vs,SJK:ボクらのファイナルバトル Round.2
『グ……ウゥゥ……お……重いよぅ……!』
漆黒の巨大宮殿を押し戻そうと試みるモエル!
底面中央の巨大球体〈光速推進力発生メインコンバータ〉へと取り付き、スカートバーニアを最大出力!
だけど、如何せん体積が違い過ぎる。
単純に見ても〈ジャイアントわたし〉の凡そ八倍弱だ。
この比率は、素人目にも絶望的!
『グゥゥ……ガンバレわたし! ジャイアントわたし!』
自分への鼓舞を拠として、モエルは更に気力を振り絞る!
少しだけ──それは微々たる域だけど、確実な体感として──落下速度が弱まった。
けれど落下防止には、まだ遠い。
「やっぱり無理よ! モエル一人じゃ!」
刻一刻と迫るタイムリミットに、堪えきれない焦燥を吐くジュン。
「ですわね」と、相変わらずラムスは沈着冷静に同感。「せめて彼女が数機いれば、話は別ですけれど」
「それだ!」
ボクは起死回生を閃いた!
「シノブン! コントロール不能なのは、この艦の制御系統だけ?」
「どういう意味だ?」
「だから、通信系統とか格納庫系統とかは?」
「う……うむ、それは生きているが?」
「上等 ♪ 」
作戦遂行可能を知ったボクは「にひひ ♪ 」と笑った。
『ガンバレわたし! 負けるなわたし!』
孤軍奮闘で押し返し続けるモエル。
けれど、さすがにセルフ鼓舞だけでは、現実は覆らない。
『ふぐぅ……もう……ガンバれないかも……しれない……マドカちゃん……ゴメンね』
「お待っとさんでしたァァァーーッ!」
矢のようなスピードで飛来する〝初代宣伝部長〟の勇姿……じゃなくて、赤い〈フラットウッズ・モンスター〉の勇姿!
そのまま〈ジャイアントわたし〉の隣で、共に巨大宮殿へと取り付く!
約半分弱の体躯で一緒に支える姿は、宛ら〝親子フラモン〟にも映るだろう。
『え? その声……マドカちゃん?』
「うん、ボクだよ? 私が来た!」
某〝平和の象徴〟の如く、根拠なき自負を誇示!
ちなみに万一に備え、全身鋼質化は発現済み。言うまでもなく〈PHW〉も着用。
ビバ! 宇宙服要らず!
『どうして? ダメだよ! マドカちゃんも死んじゃうよ!』
「おい、コラ! 『死ぬ』って何だ!」
『え?』
「んじゃ、キミは死ぬ前提でやってたのか! 最初から、そのつもりで名乗り出たのか! このバカチンが!」
『だ……だって、そうしないとマドカちゃん達が死んじゃうもん! わたし、マドカちゃんには生還して欲しかったの! 大好きなマドカちゃんには!』
秘めたる想いを独白した事で、彼女の本音が堰を切った。
『マドカちゃんがいたから、いまのわたしがいるんだもん! 侵略兵器〈A3-2006〉じゃなくて〝モエル〟としてのわたしが萌芽したんだもん!」
……オイ、人聞きの悪い事を言うな。
それじゃ、ボクが〝ストーカープログラムの元凶〟みたいじゃないかよぅ?
「それにマドカちゃん達は〝人間〟みたいに接してくれた! 処罰され掛かった時だって、庇ってくれた!』
うん? 庇った?
庇ったけ? ボク?
暫し記憶を手繰り……ああ、アレか?
シノブンとの再戦時か?
いや、アレはキミじゃなくても庇っていたよ。
仮に〝野良イノシシ〟でも庇っていた。
何故なら、そういう性格だから。
後先考えず貧乏クジ引く性分だから。
でも……それがボクだ。
そんなヤンチャな自分が可愛い ♪ てへ ♪
『僅かな時間だったけど、みんなでジャレ合えた! バカバカしい事も楽しかった! 侵略兵器のままだったら、きっと体験できなかった! 感謝しても、しきれないよ!』
……スイマソン。
その〝バカバカしい事〟っての、ボクにとっては日常茶飯事です。
ってか、もはや日常そのものです。
『お願いだよ、マドカちゃん! 引き返して! ううん、その機体に乗ってるなら戦線離脱だって出来る! そうだ! ジュンちゃんやみんなも一緒に脱出すればいいんだよ! そしたら、マドカちゃんの大事な人も、全員無事だよ? ね?』
努めて明るい声色を繕って、何を必死にブッコいてんだ? コイツは?
