vs,SJK:vs,フラモン Round.4
グラウンドは、再び異能バトルの戦場と化した。
得意の空中戦能力を奮うシノブン!
だが、この前とは戦況が違う!
独り舞台にはさせない!
何故なら、今回は〈PHW〉を着ているから!
ボクはヘリウムバーニアの機動性を活かし、四方八方からヒット&アウェイ!
「チィ! 小賢しい!」
忌々しそうに舌打ちするシノブン。
凪ぎ払いに刃を振るも、一向に掠る気配すら無かった。
けれども、それはボクの攻撃にしても同じか。
手数を出せども、未だ有効な一撃は入っていない。繰り出す鉄拳も、全て微々たる体捌きで紙一重に回避されてしまう。相変わらず、実戦的な戦闘技量の差がある。
「シノブン! どうして、そんなにボクへと固執するのさ!」
「貴様には分かるまい! 自分が如何に〝特別〟かを自覚していない貴様にはな!」
意味分からん。
何だ? ボクが〝特別〟って?
「ラムスとかいう〈ブロブベガ〉といい〈A3-2006〉といい!」
ああ、やっぱ〝モエル〟とは呼ばないんだ?
「とりわけ腹立たしいのは、貴様だ! 然も当然のように!」
憤慨任せの横凪ぎ一閃!
本能的に察知したボクは、緊急離脱で距離を取った!
安全確保も束の間、呪怨宿すシノブンの瞳力が爛々と赤色発光!
それは、つまり〝ルー ● ーズ大先生〟の御登場って事!
「ぎゃーーす!」
降臨なされた!
ナイスガイなサムズアップで!
超電磁眼の直視を喰らい、ボクは無様に墜落!
濛々たる土煙を噴き上げて地表へと沈んだ!
「マドカちゃん!」
安否を案じたモエルが遠巻きに呼び掛ける。
その声を活性力に、ボクはダメージから這い起きた。
「ぐ……う……ッ!」
地表へと降り立ったシノブンに、再び身構える。
かと言って、間合いに飛び込むのは躊躇した。
だって、ピリピリと殺気立ってるんだもん。まるで凄腕の浪人みたいだ。
「警告しておくが、貴様の硬度は解析済みだ」
「ふぇ? 解析?」
「アレの外装に使用されている〈金星産金属ヴィシウム〉の前では、然しもの〈エムセル〉も歯が立たなかったようだな」
流す視線でフラモンを指す。
「なるほど……その情報収集も兼ねて〈フラットウッズ・モンスター〉を投入したのですわね?」
「分析観は鋭いな、ラムスとやら。その通りだ。戦闘データを即時解析して、刀身素材を同金属へと差し替えた。我が居合いを兼ねれば、最早〈エムセル〉とて斬り捨てられるぞ」
「そんなの文字通り〝付け焼き刃〟じゃんか!」
ボクは虚勢を吠えつつも、内心では焦りを抱いた。
何だかんだ言っても、ボクが無茶をできるのは無敵の硬度を誇る〈エムセル〉有りきだからだ。
それを切断される危険性が確定してしまっては、さすがに後込みをしてしまう。
(迂闊には仕掛けられない……か)
叶わぬ反撃に焦れる。何も出来ない。
と、不意に美声が割り込んだ。
「では、私が御相手致しますわ」
「ラムス? キミはダメだよ!」
「仕方ありませんわよ。見ていられませんもの」
対峙する慧眼が敵意を向ける。
「〈ブロブベガ〉の〝ラムス〟……敵に絆されるとは、恥れ者が」
「別に絆された覚えはありませんわよ? そもそも、この〝胸ペッタン〟に肩入れする義理はありませんし」
ヲイ、この豊乳メイド。
「けれど──」一呼吸の間を置いて、彼女は清々しく言い放った。「──この地球には、私のスウィーツファンがいらっしゃるものですから」
「……よくも嘯く」
興醒めとばかりに吐き捨てるシノブン。
ま、彼女には分からないだろうな……この〝ひとりぼっちの異邦人〟が応えたいものは。
さりげなくボクを背後に庇い立つと、ラムスは相手に気取られない小声で囁いた。
「マドカ様、私が仕掛けた後で間髪入れずに攻撃を……」
「何か策あんの?」
「いいですか? これから何が起ころうとも、決して動揺せずに……」
イヤな予感が過ぎる。
まるで死亡フラグみたいな台詞だ。
「ちょ……ちょっと待ってよ?」
戸惑うボクへ、彼女は淡く微笑むだけ。
儚さを孕んだ愁いで……。
静かに刃を収めたシノブンが、腰を落として柄へと手を掛けた!
典型的な居合い斬りの構えだ!
「参る!」
瞬発!
巨大な蛾の羽根が地表を滑り飛ぶ!
