労働判例を読む#527
※ 元司法試験考査委員(労働法)
【学校法人札幌国際大学事件】(札幌地判R5.2.16労判1293.34)
この事案は、大学Yと対立してた学長Fと共にFに対する批判的な言動をした教員Xに対し、懲戒解雇をし、定年後再雇用をしなかったことなどについて、いずれも無効である(したがって、教員の地位にある)ことだけでなく、不当な懲戒解雇が不法行為に該当するとして損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、Xの請求を概ね認めました。
1.懲戒解雇の有効性
懲戒解雇の理由として、Yは4つの理由をあげました。すなわち、①留学すべき日本語の能力の足りない留学生を多数入学させていたYの方針を非難する記者会見をFが行った際、Xがそれに同席していたこと(X自身は何も発言をしていない)、②ツイッターでYの政策などを批判する発言を14通上げていること、③外部理事にFが意見書を渡す場に数回立ち会ったこと、④5年間65回の教授会に8回しか出席しなかったこと、です。
このうち、①③は、単に同席していて消極的にFを支援していたにすぎないこと、②は、一般人から見て発言内容がYに関するものであると特定されないこと、④は、健康上参加が難しいことがYに伝えられていて、人事考課上もこれを問題にされたことが無く、むしろ5段階の4.7など高評価だったこと、が、それぞれの主な理由です。
Yとしては、①~④いずれもXの敵対的な態度を顕著に示す言動であり、これ以上一緒に働けないことが明らかになった、ということでしょうが、それが実際にYの運営に影響を与えていない以上、懲戒解雇は重すぎる、と評価されたのでしょう。特に、懲戒解雇は多くの会社で一番重い処分で、本事案でもそうですが、退職金が支給されないなど、経済的なインパクトも大きいことから、そのハードルはより高くなります。
少なくとも、ハードルの高い懲戒解雇が有効となるためには、単に「扱いにくい」「反抗的」などの態度だけでは足りない、と評価される一例と言えるでしょう。
2.再雇用拒否の有効性
定年後再雇用は、新たな雇用契約の締結であり、既に締結されている雇用契約を解消する懲戒解雇と、前提が逆です。したがって、懲戒解雇が無効であっても、再雇用拒否が有効と評価される理論的な可能性は否定できません。
しかし、Yの就業規則では、①従業員が希望すること、②懲戒事由・解雇事由に該当しないこと、を条件に定年後再雇用することが定められています。
これを前提に裁判所は、①が認められることから、上記のとおり②懲戒事由・解雇事由がないとして、再雇用拒否を無効と評価しました。
就業規則の規定により、懲戒解雇の有効性と再雇用拒否の有効性の問題が連動する状態になっていたのです。
3.実務上のポイント
実務上、懲戒解雇が不法行為と評価された点(損害額は50万円+弁護士費用5万円)も、留意すべきポイントです。
他の裁判例には、例えば解雇や降格などの人事上の処分が違法・無効であっても、それなりに理由があったうえでの処分であれば、損害賠償責任が発生しない、と判断したものがあります。労働判例誌で、本事案の次に紹介されている裁判例(【グッドパートナーズ事件】(東京高判R5.2.2労判1293.59))も、雇止めの事例ですが、雇止めは無効としつつ、損害賠償請求は否定しました。
それと比較すると、本事案では上記1で検討したように、合理性がかなり低いと評価されたのでしょう。両者の境界は曖昧で、結局、程度の問題であり、本事案からその境界を見極めるヒントも見当たりません。
けれども、会社が懲戒解雇をする際は、それが無効と評価され、職場復帰させるべき状況になってしまうリスクだけでなく、損害賠償請求が認められるリスクもある、ということが示された事例です。
※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。
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