うん、却下します!
「そしたら、この艦に乗ってる〈ベガ〉は、どうなるのさ! あのド変態グレイは!」
『マドカちゃんが犠牲になる事ないよ! みんな〝敵〟だよ? 関係ないじゃん!』
「明日には〝友達〟かもしんないだろ!」
『マドカ……ちゃん?』
「ああ、いや……あのド変態グレイは除くけどね?」
さすがに機体が悲鳴を軋ませてきた。
『マドカちゃん! その機体は限界だよ! 通常機だから、わたしより脆いの! お願い、早く離脱して!』
「友達見捨てて生還なんかできるか! そんなんしたら……今度はお母さんに、どんな殺人技で折檻されるか……ガタガタブルブル」
『お願いだから! このままじゃ、マドカちゃんまで死んじゃう!』
「死ィィィぬかァァァーーーーッ!」
悲観を叱責するかの如く、ボクは自信満々に雄叫んだ!
バーニア出力が上がる!
「勝手に殺すな! ボクの可能性まで! やってみなけりゃ分からないだろ!」
そう、だから〝マドナの激マズバーガー〟だって食う!
食ってみけりゃ分からない!
『無茶だよ!』
「やるだけやったら、どうにかなる!」
全エネルギー供給回路を、アームとバーニアのみに優先した!
先の『逆 ● ャア』で、今回と同じシチュになった〝ア ● ロ・レイ〟は言っていた──「たかが隕石ひとつ、ガ ● ダムで押し返してやる──人類に絶望なんかしていない!」と。
ボクだって、絶望なんかしちゃいない!
そんな暇なんか無い!
さっさと帰って、深夜バラエティ観たいから!
「モエル、いい事教えてやる! こういうシチュでこそ、人型ロボットは奇跡を起こせるもんなんだ! キミの先輩達は、どんな逆境でも覆してきた! 不屈の魂で!」
『せ……先輩? モエルの?』
「そうだよ! キミの先輩! 正義の味方だ!」
『モ……モエル、正義の味方なの? 地球制圧の為に造られたのに?』
「どうして生まれたかなんて関係ないよ! 何かを守ろうとする者が〈正義の味方〉って呼ばれるんだ!」
二体共々、一部外装が剥がれ落ちる!
『マ……ドカちゃん? どんな先輩がい……るの? クゥッ! 教……えて?』
とてつもない重圧を踏ん張りながら、モエルはボクを頼った。
うん、ようやく〝友達〟を頼ってくれた。
だから、ボクは……深呼吸の一間に気合を溜める!
「いいよ、教えてやる!」
普段培った趣味が──周囲から白い目で見られても続けていたヲタ趣味が、誰かの為に役立つなら『はい、喜んで』だ!
いくぞ! ヲタ趣味全開でッ!
「鉄人 ● 号! ジャ ● アントロボ! マ ● ンガーZ! ゲッ ● ーロボ! ラ ● ディーン! コン・ ● トラーV! ボル ● スⅤ! ラ ● ジンオー! エクス ● イザー! ガオガ ● ガー!」
『グウ……ゥゥゥ……ほ……他には?』
抗う苦悶にねだられて、ピー音の大出血サービス!
「ガイキ ● グ! 鋼鉄 ● ーグ! ザン ● ット3! ダ ● ターン3! ゴッド ● ーズ! ゴーショー ● ン! ブ ● イガー! ダン ● ーガ! ゴールドラ ● タン! ダル ● ニアス! ゴラ ● オン! ビクトリー ● イバー! バイカ ● フー! GERA戦士 ● 童! ゴーダ ● ナー! イ ● サーロボ! レイ ● ース! エリ ● ル! 龍 ● 丸! グ ● ディオン! シン ● リオン! そして、コ ● ボイ司令官ことオプティ ● ス・プライム!」
『ホント……だ……モエルの先輩、いっぱい……いっぱいだね?』
パモカ越しの声音が、仄かな涙声になっていた。
きっといま、彼女は生まれ変わった事を実感したのだと思う。
侵略兵器から〝自分自身〟へと!