「受けて立ちますわ!」
右腕を小斧と変質させたメイドベガが、それを正面から迎え討った!
「ちょっと待てってば! ラムス!」
斬撃を交わして走り抜ける両者!
──静寂が吹き抜けた。
「ふぅぅ……」
「ぅぁぁあああぁぁぁーーっ!」
呼気整える剣客の背後で、メイド少女の身体が真っ二つに斬り崩れる!
「ラ……ラムスゥゥゥーーーーッ!」
悲痛な絶叫を上げ、ボクは駆け出していた!
彼女の意向を実行するためじゃない!
溢れ滾る激情のままに!
仮に何人であっても、いまのボクを止める事は出来ない!
「よくもラムスをーーッ!」
繰り出す拳に怒りを乗せる!
無慈悲なる刺客は、それさえも涼しく達観した。
「逆上任せとは……あの雑魚も無駄死にだったな」
「雑魚なんかじゃない! ボクの家族だぁぁぁーーッ!」
大振りな軌道を微々たる動きで避わすモスマンベガ!
けれど、ボクは形振り構わず繰り出し続けた!
繰り出す!
繰り出すッ!
繰り出すッッッ!
当たる気配がしない。
全て紙一重で回避されている。
まるで駄々っ子とプロボクサーだ。
それでも、ボクは繰り出す!
「隙だらけだ」
眼界から敵の姿が消えた!
本能的な直感が視線を落とす──巨大蛾は腰を低く落とし、ボクの懐に潜り込んでいた!
「あぐっ!」
顎に強い衝撃を受け、ボクの足が地面から浮く!
「如何に〈鋼質化細胞〉が外的ダメージに対して無敵といえど、内部浸透ダメージはそうでもあるまい」
氷の眼差しが嘲る。
脳味噌が鈍く苦悶した!
弾き上げた刀の柄尻を突き上げ攻撃と転じたようだ!
それだけで、この威力!
以前、同様の攻撃を受けた事があったけれど、その時は苦無だった……今回は得物が違う!
日本刀のガッチリした造りのせいか、重いダメージが浸透した!
意識が白くなり掛けた刹那──「マドカちゃん! しっかりして!」──モエルの声援がボクを呼び醒ます!
「んにゃろ!」
根性で体勢を押し戻した!
空中ヘディング宛らに上半身を折った瞬間、冷酷な殺気と目が合う!
「終わりだ」
間髪入れずに煌めく抜刀!
「終わらない!」
横凪ぎの刀身を、条件反射任せに鉄拳で迎え打った!
「ダメだよ! マドカちゃん!」
モエルの戦慄を受けて、先刻の警告を思い起こす──「我が居合いを兼ねれば、最早〈エムセル〉とて斬り捨てられるぞ」
(しまった!)
だけど、刹那的な攻防に体勢を立て直す暇など無い!
鋭利な凶刃が餓獣の爪と斬り掛かる!
(クソッ! 侭よ!)
──パキン!
あ、折れた。
ボクの腕、無傷なのに……。
「何? 我が宇宙刀が!」
「もらったぁぁぁああーーっ!」
動揺を突いて拳を振り抜いた!
渾身の鉄拳制裁がクリーンヒット!
「グアッ!」
殴り倒されたシノブンは、そのまま地面に沈黙した。
息はある。
意識が果てただけだ。
例え相手が誰だろうと殺すのはイヤだ。
誰かが死ぬなんてイヤだ。
なのに──「何だよ、この勝ち方は……」──憤りを嘆き零す。
とことん後味が悪かった。
虚脱のままに折れた刃身を摘み拾う。
よくよく観察してみれば、腐食に刃こぼれしていた。
原因はブロブの付着滓だ。
「この為に先鋒を買って出たっていうのか……」込み上げる感情をグッと堪え、悲嘆を吐き捨てた。「ラムスのバカ……ヒメカに何て言えばいいんだよ」
「バカのくせに『バカ』とは失礼ですわね。勝因に貢献して差し上げたというのに」
「だって、こんな勝ち方なんて望んで……うん?」
聞き慣れた声に、ハッと顔を上げる。
ラムスがいた。たおやかに掌を振って。
両断されたメロンゼリーが結合して、メイドさんを再生している。
「生きてたんかーーっ!」
悲喜交々が混然となった感情が噴き出したよ!
「ゲル体質ですもの。斬られたぐらいでは死にませんわ」
完全再生を終え、しゃあしゃあと宣う。
「騙したんか! 敵のみならずボクまで!」
「人聞きの悪い事を言わないで頂けます? 別に『犠牲になって死ぬ』とは言ってませんけれど?」
しれっと微笑む小悪魔。
冗談じゃないぞ!
絶ッッッ対、納得できない!
だから──「生きててくれて、ありがとう」──ボクは小憎らしさを愛しく抱き締めていた。