父が死んだ 1
2020年10月24日、父が死んだ。その日は、母の誕生日だった。母にとって、誰からも「おめでとう」と言われない初めての誕生日だっただろう。
始まりは一本の電話だった。10月22日の夜9時頃、3人いる姉の内、姉②から電話がかかってきた。ふだん、そんなに連絡を取り合う家族でもないし、姉②からの電話は覚えている限り初めてだったし、夜の9時に電話かかってくるなんて、プルプル鳴るスマホの液晶に姉②の名前を見た瞬間、何かしらの予感はあった。電話の向こうの姉②は、涙声だった。「あのね、お父さんがね、、、」なんて言ったか、はっきり覚えてないけど、父が倒れて意識がなく命も危ないという話だった。
私には、子どもが3人いる。7歳、5歳、2歳だ。平日の真っ只中の夜に「父が危ない」と聞いても、車で10時間くらいの距離が離れている実家にすぐに行くことはできないと思った。とりあえず「夫に相談する」と言って、電話を切った。動揺はそんなにしていなかった。現実味がなかったのだ。子ども3人を夫に任せて、翌日に飛行機で実家まで帰ることを想定しながら夫に相談すると、夫は「今すぐ車で行こう。俺が運転する。」と言ってくれた。それと同時くらいに、今度は母から電話がかかってきて、「早くおいで」と言う。母の声は震えていた。これはもう急いで行くしかない。慌てて服などをスーツケースに詰め込み、子ども3人をベッドから抱えだして、車に乗り込んだ。喪服を持っていくことも頭をよぎったが、そうなってほしくないという思いと、まさかねという思いで、持っていくのは止めた。寝ていた子ども達は、起こされたことと車内の狭さに不満をもらし、その後なかなか寝付けなかった。私は、週末の予定や子どもの予定の変更を、必要な人に連絡しつつ、意外にも落ち着いていた。
お父さん、死ぬんかなぁ。
コロナ禍で、移動を控えていた私達。会ったのは、一年前だった。