヂめられると萌えるからだ!」
「「「「ひぃ!」」」」
一瞬にして場の空気が凍り付く!
「萌えれば萌えるほど、我がテンションはアガる!」
「「「「ひぃぃぃ~~ッ!」」」」
もはや『凍り付く』を通り越して楳図る!
ボク達は見くびっていた!
コイツの真のヤバさを!
とんでもない変態だ! コイツ!
「さて、今度は私の番だね。どう可愛がってやろうか? クックックハラァァァーーッ?」
あ、無様に跳ねられた。
床を突き破って乗り込んできたドリル軽バンに。
「ナイス、クルロリ!」
ボクは思わずサムズアップ。
運転席が開くと、キュートな操縦者が降り立った。
「日向マドカ、概ね片が付いたので援軍に来た」
簡潔に報告したクルロリは、ヒクヒクと床に沈んだジャイーヴァへと臆せず近付く。
「気をつけて! ソイツ、とんでもない変態よ!」
貞操を危惧したジュンが声を掛けた。
「問題ない」
「気色悪かったら無理するなよ!」と、今度はボクからの忠告。
「問題ない。私はアナタ達のような性的忌避感を萌芽していない。従って対象が如何なる性癖であっても、私には意味を為さない」
「性的忌避感を抱いていないだと!」言葉の端を拾い、ガバッと復活する変態宇宙人。「それは理想的な──えぶらッ!」
またも吐血を描いて宙を舞った。
クルロリが無感情なコークスクリューアッパーを炸裂させたから。
「性的忌避感を萌芽していないとは言ったけれど、許容するとは言っていない」
顔色ひとつ変えず淡々と告げる。
地面へと降下する最中、突進してきた軽バンが人身事故の追い打ち。
そのまま機械壁へ「あべしッ!」と激突。
どうやら〈ジャイアントわたし〉同様の遠隔操作のようだ──ってか、怖ッ!
この子、敵に回すと怖ッ!
「異性密着が活力源となるなら、密着させずに畳み込めばいい」
いや、そうかもだけど……躊躇無いな、この娘。
満身創痍でボロボロながらも、ジャイーヴァはしぶとく身を起こした。
「グゥ……よもや乗物で間接攻撃とは……機械相手では萌えんではないか!」
悔しさを呪詛に乗せ、嘆きながらに床ヘッドバット。
「意外と有効だったわね。心身共に」
「うむ、宣言通り欲望に忠実なヤツだったな」
「そこはブレないんですのね」
「とことんド変態グレイだな……コイツ」
醒めて傍観しながら、ボク達は口々に呆れていた。
そして、変態は再び縛り上げられた。
ラムスが頑と拒否るので、今度は車内搭載された極太ワイヤーロープで。
ひとまず戦闘は終息したので、ボクも全身鋼質化を解除。
「ジャイーヴァ、アナタには訊きたい事がある」
淡々とした口調で、クルロリが尋問を開始する。
「……いいだろう。特別に教えてやる」敵意に睨めつけながらも、自ら口を開くジャイーヴァ。「推しメンは〝夏菜子〟だが、付き合うなら〝しおりん〟だ」
「訊いてないよ! 変態グレイ!」
ツッコむボクに反して、クルロリは動ぜずスルー。
「まず『どうやって〈ベガ〉を増産した』か」
「クックックッ……簡単な事だ。私自身が〈ベム〉の生息惑星へと赴き、アブダクションによって捕獲。その後〈ヒトゲノム〉移植の生体手術を施したのだ」
「なるほど。どうりで、私に転生時の記憶が無いはずですわ」と、ラムス
「だね。納得」と、同調するボク。「ってか、各個体づつ改造って……どんだけ手間だよ? 昭和特撮の〝悪の秘密結社〟じゃあるまいし」
「夢を実現するためなら、努力も労力も惜しまん!」
「しれっと〝夢〟とかに括るな! それも高校球児然と! オマエのそれは〝煩悩〟だ!」
「夢と煩悩は表裏一体! 紙一重!」
ダメだ、この変態グレイ。
妙な悟りの域へと達している。
「ですが、そもそも何故〈ベガ〉でしたの? 単にハーレムを築きたいのならば、特に生体改造を施す必要は無かったのでは?」
「逆に問おう、ラムス嬢。君は〝異能力美少女〟という存在について、どう思うかね?」
「はい?」
「可憐ながらも凛々しい姿……そして、男性にはグッとくる〝バトル〟というコンセプト! 最ッッッ高に萌えシチュではないか!」
「マニア向け深夜アニメの観過ぎだぁぁぁーーッ! オマエはぁぁぁーーッ!」
顔面を踏みつけてやったよ!
