労働判例を読む#260

【福屋不動産販売事件】大地判R2.8.6労判1234.5
(2021.6.4初掲載)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、不動産会社Yを解雇された元従業員3名(X1~X2)が解雇の無効を主張し、未払賃金等を請求した事案です。裁判所は、Yの同業他社に転職し多くのYの従業員を引き抜き、引き抜こうとしたX1とX2の請求を否定しましたが、従業員優待制度で購入した不動産を、禁止されているのに転売しようとしたX3の請求は否定しました。

1.X1とX2
 X1とX2は、裁判所が認定しただけでもかなりの数の従業員を引き抜こうとし、引き抜きをしました。
 様々なエピソードが問題となり、X1とX2は、いずれも引き抜きではないと主張していますが、裁判所はそれぞれのエピソードについて経緯や証言の合理性を丁寧に検証し、多くのエピソードについて引き抜きであると認定しています。特に、引き抜きを受けたけれども結局転職せず、Yに残った従業員の証言のように、明確にX1やX2の証言と異なる証言がある場合だけでなく、X1やX2と同じ会社に転職した従業員数名についても引き抜きの結果であるかのような前提で、勧誘の悪質性の根拠の一つとしています。事実認定の問題として見ると、多数のエピソードが証明されたことが、明確な証拠がない案件も引き抜きの結果と推認させることにつながっているのです。
 ここで特に注目されるのは、転職のための言動全てを違法としなかった点です。
 すなわち、転職後の会社の店舗探しだけであれば解雇相当ではないが、これと共に従業員の引き抜きなども合わせると、「解雇の相当性判断の一事情として考慮する」としている点です。店舗探しという行動が、解雇事由に含まれたり含まれなかったりするという状況は、一体どっちなんだと思う状況ですが、単体では違法性の程度が低くても他の事情と一緒になると、それぞれがバラバラに評価されるのではなく、相乗効果によって違法性の程度が重く評価される場合があるのです。
 これは、例えば不適切な言動の個数が何個以上あれば違法か、というチェックリストのような問題ではなく、この判決が示したような相乗効果も含め、総合的に評価されるものであることを意味します。

2.実務上のポイント
 他方、X3の解雇は無効とされました。
 X1とX2の言動は、未遂に終わった部分(Yの経営陣が慰留して転職を阻止できた従業員)も含めて考慮するとYの経営を揺るがすほど重大な問題である、と裁判所が評価していますが、これに比較するとX3は、従業員優待で安くなった差額だけしか影響がなく、しかも結局転売せずにその住居に実際に居住している、という違いがあります。
 会社の従業員に対する処分の有効性が争われる場合、会社側の事情、従業員側の事情、その他の事情(特にプロセス)が代表的な判断枠組みとなりますが、このうちの会社側の事情には、このように会社経営に与えるインパクトの大きさも、重要な要素として含まれることになるのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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