「まだまだいるよ! もっと教えてやる! だから、ガンバレ! そして、一緒に帰るぞ!」
『うん……うん!』
奮起の決意!
ダブルフラモンのバーニアが、更に出力を上げた!
『まったく……こんな時でも男の子趣味全開なのね、あなたは』
「ジュン?」
青い〈フラットウッズ・モンスター〉が飛来した!
いや、青だけじゃない!
緑も! 紫も!
『日向マドカ、ヒョイヒョイと死地へと赴いてくれるな! 貴様に死なれたら、私が〈エムセル〉のプロセス情報を得れなくなる!』
紫の機体が辟易と釘を刺す。
「シノブン!」
『相変わらず無策無鉄砲で恣意的ですこと……マドカ様らしいと言えば、それまでですけれど』と、緑の機体。
「ラムス!」
『日向マドカ、遅くなった』
パモカからは作戦指揮官──クルロリの声が!
「もう! 遅いよ、みんな!」
『仕方ないでしょ! 私、こんなの初めて操縦するんだから! これでも最小限の技能講習だけで出撃したんだからね!』
『私の美観に叶う機体が、なかなか見つかりませんでしたので……』
『そ……その……羽根がな? 羽根がコックピットへ収まらなくて……だな?』
口々に言い訳を並べる。
ってか、最後の二人!
後で正座な!
『マ……マドカちゃん? コレって?』
戸惑うモエルへ、ボクは朗々と告げる。
「だから『死ぬ気無い』って言ってんじゃん? 一人で無理なら二人! 二人で足りなきゃ三人! 個人個人が〝可能性〟を秘めてるなら、それが集まれば〝無限の可能性〟になる! それが〝友達〟のスゴさだ!」
『クサいですわね?』
『うむ、聞いてて恥ずかしいな……』
『っていうか、マドカがマトモな教示とかして大丈夫でしょうね? とてつもなく不吉なんだけど?』
パモカから流れてくる揶揄。
そこ、ウルサイよ!
『日向マドカ……アナタの作戦を実行するに当たり、今回は私が全体指揮を取る──それでいい?』
「よかよかダンス ♪ 」
『では、各機、フォーメーションへと移って』
『『『「了解!」』』』
クルロリからの指揮を受け、四色のフラモンが分散飛行!
各機が取り付くべきは、底面四方に据えられた球体ユニット──即ち〈光速推進力発生コンバータ〉だ!
「モエル! キミは中央のデッカイ球体を!」
『……え? あ、うん!』
フォーメーションは済んだ!
ここから第二段階だ!
『各機、バーニアのエネルギー供給回路を〈光速推進力発生コンバータ〉へと外部接続して』
指揮官の指示に従い、各フラモンが腰部から動力パイプを引っ張り出した。
そして、ウィンウィンと奇音を鳴く発光球体の一部パネルを開き、緊急差し込み口を露出させる。
「こんな御都合的な接続口、よく有ったなぁ?」
ボクの素直な感嘆に、クルロリが補足説明を添えた。
『本来はエネルギー出力値低下の際に、他ユニットから供給フォローしてもらう為の応急処置用』
『此処に差し込めば、いいわけね?』
ジュンの確認を『そう』と肯定。
『エネルギー流動方向を逆転させ、この膨大なエネルギーをアナタ達のバーニア出力へと転化する。その大出力なら、落下質量を双殺可能』
『しかし、大丈夫だろうな? 光速エネルギーだぞ? 万ヶ一、暴発されたらシャレにならんぞ』
『胡蝶宮シノブ、その為に私が此処にいる。客観的観測から全体の数値データを逐一算出把握し、各機の出力限界値まで的確に光速エネルギー供給値を調節する』
『貴女の技量、信頼して宜しいのですね?』
『いい』
クルロリに断言されると、何故だか不思議と自信が溢れる。
作戦実行前なのに、もう成功確定したみたいな安心感だ。
みなぎってくる可能性に任せて、ボクは気合を叫んだ!
「よぉぉぉし、いくよ! みんな!」
『ええ!』『はいはい』『……フッ』
「死なば諸共ォォォーーーーッ!」
『『『不吉な号令するなぁぁぁーーーーッ!』』』
怒気られた。
ここぞとばかりに一斉に……。
何だよぅ?
