労働判例を読む#534
※ 元司法試験考査委員(労働法)
【竹中工務店ほか2社事件】(大阪高判R5.4.20労判1295.5)
この事案は、二重業務委託・請負に基づいて竹中工務店Y1で働いていたXが、Y1と、Y1の業務委託先だったY2に対して、直接雇用関係の存在などを主張した事案です。悪質な偽装派遣の場合には、派遣法40条の6により直接雇用関係が成立し得ますが、1審2審いずれも、偽装派遣を認定したものの、同条の適用を否定し、直接雇用関係の成立を否定しました。
特に2審では、二重偽装請負の場合に派遣法40条の6が適用されるのかどうか、偽装目的があったかどうか、について、1審と結論は変わりません(いずれも否定)が、より議論が深められています。
1.二重偽装請負
悪質な(例えば、偽装目的がある場合のような)偽装請負の場合に派遣法40条の6が適用されるのですから、より手の込んだ二重偽装請負の場合には、当然に同条が適用されるべきである、というXの主張にも、一理あります。
けれども裁判所は、この主張を否定しました。
それは、二重偽装請負の問題は立法過程で認識されていたのに、それを派遣法40条の6の中に規程していないこと、同条は全てをカバーするのではなく、同条がカバーしない問題は職安法で規制されるべきこと、等が根拠とされています。
さらに、派遣法40条の6が労働法の規制の中で異質であることからも、理解できます。
すなわち、労働法では形式上適法な外観を取り繕っても、実態に即して規制する傾向があります(サービス残業や名ばかり店長など)。そうすると、偽装請負の場合には、請負の概観があっても実態が派遣であり、したがって派遣関係として規制される(派遣法が適用される)のが、労働法の一般的な規制になるはずです。ところが派遣法40条の6は、むしろ実態に反する規制をあえて行います。すなわち、派遣関係が生じる、とする(これが実態に即した姿)のではなく、それ以上に派遣先にとって厳しい内容となりますが、直接の雇用関係が生じる、という規制になっており、実態に合わない規制となるのです。
このように、実態以上に厳しいルールが強制的に適用されることを、いくつかの裁判例が「民事制裁」と表現しています。2審も、「民事的な制裁を科す」と表現しています。
そうすると、このような制裁が適用されるべき範囲は、あらかじめ明確に示されていた範囲に限って、限定的に解釈されるべきです。刑事処分に関する「罪刑法定主義」、すなわち予め定められていた場合でなければ刑事処罰すべきではない、という考え方が、この場合にも同様に適用されるべき状況にあるはずです。
このような意味で、2審が「民事的な制裁を科す」と敢えて表現したことは、派遣法40条の6の適用範囲を、その文言(さらに立法過程)を超えて拡大すべきではない、という考え方を示しているように思われるのです。
2.偽装目的
偽装目的については、二重偽装請負の派遣先のY1だけでなく、一時的な偽装請負先のY2についても問題にあります。
ここで注目されるのは、偽装請負状態にあることだけでは偽装目的が推定されない、と明言している点です。一部の下級審判決は、偽装請負状態にあることで偽装目的を推定しているような内容のものもあり、それとは異なる解釈(ルール)を示した、と評価できます。2審は、偽装かどうかの判断は微妙で難しいから、わざわざ偽装目的が必要と定めたので、簡単に偽装目的を推定できない、という趣旨の説明をしています。
次に注目されるのは、実際にこの目的が否定された理由です。
Y1については、労基署から是正を勧告された後、これを受け入れて直ちに見直しをしたこと、Y2については、二重派遣の場合の偽装目的について、十分議論されておらず、判断することが困難であったこと、が主な理由とされています。
派遣法40条の6の適用に関し、偽装目的の有無が問題にされた裁判例が多いので、今後もこの点が重要な論点になる場合が多くなりそうですが、その際、Y1に関する判断のように、偽装請負を受け入れた後の会社側の対応や、Y2に関する判断のように、規制内容が明確でない点も考慮される、という点が参考になります。
3.実務上のポイント
その他にも、合意退職が成立したかどうか(成立したと認定)、不法行為が成立するかどうか(成立しないと認定)、も問題とされました。
偽装請負が問題にある事案で、どのような問題が生じるのかを理解するうえでも、参考になります。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!