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『Ninja of Four』 the band apart

レコ発ツアーのスタートにアルバムの完成が間に合わず、何ならツアーセミファイナルの直前にアルバムがリリースされる、そしてこれらの事情について「妥協したくなかった」と語る、the band apartはそんなバンドだ。

こだわりが強くてマイペースで、演奏している音楽はオシャレなんだけど、歌詞をよく聴くと素朴だったりどこかダサさを感じたりもする。

私は彼らを熱狂的に追いかけてきたわけではなく、バンドの歴史やメンバーの人となりもそこまで詳しくない。そんなライトなファンからしても、新譜を聴くたびに年々アップデートされているなという新鮮味と、やっぱり裏切らないなという安心感を感じる。

この感覚を本当にうまく表していると感じたのが、ドラムスの木暮さんが最近投稿していたnoteの一節だ。

願わくば地元にずっとある、定食が週ごとに替わる洋食屋のような存在になれたら良い。

https://note.com/eiichi_kogrey/n/n5aacdf220118

まさに言い得て妙である。

なれたら良いというか、もう既に確固たる地位を築いているはずだ。仮に同世代のアジカンやテナーやACIDMANが、ミシュランに載る中華料理店やイタリアンやステーキハウスだとしたら、バンアパはミシュランに載らずとも食べログで3.5点以上は稼ぐ名店だろう。もしくは、食べログにすら情報を掲載していないかもしれない。

言いたいことは、近所の洋食屋さんのようにただマイペースに営業して、いつも裏切らないクオリティで定期的にメニューを更新してくれる彼らの存在は、唯一無二だということだ。

「せっかく『Ninja of Four』というアルバムを出したし、彼らの風貌も加味したら、和食屋でもいいんじゃないか?」とか初めは野暮なことを考えたが、この表現は洋食屋だから成立するようだ。何故なら洋食屋って行く前にけっこうワクワクするから。

改めて、7/13リリースの『Ninja of Four』は、どこかノスタルジックで夏の夜を感じさせるような、この季節にピッタリの傑作だ。

M1「夏休みはもう終わりかい」は、イントロこそ怪しげでどこか不穏なアンサンブルから始まるものの、その後はゆったりと爽やかなメロディを中心に展開が広がっていく。良い曲だなーで終わるかと思ったらアウトロにまたカオスを持ってくる。アルバム一曲目から6分超えとはなかなかチャレンジング。

夏の夜のような、蒸し暑くもないし涼しいわけでもない、どこか生温い特有の空気感をこの曲から感じるのだが、その空気がアルバム全体を覆っているように感じる。

シームレスに続くM2「The Ninja」は、M6「SAQAVA」と並んで新たなキラーチューンとなりそうなナンバーだ。

地を這うようなベースラインからハンドクラップを皮切りに畳み掛け、伸びの良いコーラスで爆発させる王道。かと思いきや、ラテンパーカッションを織り交ぜていたり、かっこいいコーラスの入りで実は "We are funky 雑草 in the night" とまさにファンキーな歌詞を歌っていたり、一筋縄ではいかない。とにかく聴いていると体を揺らしたくなる。

「SAQAVA」は曲名や歌詞を一旦無視したら突き抜けるほどに爽やかで疾走感溢れる曲だが、あからさまに "酒場" について歌っている。"たまになぜか ノーリーズン休み" という歌詞は、個人経営なら確かに多いよなとか共感せざるを得ない情景だけど、同じことを思ったとしてもこんなユニークな歌詞に起こせるのは彼らしかいない。

「SAQAVA」から続くM7「酩酊花火」がアルバムの個人的ハイライト。曲のテンションは「夏休みはもう終わりかい」に近く、美しいギターフレーズで始まった後は、怪しげなベースラインが曲を引っ張り、所々で各パートがピタリとハマるのが心地良い。何より、言葉を敷き詰めながら歌った末に訪れる、 "咲いて" と "酩酊" の余白たっぷりなリフレインがとにかく秀逸。

余白繋がりで言うと、M4「オーバー ザ トップ」のような彼らの鉄板スタイルとでも言えそうな曲も、音を詰め込みすぎない、音像の余韻で魅せる演奏が新しい。だからこそ、余白を感じた後のドラムとギターが暴れ出す間奏のセッションがより際立っていてかっこいい。 "夜の街" と歌っているところは某曲のセルフオマージュにも聴こえる。

ギターの川崎さん原案らしいM5「キエル」とM8「bruises」は、ここからがコーラスパートといった明確な切れ目がなく、淡々と進行していく構成だ。この緩いテンションもアルバムの作風に大きな影響を与えている。M3「アイスピック」は、初めの印象こそあまり強くなかったが、ライブでは演奏に合わせて冷たい青から暖かいオレンジへ照明が移り変わる光景が見事だった。

アルバム全体を見てもいくつかの楽曲の歌詞で "ゲーム" という単語が出てきたり、M9「夕闇通り探検隊」といったタイトルを付けたり、彼らの音楽は子供心や遊び心に溢れていることも改めて感じた。You Tube でゲーム実況してるくらいだから間違いない(ちなみに下記で実況しているゲームは初見だったが、バレットタイムが本当に面白い)。

全ては "粋じゃないだろ" という歌詞に繋がるのだろうか。彼らが粋だと思うものをひたすらに突き詰めているだけ。アルバムの完成がツアー開始に間に合わないのも、そんな職人気質があってのことだ。

アルバムを締めるのはM9「夕闇通り探検隊」かと思いきや、ダブルエンディングのような形でM10「レクイエム」が続く。この、終われる曲で終わらないスタイルも良い。

「レクイエム」にも "ゲームのボタンは油まみれ" というフレーズが出てくるが、彼らが思い出させてくれる泥臭い青春と、それでもあの頃には戻ることのできないというノスタルジーと、それらの心情を傍らに置いて "Don't you worry, we'll see you there" と歌ってくれる包容力にどこかウルッと来て幕を閉じる。

冒頭の洋食屋の例えに戻ると、彼らが提供してくれるのは、真似したくなるんだけど決して誰にも真似できない料理だ。オープンしてからかなり経っているが、いつも新鮮でこだわり抜いたメニューをファンのもとに届けてくれる。もうしばらくは地元で愛される名店のまま突き進んでほしい。

世はフジロックの真っ只中だが、またバンアパのワンマンライブにも行きたい。ツアーセミファイナルの豊洲PIT終演後アナウンスを聞くところ、どうやら正真正銘のレコ発ツアーをやってくれるかもしれない。気長に待つこととする。

#thebandapart


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