士気アゲようとしただけじゃんかよぅ?
斯くして、作戦実行!
五機のフラモンが、スカートバーニアから白い大花を噴き咲かせる!
その白く眩くも長い尾は、まるでウェディングドレスの如く!
『ク……ウッ! 信じる……信じているもの……クルロリを……マドカを!』
『ま……まだ死ねませんわよ! 私の手料理で……ヒメカを笑顔にして差し上げなければいけませんの!』
『と……止まれ! 否、止めて……みせる! 猫カフェにも行けないまま終われるか!』
『マ……ドカちゃん……みん……な!』
「グ……ウッ! ナ……ナメンな! ボクの……ボクたちの青春は──」
闇から振り下ろされる暴圧の拳を、宇宙の花嫁達が希望に押し返す!
「──いつだって全力全開だぁぁぁぁぁーーーーッ!」
そして────。
五機のフラモンを礎として、巨大宮殿は鎮座した。
規格外の重石を満身創痍に背負い耐える鋼鉄乙女達は、神罰を下されながらも尊厳を守り抜いたかのように誇り高い。
灰色の荒野へと降り立った四人のセーラー服少女達は、その亡骸を感無量に見つめる。
あ、訂正。
一名だけブルマ体操着だったっけ。
「……付き合ってくれて、ありがとね」
宇宙光に輝く白銀を朽ちた巨体へ向けて、ボクは素直な感謝を呟き漏らした。
「それにしても、よく止まったわね」
不意にジュンが、いつもの抑揚で事後感想。
うん、きっとわざとだ。
沈んだ空気を打ち消すために。
「うむ、流石の私も、正直生きた心地がしなかったが……」
シノブンは朽ちた巨影を眺め続けた。
その武勇に哀悼を捧げるかのように……。
如何にも〝戦士気質〟の彼女らしい。
「ま、クルロリ様がバックアップに付いていらしたから、然して心配はありませんでしたけど……」近場の岩へと腰掛け、ラムスは『おかずをクッキング』を読み始めた。「……もっともマドカ様の発案だけでしたら、絶対に乗りませんでしたけどね。地獄逝きの片道切符ですもの」
「どういう意味だーーッ! この性悪豊乳メイドーーッ!」
「さて?」
ペロッと小舌を出して、小悪魔的にはぐらかす。
このヤロー、帰ったら覚えてろよ?
出されたおかず、全部食っちゃるからな!
ヒメカに回す前に!
と、巨大フラモンのハッチがプシュウと白い呼気を吐いた。
開いたコックピットから飛び出して来たのは、Gカップのプリテンドフォーム!
「マドカちゃ~~ん!」
「うわっと?」
勢い任せに抱き着かれ、そのまま押し倒される。
──ガンッ!
「ぎゃおす!」
慣性を加味したタックルで、後頭部を打ったよ!
灰色の岩盤に!
「いッッッたいな! モエル!」
「……生きてる……」
「うん?」
抱擁に寄り添う頭が、か細く漏らした。
「……生きてるよぉ……わたしも……マドカちゃんも……みんなも……生きてる……生きてるよぉ……」
「だから、最初から言ってんじゃん! 死ぬつもりなんか無いって!」
「ふぇ……ふぇぇぇぇぇん! ふぇぇぇぇ…………」
子供みたいに泣きじゃくる。
ったく、仕方ないなぁ?
ボクはあやすように撫でてあげた。
彼女の気持ちが落ち着くまで……。
「えぐっ……えぐっ……マドカちゃん……」
「……何さ?」
「ふぐぅ……お礼に……好きなだけ揉ませてあげるね?」
「絶対ヤダよ?」
「シクシク……感謝のつもりだったのに……」
「シクシク……丁重に辞退します……」
「二人揃って泣き崩れるなーーッ! 鬱陶しいーーッ!」
ジュンのツッコミ怒声!
パモカハリセンが後頭部を叩き抜けた!
うん、ボクの後頭部だけ……何故ッ?
モエルはッ?
モエルは御咎め無しッ?
「ああ、やっと面倒な役目から解放されましたわ ♪ 」
本家ツッコミ役の健在ぶりに、ラムスがホッとした様子で呟いた。