「くふぅぅぅうう!」
「足蹴にされて『くふぅぅぅうう!』じゃないだろ! ド変態!」
長嘆息を零したジュンが、げんなりと追及を続ける。
「じゃあ、どうして地球へ? それもラムスのような地球外生命体を、わざわざ連れて来てまで……」
「理由はふたつ──まず『私が用いる〈ヒトゲノム〉は、そもそも〝地球人〟の物である』という事がひとつ」
「地球人の? 何故よ?」
「君達〝地球人〟の〈ヒトゲノム〉は、他惑星の同型種族のそれよりも凡庸適応性に優れているからだ。これは試験済みだが……他惑星の人型種族の場合〈ベムゲノム〉の優性に負けてしまい、完全に呑まれてしまう。ところが、君達〝地球人〟の〈ヒトゲノム〉は辛うじて──それも、私が望んでいたフォルム性質のみが──残り、ゲノム融合によって〈ベガゲノム〉へと新生した。理想的な異形美少女になるのだよ」
「なるほど、合点がいった」と、クルロリ。「個体的能力が脆弱な分、アナタ達〝地球人〟は潜在生命力に特化している種族なのかもしれない。一部の異星人が〝異種交配目的〟でアブダクションするのも、そこに起因していると思われる」
この異説には、ボクも納得できた。
確かに地球人は〝科学準拠のガジェット〟が無ければ無力だ。自身で空が飛べるワケでもないし、鉄砲が無ければ野生化した家畜すら駆除できないもん。
その反面、繁殖力はハンパない。
人口増加率は深刻化の一途だし。
「つまり、前以て捕獲した〈ベム〉を地球の衛星軌道上で改造したって事?」
「如何にも、星河嬢。そして、もうひとつは『地球そのものを〈ベガ〉の惑星へと改造する為』だ。君達は自覚が無いようだが、地球は雑多な〈異形怪物〉の宝庫なのだよ。宇宙より来訪する〈ベム〉を始め〈UMA〉と称している未確認生命体も含めてな」
「素体とする〈異形怪物〉に、適合素材の〝地球人〟──材料には事欠かさないというわけですわね」
「まさか、地球を〈ベガ生産工場〉にする気だったの?」
「その言い方は色気が無いな、星河嬢。こう言ってもらおう……ようこそ〈ベガリパーク〉へ!」
──げしッ!
また顔面を踏みつける!
「バケモノはいても除け者はいないってか! いるよ! オマエだ! このド変態グレイ!」
「くふぅぅぅうう ♪ 」
……ヲイ、それ止めろ。
さりげなく語尾を「くふぅぅぅうう!」から「くふぅぅぅうう ♪ 」に推移するな。サブイボ立つから。
「では、何故〝日向マドカ〟へと固執していた?」
クルロリが更に問い詰める。
「それは、彼女が〝特別〟だからだ。私が生体改造を施したわけではない、見知らぬ〈ベガ〉だからだよ。おまけに、絶滅種族〈アートル〉だ! そんな稀少な〈ベムゲノム〉は、私とて入手できん!」
「その情報は承知している。日向マドカを生体改造したのは、他ならぬ私だから。我々が知りたいのは、その先」
「コレクターなら押さえておきたいだろう! 限定品は!」
「誰が〝イルクジG ● ョック〟かぁぁぁーーッ!」
間髪入れずに顔面への鉄拳をブチ込んだ!
