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労働判例を読む#595

今日の労働判例
【協同組合グローブほか事件】(最三小判R6.4.16労判1309.5)

 この事案は、外国人技能実習制度上の管理団体となっているY組合に勤務していた者Xが、Yに対し、未払賃金の支払いなどを求めた事案です。論点は多数に及びます(例えば、記者会見がYに対する名誉棄損に該当するか、など)が、最高裁は、その中でも事業場外勤務としてみなし労働時間制度が適用されるかどうか、という論点について、2審の判断を否定し、再審理させるために事件を差し戻しましたので、その点を検討します。

1.判断枠組み
 労基法の規定を確認しましょう。太字傍線白丸数字は、私が挿入しました。

第三十八条の二
 労働者が労働時間の全部又は一部について①事業場外で業務に従事した場合において、②労働時間を算定し難いときは、③所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。

 ここで特に問題になったのは、②労働時間を算定し難いとき、の判断です。
 まず、この②の解釈方法については、一審二審と最高裁の違いはなさそうです。
 すなわち、一審二審は、②について、「阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件」(最二小判H26.1.24労判1088.5)を引用し、「業務の性質・内容やその遂行の態様・状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときはその方法・内容や実施の態様・状況等を総合して、使用者において労働者が労働に従事した時間を把握することができるかどうかとの観点から判断する」としましたが、最高裁はこの点について、何も異論を示していないからです。
 けれども、これに基づく具体的な評価について、最高裁は一審二審の判断を否定しました。
 すなわち、まず最高裁は一審二審の判断を、次のように整理しました。それは、❶業務日報によって業務の遂行の状況等につき報告を受けていること、❷その記載内容をYが確認でき、ある程度の正確性が担保されていること、❸実際、Yも業務日報の記載に基づいて残業手当を支払う場合もあり、業務日報の正確性を前提としていたこと、を理由に、②労働時間を算定し難いときに該当しない、という判断をした、と位置付けたのです。
 これに対して最高裁は、❹Xの業務が多様(訪問指導、送迎、通訳等)であり、休憩時間を設定する時間帯も自由に決定していたから、Xの勤務の状況を具体的に把握することは困難だった、❷‘現実的に業務状況を他社に確認できるかどうか明らかでなく、❸’業務日報の記載だけで残業代を支払っていたわけではなさそう(Yの主張を検証していない)である、という理由で、「業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情を十分に検討することなく、業務日報による報告のみを重視」した判断であり、違法、としました。
 ところで、阪急トラベルサポート事件では、旅程が先に定まっていたことも重要なポイントとされています。すなわち、同じ業務日報であっても、阪急トラベルサポート事件の場合には、既に詳細に定められていた旅程が実際に消化されたかどうかを事後的に検証するものであり、副次的なものと評価できそうですが、本事案では、Xが自由に定めるスケジュールの内容が、業務報告によって初めて明確になるのであって、業務日報が重要な位置を占めます。
 けれども、業務日報の事後報告だけで②労働時間を算定し難いときに該当しない、と言い切っているわけではないので、業務日報だけでも②に該当する可能性が残されています。
 このような状況から、最高裁は、(根拠となる資料の種類を問わず)阪急トラベルサポート事件と同程度のレベルで業務内容を特定できれば、②に該当せず、特定できない場合には、②に該当する、という判断を示したように思われます。

2.実務上のポイント
 阪急トラベルサポート事件と本事案と比較すると、書類の種類が決定的ではなく、事前にスケジュールが定まっていたのか、そうではないのか、という点に違いがある、という点を強調すれば、②については、例えば、スケジュールや業務内容について、裁量が広ければ、②労働時間を算定できないに該当する、という考え方もあり得るでしょう。
 けれども、この制度の本来の趣旨から考えると、裁量の有無や広さが問題ではありません。
 というのも、例えば直行直帰の業務形態の従業員について、その時間を管理することが現実的でないから、時間管理をしなくてよいようにするための制度と位置付けられますが、そうだとすると、裁量の広さは問題になりません。
 とはいっても、そうすると、業務内容を詳細に把握されるかどうか、という点(すなわち、阪急トラベルサポート事件と本判決が重視する点)も、本来は問題にならないはずです。
 このように掘り下げていくと、業務上外のみなし労働時間制がそもそもどのような制度なのか、という点も視野に入れて、判断枠組みを考えるべきではないか、という指摘もできるでしょう。
 今後の議論の動向が注目されます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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