労働判例を読む#172

「日本郵便(北海道支社・本訴)事件」札幌地裁R2.1.23判決(労判1217.32)
(2020.7.24初掲載)

 この事案は、北海道内で営業指導を行う業務を行う広域インストラクターXが、1年半、100回以上の出張旅費の不正精算を行い、50万円以上を不正に利得したとして、会社Yから懲戒解雇されたところ、懲戒解雇が無効であると争った事案です。裁判所は、懲戒解雇を有効と判断しました。

1.背景事情

 Xは、様々な主張をしていますが、特に注目されるのは、使途や金額です。
 Xは、道内各所での人脈づくりや交流のために、土産の持参や飲食などにお金をかけていましたが、H27に手当が変わり、出張旅費などの不正受給に手を染め始めました。
 その手口は、自動車を使ったのに公共交通機関を使ったことにして、52万円余、クオカードが上乗せされた宿泊費の精算により、クオカード代2万円余、などであり、手口も金額も「しょぼい」ものです。
 しかも、その使途は、本人曰く、道内各地の同僚との懇親費や、宿泊として認められない地域での宿泊費など、インストラクターとしての業務に使った、とのことです。裁判所は、使途を重視していませんが、営業担当のビジネスマンにとってみれば、営業先との交流のためにこのような支出が必要であり、そのための手当てを削ったのだから、会社は少し大目に見たらどうだ、と感じるところでしょう。しかも、不正取得した金額は返納し、これまで懲戒処分などを受けたこともありません。
 けれども、裁判所は、人を指導し、範となるべき立場である(成績優秀者だった、など)ことを重視し、懲戒解雇に相当する悪質性を認定しました。

2.実務上のポイント

 金額の多寡だけ見れば、50万円余でも懲戒解雇が有効になるのだ、と安易に評価すべきではないでしょう。
 というのも、本判決に先立つ仮処分手続きでは、1審が同様に懲戒解雇を有効としたものの、2審がこれを無効としたうえに、この判決も控訴され、2審での判断が示される可能性があるからです。
 さらに、優秀な成績だったことからインストラクターとしての栄誉が与えられ、他の従業員の範になるべき立場にあることが重く見られています。
 世界的に見ても、賄賂に対する厳しい流れが強くなっています。この裁判例が示しているものは、親しみやすい人間関係よりも、倫理的に尊敬されるべき姿によって、指導し、リードしていくことが求められる、という新たな時代に必要な価値観でしょうか。

労働判例_2020_04_15_#1217

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!



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