うん、右腕のみ部分鋼質化を発現したので、文字通り鉄拳だ!
今度ばかりは悶える間もなく、変態グレイは「きゅう」とオチる。
「このまま宇宙空間へ放り出してやろうか! コイツ!」
ジュンに背後から羽交い締めにされながら、ジタバタジタバタと憤慨に荒れ狂い続けた!
「ちょ……マドカ! 落ち着きなさい! 一応、貴重な情報源なんだから!」
「情報を所持していなかったら、ただの〝ド変態ゲスグレイ〟だよ!」
「情報を持っていても、その通りですけれどね」と、他人事で構えるラムス。
と、徐にクルロリが、ボクの正面へとやって来た。
そして、ボクの顔と自分の掌を交互に眺める。
「な……何さ?」──ふにん──「ひゃあああぅ!」
いきなり揉まれた!
揉むほど無い胸を!
「落ち着いた?」
コクンと小首を傾げるクルロリ。
「落ち着くかッ!」
「おかしい? 過去の経験データに基づくならば、この方法で興奮が鎮まるという話だった」
「何処のどいつだ! んなガセネタ吹聴したのは!」
無垢な瞳が、不可思議そうにボクを指さす。
……あ、そっか。ボクか。
「事実、星河ジュンが興奮状態へと陥った際、日向マドカはこうしていた。でも、効果が無い……おかしい?」
ワキワキする手をジッと観察し、熟考に耽っていた。
この娘、やっぱ朴念仁?
「どう? 自分がされた気分は? 少しは反省した?」
勝ち誇ったかのような口調で、ジュンが嗜める。
「うん、こんな感じだった」
──ふにょん!
「ひゃあぁぁん!」
よし! いい反応!
やっぱ揉むなら、ボクのAよりもジュンのFだよね。
「舌の根も乾かない内から、どういう了見だーーッ!」
「おぶぅ!」
ビンタ炸裂!
「流す! 天の川に流す!」
「星河様、落ち着いて下さい! 一応、貴重な戦力ですから!」
「戦力を所持していなかったら、ただの〝セクハラオヤジJK〟よ!」
ラムスから羽交い締めにされ、今度はジュンがジタバタジタバタ。
朦朧とする意識の中でボクは至福を反芻。
「うう……有り難やぁ、育乳大明神様ぁ」
「まだ言うか!」
収集つかない姦しさで彩られた直後、機体がズンッと振動!
一瞬感じる浮遊感──それは一息遅れで顕現した!
ボク達の身体が、床から浮いた!
いや、ボク達だけではない!
その場に在る固定されていない全ての物体が、宙に浮いていた!
つまり、無重力の体現だ!
反して、周囲の環境は轟音を上げて振動している!
この異常事態に、ボク達は状況を察した。
機体が……降下している!
「ななな何さ? コレ?」
「おそらく反重力制御システムが機能停止した。このままでは月の重力に引かれて落ちる」
プカプカと漂いながら示唆するクルロリ。
うん、カワイイ。
ってか、アレ?
いま、トンデモ発言しなかった?
逆襲のシャ ● 大佐みたいな事言わなかった?
「まさか……我々が強攻的に突入した事が原因で、システムが破損したのでは?」
シノブンの指摘に、プカプカクルロリが見解を述べる。
「或いは考えられる可能性が、もうひとつ。タイミング的に、ジャイーヴァの意識が途絶えたと同時に機能停止に陥った。そこから推測するに、この母艦のコントロールシステムは、彼の思念とダイレクトリンクしていたのかもしれない」
「あなたのせいかーーッ!」
「おぶぅーーッ!」
渾身の逆恨みビンタが炸裂!
