労働判例を読む#203
【北海道・道労委(札幌交通・新賃金協定)事件】札幌高裁R1.8.2判決(労判1222.117)
(2020.11.27初掲載)
この事案は、タクシー会社Yに4つある組合のうち1つの組合に所属する従業員Xらが、賃金規程の改定に応じていない組合員Xらに対してだけ、旧賃金体系を適用し、協定外残業の禁止・公休出勤の要請なし・シフト変更不同意、などの対応を示したことが、不当労働行為(労組法7条1号)に該当する、と主張したものです。
裁判所は、Xらの主張を否定しました。
1.実務上のポイント
1審に続けて2審も、Xらだけに不当な影響を与える意図があったのではない、など、主にYの意図を中心に検討を行い、不当行為該当性を否定しました。
この中で特に注目されるのは、新規定適用に同意していないのは、当該組合員のXら以外にも存在した点です。特定の組合員を不利益扱いする「意図」の否定となるのです。もし、当該少数組合の組合員だけが、新規定適用対象外であれば、不当労働行為の「意図」がなかったことの説明は、より困難になったように見えます。
複数の組合があったり、従業員の一部だけが組合を構成していたりすると、制度改革に際して従業員全員の同意を得られないまま、見切り発車することも発生しえます。その際、当該組合員だけが残された状態になってから対応することは、不当労働行為の「意図」のないことの説明が難しくなることが懸念されます。つまり、労働委員会や訴訟で負ける可能性が他化盛ると思われます。
さらに、実際に少数組合の従業員に与える印象としても、自分たちだけ除け者にされ、追い込まれた、という意識を抱く可能性が高まります。つまり、トラブルの発生率も高める可能性があります。
制度改革の途中で、少数組合の反対があって導入が遅れる場合、見切り発車するかどうか、その場合、どのようにするか、ということを考える場合に参考になる裁判例です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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