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労働判例を読む#358

今日の労働判例
【東リ事件】(大阪高判R3.11.4労判1253.60)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、メーカーYの製品の一部の製造を請け負っていた業者の従業員Xらが、Yとの間に直接雇用契約があることの確認などを求めた事案です。
 Xらの主張は、派遣法40条の6の1項5号の規定、要約すると、(A)偽装請負等の目的で、(B)偽装請負等がされれば、その会社から直接雇用の申し込みがあったとみなされる、という規定を根拠にします。つまり、Xらは当該業者を介してYで働いていたけれども、これは請負を偽装し、派遣法の適用を免れようとしていたものだ、だから同条項号が適用される、したがって、YからXらに対して直接雇用の申し込みがあり、これを承諾したXらは直接雇用関係にある、と主張するのです。
 1審(神戸地裁R2.3.13判決(労判1223.27、労働判例読本2021年版384頁)はXらの請求を否定しましたが、2審はこれを概ね認めました。。

1.判断枠組み
 ここで2審は、労働者派遣と請負の区別に関する公的な基準(行政解釈)を参照しています。厚労省の示す行政解釈や指針を、訴訟において、抽象的な規範の判断枠組みとして活用することは、例えば労災に関する精神障害や脳・心臓の疾患などの事業場外の認定についての判断基準のように、よく見かけられることです。
 そして、大きく分けて2つの判断枠組みに整理され、検討されています。すなわち、①自社従業員を自ら直接利用しているかどうか、②請け負った業務を自ら処理しているかどうか、という2点です。①は、労働者の側に注目した判断枠組みです。すなわち従業員に対する指揮命令は、派遣の場合には派遣先の会社が行い、これに対して請負の場合には請負業者が行います。請負として、請負業者自身が指揮命令を行うのですから、発注者が指揮命令を行わないことの裏返しになります。②は、会社の側に注目した判断枠組みです。すなわち誰の業務を処理するのか、という観点から見た場合、派遣の場合には派遣先の会社の業務を処理しますが、請負の場合には請負業者の業務であり、その成果が請負会社から発注先に納品されることになります。請負として、請負業者自身の業務を遂行するのですから、発注者が業務処理しないことの裏返しになります。
 ここで1審は、概ねこれと同様の判断枠組みを用いています。強調しているポイントが少し異なります(強調する点が少し異なります)。具体的には、同条項や当該告示を要約した4つの要素、すなわち、❶事業者自身が業務指示等を行っているか、❷事業者自身が労働時間等の指示・管理を行っているか、❸事業者自身が服務規律・配置等を行っているか、❹事業者自身が注文者から独立して請負業務を処理しているか、を判断枠組みと設定しています。
 1審の方が、判断枠組みを柔軟に設定している面があります(行政解釈をアレンジしています)が、これは論点を整理する裁判所の権限の問題であるため、この事案に関して言えば、判断枠組みの違いだけで実際に大きな差が生じているわけではありません。

2.事実認定と評価
 けれども、2審と判断を分けたのは、1審が契約形態などの外形を重く見た点にあると思われます。
 すなわち1審では、誤解を恐れずに大きく整理すると、❶~❹について請負業務としての契約形態やルールが存在することを認定し、逆に派遣のような要素も多少はあるかもしれないが、請負業務性を否定するほどのものではない、という評価をしています。請負か派遣か、という二者択一ではなく、両者の要素が混在する中でどちらの要素がより本質的で重要か、という総合判断がされています。
 これに対し2審では、総合判断という点では同様ですが、より運用の実態を深く掘り下げて検討しています。
 たとえば、事業者自身による業務指示について2審は否定していますが、それは、単に形式的に事業者からの業務指示のためのプロセス(事業会社とYとの間での打ち合わせと、それに基づく内容の指示など)が設定され、そのように運用されていたとしても、その指示内容に事業会社固有のノウハウなどが含まれていない点まで掘り下げて、このプロセスが形骸化しており、実態はYが直接指揮命令していた、と認定しています。
 これまでともすれば、事業会社が指示を出したり管理したりするためのプロセスが整い、それが実際に機能されていれば、その内容まで深く吟味せずとも事業会社固有の指揮命令が認められるかのような認識や運用があったかもしれません。けれども、2審はそのようなプロセスだけでなく、そのプロセスの中で実際にどのような内容の指揮命令が、誰の判断で行われているのかまで踏み込んで検討しています。
 今後、誰が指揮命令をしているのか、誰が使用者なのか、等の判断に際し、派遣先と派遣元の関係性やプロセスだけでなく、その具体的な中身まで考慮する必要性が高まるでしょう。

3.実務上のポイント
 指揮命令の問題など、派遣にならないように請負を偽装しているかどうか、という問題については、実態を重視する「労働者性」の傾向などを考えれば、2審の判断も理解できます。
 けれども、派遣法40条の6の1項5号の構造に関わる問題について、このような判断を機械的に当てはめるだけで良いのか、という問題は議論が必要でしょう。
 すなわち同号は、実態が「派遣」である偽装の場合に、法律の規定により、「派遣」を飛び越して「直接雇用」という法律関係が発生します。実態に合致した法律関係を作り出すのではなく、実態を超えてしまい、むしろ実態に合致しない法律関係を作り出してしまうのです。2審は、これを不当な偽装を行った会社に対する「民事的な制裁」であり、これにより主観的な要件である「目的」について、偽装請負の事実からこの目的を推認するわけにはいかない、としています。
 とは言うものの、このような偽装請負が日常的・継続的に行われていれば、原則として「目的」が推定(推認)される、としました。
 同号の定めるルール、すなわち派遣でない状態が偽装された場合に、実態である「派遣」ではなく、それを飛び越した「直接雇用」の関係が作り出される場合として、日常的・継続的な偽装請負、という条件で良いのかどうか、ルールとしての在り方が議論されるべきでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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