「確かに〝彼個人の支配王国〟ならば、理に叶った防衛策ですけれどね」と、他人事のラムス。
「クッ……」歯噛みを零しつつ、シノブンは手近なコントロールパネルへと取り付く。「マズイな……制御不能だ! このままでは月面へと墜落するぞ!」
「早くジャイーヴァを目覚めさせないと!」
ジュンの的確な指摘に、ボクは取るべき行動を起こす。
「そそそうだね! オイ、起きろ! 変態グレイ!」
黒マントの胸鞍を掴んで激しく揺らした!
「う……う~ん……」
「オイッてば!」
「長濱 ● るねるねってるか~い……」
幸せそう寝言で何を口走ってんだ? コイツ?
「起~き~ろぉぉぉ~~ッ!」
更に激しく揺らした。
「う~ん……あ……」おお、いよいよ目覚める兆し──と、思いきや。「ハムうどん、一丁! へい、お待ち! 萌えーーッ!」
「何だーーッ! オマエはーーッ!」
大外刈りで投げ捨ててやった!
「きゅうぅぅ……」
あ、しまった。
「ジャイーヴァの脳波がアルファ波からデルタ波へと推移。更に深い意識消失へ陥ったと思われる」
クルロリの分析を受けるや否や、今度はジュンがボクの胸鞍をガクガクガクガク!
「何やってるのーーッ! あなたはーーッ!」
「だってだってだってコイツがぁ~~!」
ツッコミどころ満載なんだもん──とは言えなかった。
さすがに今回の鬼気迫る叱責は、そんな事を訴えられる雰囲気じゃない。
「どうすんの! このままじゃ、わたし達全員お陀仏よ! この艦に搭乗している〈ベガ〉諸共!」
「星河ジュン、それは正しくない。日向マドカは〈全身鋼質化〉すれば、ある程度の衝撃でも生存が可能。彼女だけは生き残る可能性が高い」
「この薄情者ぉぉぉーーッ!」
「クマムシッ?」
ハリセンビンタが横っ面へと炸裂!
理不尽だ!
「クッ、やはりダメだ! どうしてもプロテクト突破できない! ジャイーヴァ殿の意識回復が必要だ!」
操縦制御に悪戦苦闘するシノブンが、焦燥と悲観を口にする。
『任せて! マドカちゃん!』
パモカから聞こえる救いの声!
モエルだ!
キャノピーガラス越しに宇宙空間を見ると、この母艦に取り付く〈ジャイアントわたし〉の勇姿が!
『フルパワーで押し戻す!』
パモカディスプレイに映し出されたコックピットで、凛とした表情のGカップが決意表明!
「できんのかッ? んな事ッ?」
『……分からないけど、やってみる!』
「ア ● シズの落下は始まっているのだぞ!」
『はぇ? ア ● シズ?』
「もう! 観てないの? 『逆襲の ● ャア』ぐらい!」
『う……うん』
「観とけよぅ? 『ガ ● ダム』シリーズの名作だぞ? あ、今度みんなで『ロボアニ鑑賞会』でもやる? オールナイトで?」
「どうでもいいわーーッ! この局面でーーッ!」
「アストナァァァーージッ!」
ジュンからの後頭部ハリセン!
しかも、質量設定高出力!
勢いよく慣性に吹っ飛ぶボク!
そして、無重力空間を溺死然と浮遊した……チーン♪
到底、絶体絶命な局面とは思えない賑やかさに、モエルは軽く「クス ♪ 」と微笑を含む。
『やっぱり大好き ♡ マドカちゃん ♡ 』
どんなタイミングで告ってんだ。
このストーカー娘。
『……ねえ、マドカちゃん?』
「痛ててて……ふぇ? 何さ?」
『その女子会──』
「うん?」
『──行けたら行くね?』
明るく向けた微笑みが、通信シャットアウトでディスプレイから消えた。
ってか、絶対来い!
片っ端からヲタ趣味に洗脳してやるから!